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がんと遺伝子~乳がんからひも解く病気と治療~ 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

がんと遺伝子 ~乳がんからひも解く病気と治療~

日時:平成27年12月19日(土)午後1時30分〜午後3時

場所:杏林大学三鷹キャンパス 大学院講堂(第2病棟4階)

講演者:井本滋(杏林大学医学部教授)


 平成27年12月19日(土)杏林大学公開講演会「健康寿命延伸」講座「がんと遺伝子 乳がんからひも解く病気と治療」が本学三鷹キャンパスにて行われた。講演者の本学医学部外科学教室乳腺外科井本滋教授は、慶應義塾大学医学部卒、慶應義塾大学病院、日本鋼管病院、国立大蔵病院、足利赤十字病院、国立がんセンター東病院などを経て、本学医学部外科学教室乳腺外科教授に着任した。


・「がんと遺伝子 乳がんからひも解く病気と治療」

『がんの治療を決定する上で、最も重要なのはがんの性質です。がんの病理学的診断に加えて、がんに関連する遺伝子の異常や発現を調べることが日常診療で行われています。乳がんでは、最初の治療法を決めるためにER(イーアール)、PR(ピーアール)、HER2(ハーツー)、Ki(キー)67の発現を調べます。また、乳がん、卵巣がんの多い家系では、遺伝性腫瘍外来でカウンセリングを受けていただいた上で、BRCA(ブラカ)1,2の遺伝子変異を調べます。乳がんを例に、がんにおける遺伝子の役割と治療への応用について解説します。』

 がんは遺伝子の病気であり、個々の細胞の遺伝子異常が積み重なり、正常な機能が失われる。乳がんは女性のがんで罹患率が最も高く、罹患者数は8万人を超えて12人に1人が患う。40歳代と60歳前後でなりやすいが、5年生存率は92%と予後は極めて良好である。危険因子には早い初潮や遅い閉経による女性ホルモンへの曝露が長いことや未経産などがある。乳がん検診には視触診、マンモグラフィ、エコーがあり、40歳以上の方は2年毎のマンモグラフィ検診を受けることが望ましい。マンモグラフィでは、対称性、しこりの有無と性状、石灰沈着の有無と性状によってC-1からC-5までのカテゴリー分類される。近年、がんの治療法を決めるために遺伝子異常や発現を調べることが日常的に行われている。乳がんでは、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、ヒト上皮細胞増殖因子2型受容体(HER2)、細胞周期関連核タンパク質(Ki67)の発現を調べる。乳がんが検診等で発見された場合、遺伝子解析に基づき、ルミナルA、ルミナルB、HER2、トリプルネガティブに分類され、特徴に応じて内分泌療法、化学療法、抗HER2療法を組み合わせて治療を行う。抗HER2療法ではトラスズツマブやペルツズマブなどの分子標的薬が用いられる。
 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)は、乳がん全体の5%から10%を占め、乳がん感受性遺伝子(BRCA1とBRCA2)変異が知られている。BRCA1およびBRCA2は常染色体優性である。BRCA1陽性乳がんはトリプルネガティブ型で約6割を占め、BRCA2陽性乳がんはルミナル型で約8割を占める特徴がある。HBOCは特徴的な表現型を占めるもののみの診断であったが、多遺伝子検査によってリスク評価の有効性向上が期待される。

 最近、乳がんに関する関心が非常に高く、大学院講堂に百数十名を超える多数の市民が集まり、井本教授の講演を聴いた。乳がんの治療は遺伝子検査をすることで方向づけられる。数年前の米国の有名女優の例でも知られるように遺伝性乳がんの場合、発症前の危険率を推測できる。日本における遺伝性乳がんの検査は自費負担であり、専門医と遺伝カウンセラーと相談した上で行うかを決める必要がある。今後の重要な選択肢であり、正確な情報と知識を得る必要がある。その見地からも貴重な講演であった。

杏林CCRC研究所
相見祐輝