7月18日に、杏林大学社会科学学会の今年度第1回目の定例研究会が下記の通り開催されました。
報 告 者: 三浦 秀之 先生(杏林大学総合政策学部講師)
司 会: 馬田 啓一 先生(杏林大学総合政策学部教授)
報告テーマ: 民主党政権における国内政策意思決定システム
−環太平洋パートナーシップ協定をケースとして−
会 場: 杏林大学八王子キャンパスG棟2階大会議室
【報告の要旨】
本報告では、自民党から民主党に政権交代したことによって、政策意思決定システムがどのように変化し、いかなる課題に直面したのか、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加に向けた政策意思決定プロセスを題材に、検討するものである。
2010年10月1日、菅直人首相は、「所信表明演説」において、「TPP交渉への参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏の構築を目指す」ことを表明した。しかしその後、菅内閣は、TPPについて、「情報収集を進めながら対応し、国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」と明記した基本方針を決め、参加可否の結論を先送りした。ところが、翌年2011年11月11日、菅首相の後を継いだ野田佳彦首相は、TPP交渉参加に向け、政府・民主三役会議と関係閣僚委員会を開き、TPP交渉参加に向けて関係国と協議に入るということを伝えたいと表明した。このことを踏まえ本報告の問題意識は、以下の点にある。(1)貿易自由化における政策意思決定システムが、55年体制下の自民党政権から民主党政権へどのように変容を遂げたのか、(2)首相と内閣を中心とするコア・エグゼクティヴがどのように強化され、それがTPPをめぐる論議にどのように影響を及ぼしたのか、(3)なぜ、菅政権ではTPP交渉入りを言明できず、野田政権ではそれが成せたのかである。
三浦 秀之 先生
本報告では、コア・エグゼクティヴ論を用いて、首相と内閣が保持する「資源」を整理し、政策意思決定システムの変容とその課題について説明を試みる。結論として、本報告では、野田政権において菅政権で脆弱であった「党からの支持」「官僚」という「資源」を強化した結果、政府・民主三役会議において、首相一任に近い形で、TPP交渉参加という首相決断を導きだすことができたと主張する。(三浦 秀之 講師)
【総 評】
昨年11月に野田首相が「TPP交渉参加に向けて関係国との協議に入る」と協議入りの声明を行ったが、その後8カ月経過した現在でも、民主党内の意見がまとまらず国内調整の遅れから日本のTPP交渉参加は実現していない。
報告者は野田政権に新たな政策意思決定システムの意義を見出そうとしたが、説得力がやや欠けたようだ。質疑応答では、迷走する民主党政権に対する厳しい評価も飛び出し、政策意思決定システムが確立されておらず未熟で、政権運営が混乱しているとの指摘もあった。
いずれにしても、TPP交渉参加問題の先行きが不透明な状況のもとで、TPPをケースとして民主党政権における政策意思決定システムについて評価を下すのが時期尚早である点は否めない。引き続きフォローアップしていくことが必要であろう。今後の研究成果を期待したい。(馬田 啓一 教授)
三浦先生のページ
http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/faculty/general_policy/student/teacher/staff/detail_2.php?id=gen30072
馬田先生のページ
http://www.kyorin-u.ac.jp/univ/faculty/general_policy/student/teacher/staff/detail_2.php?id=gen30008