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岩手県ふるさと暮らし相談会&セミナー 参加報告


セミナー名:「岩手県ふるさと暮らし相談会&セミナー」

参 加 者 :CCRC研究所長 蒲生 忍

開 催 日 時:平成28年6月11日12:30-15:00

開 催 場 所:有楽町東京交通会館 ふるさと回帰支援センター

セミナー概要

 本学がCOC事業で連携しその事業に協力する岩手県について、また岩手県で進行している幾つかの先進的な生涯活躍のまち「日本版CCRC」構想について情報収集のために、東京有楽町交通会館で開催された「岩手県ふるさと暮らし相談会&セミナー」に参加した。
 岩手県の面積は1万5千km2で北海道に次ぐ広さ、ほぼ四国四県に匹敵する。人口は130万人で、北上盆地内で県庁所在地の盛岡市に30万、花巻市に約10万、北上市に約9万、奥州市と一関市に各12万と東北新幹線沿いにほぼ7割が居住する。3割が東日本大震災・津波で大きな被害を受けた沿岸部に居住する。
 今回のセミナーでは岩手県において「ふるさと暮らし」を積極的に推進している、または推進を目指している内陸部と沿岸部の特徴ある五市町村の担当者から、各地域の特色と取組の紹介が行われた。また既に移住した方々の経験談を聴く機会であった。
 内陸部からはいずれも盛岡市と境を接する八幡平市、葛巻町、雫石町が参加していた。八幡平市は2万6千人強で安比高原や八幡平のスキー場で知られる。葛巻町は人口6千3百人で、「ミルクとワインとクリーンエネルギー」をキャッチフレーズにしている。雫石町は人口1万7千人弱で、小岩井農場で知られる。沿岸部からは普代村と洋野町が参加した。いずれも津波で港湾施設は大きな被害を受けたが人的被害が少なかった地域であり、NHKの朝の連続ドラマの舞台となった地域である。譜代村は三陸海岸の北部に位置し人口2千8百人、洋野町は沿岸部で最北に位置し人口は1万6千人強である。内陸部は北上盆地の地形と自然を生かした特産品を持ち伝統を活かした生活と産業、また沿岸部はいずれも海産物と景観に恵まれ、それぞれに魅力ある地域である。しかしながら、いずれの市町村も人口減少と高齢化が進行しており、産業や地域の維持のために移住に期待している。

 「ふるさと暮らし」は「ふるさと回帰」、所謂Uターンを想起させるが、Uターンの時期も様々である。また「新しいふるさと」を求めるJターンやIターンと呼ばれるような移住を含め多くの可能性がある。既移住者として話された方々も、現役世代の間の移住、退職後の移住と状況は異なる。それぞれの状況に応じて必要となる資源はことなる。CCRCの概念からは高齢期を健康に過ごせる環境、生涯を全うできる医療と介護が必須であろう。「日本版CCRC生涯活躍のまち」では活躍できる場としての就労や学習機会も望まれている。セミナー参加者がどのような移住を検討しているのか明らかではないが、中年層を中心に10数名、岩手県出身者以外も多く含まれていた。参加者は、都市から移住した方々の移住にいたる経緯や移住後の経験談を興味深く傾聴していた。
 本セミナーで日本版CCRCを取上げているのは、八幡平市と雫石町であった。八幡平市の事業は病院と特別養護老人ホーム等に隣接した「サービス付き高齢者向け住宅」で昨年一部が開業した。魅力的な自然環境であり、必要な医療と介護の資源は満たされている。既に都市圏からを含めた移住も始まっており、今後の発展と交通利便性の確保等の課題の解決に期待したい。雫石町は町有地14haの活用を目指している。基本設計が終了し、平成29年に障がい者のためのグループホームと高齢者住宅、ディサービスセンターの整備を目指している。盛岡市への利便性に優れる。未だ計画段階であるが、今後の進展を期待する。
 地方創生の基本目標として「地方における安定した雇用を創出」し「地方への新しいひとの流れ」をつくる「ふるさと回帰」や「いなか暮らし」が提唱されている。本学が参加するCOC+事業においても、この施策に沿う活発な活動が進められている。一方、地方の高齢化に加え今後の首都圏の高齢化と医療資源不足への対策として「首都圏高齢者の地方移住」が一つの選択肢として呈示されている。二つの提案が渾然となって「日本版CCRC」が構想されている。日本と米国は全く異なる医療介護制度の下にある以上当然ではあるが、米国の高齢退職者が生涯を全うする共同体CCRCと日本版CCRCは、その方向性と目的に齟齬がある。それぞれの事業実施者がその特性に下に方向性を明確にすることが望ましいのではないか。
 「地方移住」は「地域」と「個人」の特性を活かす選択肢で、それぞれが必要とする資源があり活かすことが出来れば決して無謀な選択肢ではない。より丁寧に説明し、また熟慮することが必要であろう。とはいえ、都市から眺め見るだけでは解らないこともある。進んで体験してみることも必要であろう。

杏林CCRC研究所
蒲生忍