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新しいキズの治し方 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

新しいキズの治し方 -キズってどうやって治るの?

日時:平成29年9月2日(土)午後1時30分〜午後3時

場所:井の頭キャンパス F棟 309教室

講師:大浦 紀彦(杏林大学医学部形成外科学教室 教授)


講演概要
 ”キズができたとき、みなさんはどうやって治していますか?機械は、壊れても自動的に治ることはありません。生体だけが持つ機能です。生体=ヒトは、自然にキズを治す仕組み(創傷治癒)を持っています。キズをきれいに、早く治すには、この仕組みを上手く使う必要があります。近年創傷を湿潤に保つ、陰圧を負荷する、細胞を増やす薬を使うなどの創傷治癒を促進する治療法が開発され一般化しています。この巧妙な仕組みと最新のキズの治療についてお話をします。”

講演風景

講演風景

大浦紀彦先生

大浦紀彦先生

 9月2日土曜日の午後1時30分より、杏林大学井の頭キャンパスF棟を会場に公開講演会「新しいキズの治し方 -キズってどうやって治るの?」が開催され、地域の住民等約190名が参加された。講師の大浦先生は日本大学医学部の出身で、東京大学医学部、埼玉医科大学等を経て2005年に本学医学部救急医学教室に着任され、2013年より医学部形成外科学教室教授として熱傷、褥瘡、難治性潰瘍等を専門にされている。大浦先生は、「Act Against Amputation-なくそう下肢切断」の代表理事として糖尿病等による足の切断を減らすため受診と治療を促す情報発信にも積極的に関与されている。

 杏林大学の付属病院をはじめ大きな病院には整形外科と形成外科がある。整形外科は骨や関節、筋肉等とそれを支配する神経系からなる運動器を主な対象とする外科である。一方、形成外科は生まれながらまたはケガや熱傷によって生じた変形や欠損を修復・再建し、機能のみならず外貌の回復を図り、生活の質Quality of Lifeの向上に貢献する外科の一分野である。

 我々は外界とのバリアーとしての役割を果たし、表皮、真皮と皮下組織からなる皮膚に覆われている。我々が日常生活をおくる中で擦傷や切傷を負う事、即ち皮膚がキズや圧迫により破れてしまう事がしばしばある。皮膚が破れると体内の水分の漏出と、外界の雑菌の侵入による感染の危険に曝される。また、骨折等で寝たきりになり体の動きが悪く栄養状態が悪くなると、床ずれ(褥瘡)と呼ばれるキズが出来ることがあり、慢性化し皮下組織を超えて筋層や骨に達することもある。このような「キズを治す」には皮膚が速やかに再建されるように手助けすることが求められる。また、外貌を損なわないよう「キズをなおす」こと、キズアト瘢痕を修復することも求められている。

 大浦教授は、「湿潤療法Moist Wound Healing Theory」を「キズは乾燥させない」「消毒薬よりも水道水と石鹸での洗浄」等の解り易い言葉で表現した。これは1960年代に英国のWinter博士により提唱されたガーゼと消毒薬での従来のキズ治療に代わる治療法である。湿潤に保つことでキズを治す細胞が増殖しやすくなること、消毒しても皮膚の常在細菌は減らないこと等の根拠が明確に示され広く普及するに至ったことを丁寧に説明した。さらに、水泡やカサブタに代わりキズを覆い外部からの刺激や感染を防ぐ人口素材によるドレッシング(被覆)材、キズを治す細胞の増殖を促す増殖因子のスプレー、吸引し適度の湿潤状態を保つ陰圧閉鎖療法、さらにはウジムシを使って壊死した組織を除去する褥瘡治療法まで最新の治療技術についても解説された。

 子供の頃に擦傷、切傷に対して「赤チン(マーキュロクロム)」や「ヨーチン(ヨードチンキ)」と呼ばれる家庭用の消毒薬を塗った経験を持たれる方も多いと思う。その「常識」が、今は良く洗って“バンドエイド”に代わった。この変化は実証的な研究と創傷治癒機構の理解による。原理を見極めることで新しい技術を発展させる重要性、さらにそれに対応するには弛まぬ学習が大切であることを示しているように思う。参加者の市民の皆様からは、日常的に体験するキズの治療にも有用で参考になる講演との声が多数寄せられた。

 限られた時間の中、多数ご参集いただき熱心にご聴講いただいた市民の方々、また市民の皆様の質問にも丁寧に対応いただいた大浦先生に主催者の一員として感謝します。

杏林CCRC研究所
蒲生忍