人物検出、顔識別などの一般的な画像の自動認識だけではなく、マンモグラフィーを用いた乳がんの検出(※1)、胸部 CT による間質性肺疾患の分類(※2)など、最近では医用画像の自動分析においても高い性能を示しているAI技術の1つ「深層学習」。保健学部臨床検査技術学科では2022年度からこの技術で新しい子宮頸がんの検診法を確立する研究が進んでいます。
深層学習:脳の神経を模したニューラルネットワークを多層に重ねることで学習能力を高めた機械学習手法。正しい結果を学習データとして与えることで、新たな入力に対して正解となる出力を行えるようにしていく。
子宮頸がん:患者は20~30歳代の若い女性に多く、HPV(ヒトパピローマウィルス)の感染によって発症する。国内では、毎年約1万人の女性が罹患し、約3000人が死亡している。(2018年報告)〕
研究を行うのは、保健学部臨床検査技術学科の坪下幸寛教授と子宮頸がんの細胞診研究が専門の大河戸光章准教授です。坪下教授は本学着任前、富士フイルム(株)画像技術センターで医用画像AIの研究・開発に携わっていました。
子宮頸がん患者の増加を抑える唯一の手段は、一次検診で前癌病変(上皮内病変)を早期発見することです。検診では細胞診検査やHPV検査が行われますが、前者は専門家の細胞識別能力に依存する点が大きいこと、後者は高価で特異度が低いことが課題でした。
こうした課題を克服するため、深層学習を子宮頸部の細胞診標本に適用し、がん細胞の識別作業(正常/子宮頸がんの疑いあり等)をAIで自動的に代替する手法の確立を目指しています。専門家の細胞識別能力に頼っていた作業をAIが行い、より多くのデータをより正確に識別できれば、正確で安価な新しい子宮頸がん検診法を提供することができます。
学習データ500画像からAIで子宮頸がん細胞を自動分類する予備実験が完了しました。2022年度中に 2,000画像、2023年度中に 5,000画像までデータを増強し、最新AIの知見取り込み、専門家を凌駕する性能の実現を目指します。
研究を実用化するためには、性能やコストなど様々な課題を乗り越えなくてはいけませんが、その過程で新たな発見も予想されます。
坪下教授は、「新しい子宮頸がん検診法を確立する研究を着実に進める一方で、AIの注目点を詳しく検証することによって新たな形態学的な知見が得られれば、細胞診の可能性を広げることに繋がるのではないか」と話しています。
(※1)マンモグラフィでの乳がんの検出
McKinney, Scott Mayer, Marcin Sieniek, Varun Godbole, Jonathan Godwin, Natasha Antropova, Hutan Ashrafian, Trevor Back, et al. 2020. “International Evaluation of an AI System for Breast Cancer Screening.” Nature 577 (7788): 89-94.
(※2)胸部 CT による間質性肺疾患の分類
Anthimopoulos, Marios, Stergios Christodoulidis, Lukas Ebner, Andreas Christe, and Stavroula Mougiakakou. 2016. “Lung Pattern Classification for Interstitial Lung Diseases Using a Deep Convolutional Neural Network.” IEEE Transactions on Medical Imaging 35 (5): 1207-16.
保健学部臨床検査技術学科 教授 坪下幸寛
1995年3月 京都大学工学部精密工学科 卒業
1997年3月 京都大学大学院工学研究科精密工学専攻 修士課程修了
2010年3月 東京大学新領域創成科学研究科複雑理工学専攻博士課程修了
富士フイルム(株)画像技術センターで医用画像AIの研究・開発などに携わる。
2021年4月より現職。研究テーマ・分野は機械学習、深層学習、画像認識
保健学部臨床検査技術学科 准教授 大河戸光章
1993年3月 北里大学衛生学部衛生技術学科卒業
1995年3月 杏林大学大学院保健学研究科博士前期課程修了
臨床検査技師・細胞検査士。1995年4月杏林大学保健学部着任。研究テーマ・分野は子宮頸部腫瘍および肛門管腫瘍におけるHPV検出の意義