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抗菌薬が効かない細菌感染症の蔓延と阻止 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

抗菌薬が効かない細菌感染症の蔓延と阻止

日時:平成28年5月14日(土)午後1時30分〜午後3時

場所:杏林大学井の頭キャンパス F棟309教室

講演者:小林治(杏林大学保健学部教授)

講演風景

講演風景

講演要旨
 ”抗菌薬の効果が見込めない細菌感染症すなわち薬剤耐性菌(AMR)感染症は、かつては抵抗力が弱い方の問題とされていましたが、近年は健康成人における報告が珍しくありません。このような事態を受けて2015年の世界保健総会においてAMR問題に対するglobal action planが採択され、加盟各国は2年以内にAMRに対する国家行動計画を策定することになりました。本講演では、AMR問題に対して私共が取り組むべき課題について、わかりやすくお話しします。”

 5月14日の午後、井の頭キャンパスF棟を会場に保健学部臨床検査技術学科小林治教授による公開講演会「抗菌薬が効かない細菌感染症の蔓延と阻止」が開催され、三鷹市民を中心に41名が参加した。
 小林教授は本学医学部卒業後、コペンハーゲン大学付属王立病院臨床微生物学教室留学、本学医学部第一内科、感染症学等を経て2010年より保健学部教授に着任、一貫して感染症の臨床と研究に従事し、現在は病院管理部副部長も兼務している。

 細菌等の微生物の感染症はペニシリン等の抗菌薬(いわゆる抗生物質)の発見と普及によりほぼ完治できる疾病となった。また、動物飼料にも抗菌薬を混合することで畜産品の安定供給にも寄与していると言われる。現在、先進国で感染症への一般的な関心は低く、薬剤の開発には膨大な経費を要することから、抗菌薬の開発は減衰傾向にある。しかし、抗菌薬の広範かつ継続的な利用は抗菌薬に耐性を持つ菌を増加させた。また日本の細菌性肺炎による死亡の増加は人口高齢化と強く相関しており、細菌性肺炎が免疫力の低下した高齢世代の脅威となることを示している。さらに近年では健康な成人の感染例も報告されている。即ち、抗菌薬に耐性を持つ細菌の感染症が市中にも拡散し、新たな脅威となりつつある。

 これに対してWHO(世界保健機構)や国内の感染症関連学会では、不必要または効果が明らかでない予防的な抗菌剤投与の中止等、メリハリの利いた「抗菌薬適正使用」をキーワードで対策を進めている。またもう一つ「One Health」というキーワードのもとに「グローバル化が進む中で、ヒトの健康を保つためには、ヒトだけではなく、人獣共通感染症、地球環境の変動、災害や環境汚染と食品の安全性を含む事象を包括的に捉え、研究と教育を行う学術活動」を推進している。

 小林教授は感染症対策の予防・治療と国際協力について、ご自身の経験等を交えて解説した。薬剤耐性菌への感染は一部の抵抗力が弱まった方のみの問題ではないこと、感染症は世界的にはまだ大きな脅威であること、それ故により広い視野で取り組むべき問題であることをあらためて認識させる講演であった。

 本講演会は井の頭キャンパスを会場として市民に向けて開催された最初の講演会である。初めてのことであり普段よりも多くの教職員で対応したが不備もあったかと思う。しかし、参加された市民から新キャンパスの明るさと設備に対して多くの賞賛と今後への期待と励ましの声を頂戴した。より良い講演会の開催運営に努力したい。

杏林CCRC研究所
蒲生忍