杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催
杏林医学会 市民公開講演会
増えている炎症性腸疾患(IBD)について知ろう!
小児IBDの問題、腸内細菌のトピックス、そして新しい治療薬
日時:平成29年11月18日(土)午後1時30分〜午後3時30分
場所:三鷹キャンパス 医学部講義棟2階 第一講堂
座長:久松理一先生(杏林大学医学部第三内科学 教授)
特別講演1「腸内細菌のトピックスと新しいIBD治療薬について」
演者 久松理一先生(杏林大学医学部第三内科学 教授)
司会 正木忠彦先生(杏林大学医学部外科学 教授
特別講演2「小児の炎症性腸疾患 小児科と 内科の連携について」
演者 新井勝大先生(国立成育医療研究センター消化器科 医長)
司会 久松理一先生(杏林大学医学部第三内科学 教授)
特別講演3「新しい小腸の検査法 小腸内視鏡とカプセル内視鏡」
演者 林田真理先生(杏林大学医学部第三内科学 助教)
司会 久松理一先生(杏林大学医学部第三内科学 教授)
講演概要
”人は腸内に約100兆個の腸内細菌と共存しています。腸内細菌は人が生存していくために重要なひとつの“臓器” であり、その機能の乱れはさまざまな病気と関係していると考えられています。今回の市民公開講会では腸内細菌と人との共存関係の不思議、腸内細菌が関係していると考えられている炎症性腸疾患の増加の実態、小児の炎症性腸疾患診療の抱える課題などについて外部講師の先生もお招きしながら解説します。気楽に参加できる会にしたいと思います。皆様の参加をお待ちしております。”
11月18日木曜日の午後1時30分より杏林大学 三鷹キャンパス医学部学生講義棟 第一講堂を会場に杏林医学会が主催し地(知)の拠点整備事業と三鷹ネットワーク大学が共催する公開講演会「増えている炎症性腸疾患(IBD)について知ろう!小児IBDの問題、腸内細菌のトピックス、そして新しい治療薬」が開催され、3つの特別講演が行なわれ、地域住民の方を中心に約100名が参加された。
講演会の企画は、杏林大学医学部第三内科学(消化器内科)教授久松理一先生が担当された。久松先生は慶應義塾大学医学部を卒業され、慶應義塾大学病院内科での研修後、伊勢慶應病院、東京歯科大学市川総合病院等を経て、米国ハーバード大学マサチューセッツ総合病院へ留学、慶應義塾大学准教授等を経て、2015年に杏林大学医学部教授に着任された。消化器病学、炎症性腸疾患、粘膜免疫学を専門とされ、今回の講演会のテーマである「炎症性腸疾患の病態解明と新規治療法の確立」をテーマに積極的な研究を展開され多くの学術論文を発表されている。
特別講演1では杏林大学医学部外科学教授の正木忠彦先生が司会を担当され、久松先生が「腸内細菌のトピックスと新しいIBD治療薬」について講演された。人の腸は、胃で消化された食物の吸収器官と認識されてきた。しかし、近年の研究から皮膚と並んで免疫の学習装置として重要な臓器である事、さらに腸内の細菌は人と共生して病原体の侵入を防ぐ機能を持つ一つの臓器とも位置付けることができると解説した。炎症性腸疾患(IBD)の代表である潰瘍性大腸炎とクローン病は急激な増加傾向にあり、腸の過剰な免疫反応や腸内細菌叢の異常により主に青少年期に発症し長く生活に影響する慢性疾患である。寛解導入と維持が治療の中心であるが、時には外科的な対応も必要となる。久松先生は疾患の原因仮説から治療法まで解説された。
特別講演2では国立成育医療研究センター消化器科医長の新井勝大先生が「小児の炎症性腸疾患:小児科と内科の連携」について講演された。新井先生は宮崎医科大学(現・宮崎大学医学部)のご出身で在沖縄アメリカ海軍病院、亀田総合病院を経て、米国ニューヨークに臨床留学され、小児科レジデント、小児消化器科フェローの研修を修了、順天堂大学小児科准教授を経て、2006年国立成育医療研究センターに着任された。日本で数少ない小児IBDの専門家として、その診療と臨床研究、小児消化器医の育成に尽力されている。
IBDは乳幼児期の発症も含め20-25%が小児期に発症し、難治性で慢性の経過を辿り、長期の継続的な治療が必要である。その過程で思春期を通過し大人へと移行していく患者と家族にはメンタルなサポートまた社会的な問題への対応も必須となる。新井先生はそのような子供から大人へと移行し自立的に健康を管理する能力(ヘルスリテラシー)を育てることを支援するトランジション(移行期)外来の重要性について海外や患者の共助組織での活動を含めた豊富な経験を交えて解説された。
特別講演3では杏林大学医学部第三内科学助教の林田真理先生が「新しい小腸の検査法:小腸内視鏡とカプセル内視鏡」について講演された。林田先生は杏林大学医学部卒業、杏林大学医学部第三内科学、横浜医療センター消化器内科等を経て、2000年より杏林大学医学部第三内科の臨床専攻医、2016年から杏林大学医学部付属病院第三内科の助教、また内視鏡室医長を担当されている。
多くの方が経験されている上部消化管内視鏡(胃カメラ)は小腸の入口である十二指腸まで到達できる。下部消化管内視鏡(大腸内視鏡)も肛門側から小腸末端の回腸まで到達できる。しかし、全長6-7mにも及ぶ小腸内部を観察するにはどのような方法があるのか? 林田先生は画期的な技術により詳細な観察を可能にし、現在使用が拡大しているカプセル内視鏡について解説された。また斬新な発想に基づき治療も可能としたダブルバルーン内視鏡を紹介された。
限られた時間の中、三人の講師による炎症性腸疾患の解説と最新の検査治療法まで、内容に富む講演であった。炎症性腸疾患という幼少期から発症し難治性で慢性の疾患の困難さ、またいわゆる生活習慣病と比較すると低頻度の難病疾患について大学の付属病院や専門病院としての果たすべき責務を改めて認識する機会であった。
諸先生の精力的かつ丁寧な講演に感謝します。また、多数ご参集いただき熱心にご聴講いただいた市民の方々に主催者の一員として感謝します。