Vol.4 教師の憂鬱

大学の先生は楽でしょうね、と羨ましがられる。夏休みも春休みもあるし、と言われる。確かに楽に見える。私の父親は大学の教師であり、その父親も教師だった。見ていると、楽そうだった。週二日か三日、仕事に行けばいい。長い休みの間は、どこかへ避暑とか避寒とかに行ける。そこで遊んでいるわけではないけれど、机に向かって原稿を書いていればよいらしい。怠け者の若者であった私は、こんなにいい商売はなさそうに思えた。世間のサラリーマンと言われる人たちは、毎日毎日、朝から満員電車に乗って出かけ、夜は遅く、付き合いとかいう会合で遅く帰ってくる。会社というところも、上司とか部下とか面倒くさい人間関係があって、怒られたり叱られたり、いかにも疲れそうだ。大人になって、職業を選ばなければならないのなら、大学教師に限る。そう思って、大きくなって、うまい具合にそのようになれた。

しかし、いざ始めてみると、これがそんなに楽な仕事ではない。私は今90分の授業が8コマある。そのための準備をしなければならず、学生に頼まれれば就職のための推薦書を書いたり、奨学金の世話もする。

昔は休講すると学生にも喜ばれ、よかったのだが、この頃はそうは行かない。ちゃんと補講をしなければならない。これで成績をつける学期末には、試験問題を作り採点をする。一時期私は700人以上の学生を持っていて、この成績をつけるのは、地獄の渦に巻き込まれているような気分だった。

更にまた、入学試験がある。外国語学部には今、何種類の入試があるのか、専門の職員でなければよく分からないにちがいない。そうしてオープンキャンパスや各地の高校訪問がある。出張講義と言って、模擬授業を高校生相手に行って、彼らの進学意欲を目覚めさせる仕事もある。

昔の大学教授というのは、とても偉そうだった。世間的な尊敬もあり、収入もあり、暇な時間もあった。今、自分が大学教授と言われる立場になって、ちっとも実感がない。どうなっているのだろう。

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