受験生サイト サークル紹介 学生支援ポータル 学納金サイト  [在学生・保護者専用]

島根県「生涯活躍のまち・いずもコンソーシアム」及び島根大学医学部付属病院への出張報告


島根県「生涯活躍のまち・いずもコンソーシアム」及び島根大学医学部付属病院におけるICT医療連携の見学と意見交換


 生涯活躍のまち構想(いわゆる「日本版CCRC構想」)は、現在最も重要視されている施策であり、文部科学省COC/COC+事業においても「大学と地域の連携による地方創生」として重要視されているテーマである。現在、日本版CCRC構想に基づき各地で高齢者コミュニティの検討と創造、特に高齢者の都市から移住を含んだ取り組みが積極的に進められている。本学のCOC事業においても「持続可能な新しい都市型(超)高齢社会」という切り口において共通性を有し、直面する課題解決と将来像構築に向けて、真摯な検討を進めている所である。
 島根県は、「田園回帰1%戦略(島根県立大学藤山浩教授)」による地域再生で現在注目を集めている。本出張では、研究所の蒲生(特任教授)が日本版CCRCの一事例である「生涯活躍のまち・いずも」とICTを利活用した大学と地域の医療連携の事例である島根大学医学部とその関連施設を訪問し、都市から地方への移住の現状と地域の高齢者医療支援について視察、意見交換を行った。

 5月29日午前羽田空港を発ち、出雲空港経由で出雲市に到着した。あいにくの雨天のため、午後2時より4時まで出雲市駅前のホテルロビーにおいて、島根大学医学部特任教授・NPO法人生活習慣病予防研究センター代表の塩飽邦憲先生との意見交換を行った。日本版CCRC「生涯活躍のまち」においては移住と多世代の交流が大きなテーマである。その一事例である「生涯活躍のまち・いずも」においては「生活の質」を金銭換算した「住みやすさ」(経産省調査2015年)全国2位であることをセールスポイントに、高齢者のみならず子育て世代も含めた移住を推進している。また、高齢者にとって重要な医療や介護においても、全国平均を上回る医療機関充足率、救急医療での実績、介護施設の充足と連携の充実も果たしている。生涯活躍の実現には健康寿命の延伸が不可欠であり、それに向けた生活習慣病の予防に向けた活動も進んでいる。塩飽教授によるとこの多くは「出雲医療圏」という地理的な特性と、医療の中核として島根大学医学部が継承してきた伝統による所が大きいとのことであった。
 30日は日本臨床腫瘍研究グループJCOG及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMEDの革新的がん医療実用化研究事業長島班他と合流し、島根大学医学部呼吸器・化学療法内科の磯部威教授、津端由佳里講師の案内により、付属病院において「島根県の高齢がん診療の実際」について説明を受け見学した。
 午前は10時から12時半まで主に現在臨床研究として行われている「電子カルテ内の高齢者機能評価機能」について見学した。高齢者の総合的機能評価の臨床における重要性は明らかであるが、大半の施設では実施と利用の体制整備は進んでいない。当該臨床試験は問診票を電子カルテ内に取込んで実施している。このようなシステム構成には多くの否定的な懸念が想定されるが、それを克服した画期的な試みである。今後のさらなる改善と発展が期待できる。 
午後は1時半から5時半まで主に島根県の「まめネットを用いた病診医療連携」について地域の高齢者のケアを担当 する診療所(すぎうら医院)の見学を含め連携の実際について見学した。まめネットはICTをフルに利活用したもので、高齢化の進行、医療資源の偏在化等を解消する画期的なシステムである。このシステムは電子カルテの種類に制限されることなく、登録医療機関の登録患者の情報を統合的に閲覧できる。多くの否定的懸念を想定しうる中で、地域医療の充実を最優先にシステムを設計した結果と推測できる。医療圏内の総ての病院のネットワークが完了しており、今後のより効率的な運用には可能な限り多くの地域住民の登録が待たれるところである。これも出雲市を核とする医療圏の特性によるところが大きいと推測できる。このシステムの有用性は明らかであり、他の地域での利用に向けての論点の整理と課題克服が期待される。

 今回、島根県の出雲という独特の地域性を持つ医療圏での病診連携、高齢者医療の改善の試みを見学した。「持続可能な超高齢社会」「健康寿命延伸」という観点では非常に先進的であり参考となる取組であり、この実現に寄与された関係者の熱意に敬意を表する。今後はより良い医療の実現に向け、さらなるICT技術の革新と、各地の地域の特性を踏まえたうえで従来の枠を超え一歩踏み出す意識改革が待たれる。また、今回見学した病診連携や地域連携を、大学や行政機関の枠を超える自由度のある活動として進めるには、積極的なリーダーシップに加えNPO法人化も必須であろう。                   
 午後5時半、予定時間を超える見学を終え、出雲空港経由で帰京した。

杏林CCRC研究所
蒲生忍