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杏林大学「地(知)の拠点整備事業」CCRC研究所連続講座開催報告 はじめての死生学

連続講座名:「はじめての死生学」

講師:杏林大学杏林CCRC研究所特任教授 蒲生忍
   杏林大学保健学部准教授 下島裕美

開催日時:平成29年6月9日(金)13:30-15:00
     平成29年6月16日(金)13:30-15:00
     平成29年6月23日(金)13:30-15:00
     平成29年6月30日(金)13:30-15:00

開催場所:八王子学園都市センター第3・第4セミナー室

○講座概要
死は避けがたく必ず到来するもので、誰もが身近な方の死を経験しています。でも、誰も自分自身の死を経験することは出来ません。我々にできることは「避けがたい死を見つめて、今の生を充実させること」です。これを死生学と呼びます。先人の足跡を追い、また夫々の思いや考えを知ることは何らかの助けになるのではないでしょうか。本講座は以下のテーマで開催します。

講義風景

講義風景

蒲生忍先生

蒲生忍先生

 平成29年6月9日(金)午後1時30分より、八王子学園都市センターを会場に本学が八王子市・三鷹市・羽村市と取り組んでいる文部科学省地(知)の拠点整備事業「新しい都市型高齢社会における地域と大学の統合地の拠点」の活動の一つとして、八王子学園都市大学いちょう塾の連続講座「はじめての死生学」を開講した。八王子市の住民を中心に20名が受講登録された。「死生学」はなじみの無い言葉であり、確立した分野でもない。講師の研究所の蒲生は分子生物学、保健学部の下島は心理学と異分野の研究者であるが、それぞれに高齢社会における死生学それを支える医療提供者への死生学教育に興味をもち、独自に勉強を続けてきた。その成果を基に市民の皆様と一緒に「死生学」に取組んでみたいと考え、連続講座を開催することにした。
 講座は以下の4回よりなる。
1回目:「いのち」を考える
古代ギリシャの哲学者は生物の存在に霊魂は不可欠としました。現在の自然科学では生命を化学的反応の動的平衡と捉えています。生物や生命、誕生や死はどのように定義してきたのか、振り返って考えてみましょう。
2回目:「エリザベス・キューブラー=ロス」の一生
キューブラー=ロスは終末期患者の死の受容過程を分析し「死の瞬間Death and Dying」を著し、「死生学教育」の重要性を訴えました。「死生学」の創始者ともいえるのではないでしょうか。貴重なインタヴュービデオを見ながら、その生涯を追います。
3回目:「最期」に向って準備する
「最期はピンピンコロリ」、略してPPK。上手なPPKとは体力の限界を知って健康を維持すること。でも、具体的にはどうすればよいのか。望ましい最期を向えるためには何をどう準備するのか、自分で選択することを考えましょう。死は確かに自分自身のことですが、お葬式や悲嘆ケアなど残される家族や友人のことも考えてみましょう。
4回目:「スピリチアュル・ケア」を考える
「スピリチアュル・ケア」は終末期や緩和医療の重要な要素であり、「宗教的ケア」とは同じ意味ではありません。「生命の尊厳」、「自己実現の探求」や「人生の意義」等の課題を考えることを含みます。私達自身のスピリチュアリティについて考えてみましょう。

 今回の八王子学園都市大学いちょう塾での連続講座は平成27年に杏林CCRC研究所において、みたか・認知症家族支援の会の協力の下、年間で計8 回を開催した市民と共に高齢社会の問題を考えるコモンズ活動「金曜サロン・死生学」(年8回開催)に基礎を置いている。従来行ってきた地域貢献活動の公開講演会は大学知の広報・啓発活動を目的として、講演者は檀上で市民と対面する形となり、市民との対話的要素が乏しくなる。金曜サロンではコモンズ活動として、市民と同じテーブルを囲み話題提供と意見交換することを目指した。同じテーブルを囲むという性格上、参加人数は制限されるが意見表明は活発となり、相互理解は深められた。平成28年度はその成果をさらに共有するため三鷹ネットワーク大学を会場とし4回の連続講座「はじめての死生学」を開催した。三鷹市民や杏林大学「生きがいづくりコーディネーター」コースの受講者等を含め、参加登録者21 名が参加した。今回はその経験をもとに参加人数を20名と限定し八王子学園都市大学での開講に至った。

 死生学は「避けがたい死を見つめて,今の生を充実させること」であるとされる。死生学はエリザベス・キューブラー=ロスの「死の瞬間Death and Dying」にその源流を見ることが出来る。キューブラー=ロスが当初目指したのは「死に直面する終末期の人々の生を如何に援助するか」であり、その意味では医療の改善とその医療の提供者に対する教育の一部としてである。キューブラー=ロス自身の活動は紆余曲折するが、死に近接したものに寄り添いその生を支援するという一面は不変である。
 講師の蒲生は今までの終末期に生命倫理・医療倫理に関する研究活動において、米国ワシントン大学(ワシントン州シアトル)のThomas R. McComick博士の知遇を得て、1983年にキューブラー=ロスがワシントン大学を訪れて患者や学生、またMcCormick博士との対談を記録し、以降教材として用いられていたビデオ資料5時間分を分与させた。今回はその貴重な資料から読み取れるキューブラー=ロスの人生観と死生観を織り交ぜながら、市民と共に勉強する機会を持つこととなった。本学COC事業のテーマに掲げる「新しい都市型高齢社会の未来像」を模索する中で、貴重な経験となることが期待された。

 哲学や宗教には不明な講師が、「生死」にかかわるテーマでの講義には未だに躊躇がある中、熱心にご聴講いただいた市民の方々に感謝します。
                                            杏林大学 CCRC研究所 蒲生 忍
                                                   保健学部 下島裕美