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自分らしく生きるヒント -高齢期のアドバンスケアプランニング 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

自分らしく生きるヒント -高齢期のアドバンスケアプランニング

日時:平成29年7月8日(土)午前11時〜午後12時30分

場所:井の頭キャンパス F棟 309教室

講師:角田 ますみ(杏林大学保健学部看護学科 准教授)


講演概要
 ”皆さんは人生の最後をどこで誰と、どんなふうに生きたいですか? 人生の終末期には身体機能や認知機能が低下して、なかなか自分の思うように生活することができません。またケアする家族も認知症などで本人が何を望んでいるのかわからない場合、どうしたらいいか困ってしまいます。アドバンスケアプランニング(Advance care planning:ACP)とは、人生の様々な段階に応じて、病気になった時どんな治療を受けたい/受けたくないか、介護が必要となった時にどこでどんなケアを受けたいかなどを前もって考え、自分の「希望」を表現しておくものです。これを考えることは、自分はどのような「生き方」をしたいのか、そして自分が大切にしている「価値」は何なのかを振り返ることにもなります。皆さまに人生の最期の『生き方』を考える一助になれば幸いです。”

講演風景

講演風景

角田ますみ先生

角田ますみ先生


 7月8日土曜日の午前11時より、杏林大学井の頭キャンパスF棟を会場に公開講演会「自分らしく生きるヒント―高齢期のアドバンスケアプランニング」が開催され、地域の住民等約200名が参加された。講師の角田先生は福島県立医科大学看護学部の出身で、福島県立医科大学看護部、東邦大学看護部等を経て2014年より本学保健学部に着任された。また早稲田大学大学院人間科学科、福島県立医科大学大学院医学研究科を修了され、成人老年看護学と生命倫理を専門とされ、福島県立医大はじめいくつかの施設の倫理研修も担当されている。

 杏林大学が位置する三鷹市は人口が約18万人、65歳以上の高齢者が3.7万人で超高齢社会に突入している。人生60年は遠い昔、現在の平均寿命は男性80歳、女性90歳、100歳を超える寿命も夢では無いと言われる。何歳から始まるかの問題はともかく、現実としては加齢に伴い身体・精神機能が損なわれていくのは避けがたいことである。高血圧や糖尿病等を「生活習慣病」と呼ぶが、これらの疾患はすべてが「好ましくない生活習慣」に起因するのではなく「加齢に伴う生理的機能の衰え」にも原因を求めることができる。加齢に伴う生理的機能の衰えは何時か我々を終末期へと導く。「自分の人生の最後をどんなふうに計画するか」は高齢化と多世代同居が困難な都市圏での生活では、これまた避けては通れない課題である。

 角田准教授は豊富な臨床経験から、終末期の人工呼吸器装着や経口での食物摂取が困難となった時の胃瘻造設などのいくつかの典型的な症例を示しつつ、「救命治療」と「延命治療」の違い、また「判断能力」と「意思能力」の違いを明確に定義し、「代理判断」の困難を指摘した。いずれの症例もいわば後悔はあるが正解はない。そのうえで事前指示の重要性を指摘した。事前指示とは「意思決定できなくなった時に備えて、どのような状態で過ごしたいのか、どのような医療やケアを受けたいのか、誰に代理判断をしてほしいのか等の希望をあらかじめ書き記した文書」である。市井に多くの雛型が流布しているが、現在の日本では「法的強制力はない」とされている。しかしながら、角田准教授は事前指示書をツールとして「どのような選択をしていくかを身近な人とともに考えて、定期的に語り合うこと」、「重要なのは意思決定していることよりも考えるプロセス」であること、さらに「定期的に確認、修正すること」の重要性を強調した。

 「死は避けがたく、自分にも最期の時が来ること」ことは誰でも知っているが、それについて語ることは困難であり、稀である。これからの超高齢社会は同時に超多死社会でもあり、死は日常化する。これをタブー視し隠蔽し遠ざけ続けるのではなく、より良い最期を計画するという視点で自分らしく生きる姿勢を再考する機会とすることが求められているのかもしれない。

 限られた時間の中、熱心にご聴講いただいた市民の方々、また講師の角田先生に主催者の一員として感謝します。

杏林CCRC研究所
蒲生忍