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低侵襲の心臓手術装置 産学協同で開発へ

医学部心臓血管外科 教授 窪田 博
保健学部臨床工学科 教授 中島章夫
他 他大学・医療機関・企業 協同研究

本学医学部心臓血管外科の窪田 博教授を代表に東北大学等が携わる研究グループは、不整脈治療等の外科治療を低侵襲で行なうことを可能とする新しい心臓手術装置を、株式会社フォーメックと協同開発しています。
1~2年後の実用化を目標に現在、本学保健学部臨床工学科 中島章夫教授等も加わり模擬的評価実験を進めています。

新しい研究開発

窪田教授が30年余にわたって続けているこの研究・開発は、平成28年度に埼玉県の先端産業創造プロジェクトに採択され補助金交付事業対象となったことで、製品化に向けた開発が加速されました。
国内外で類似例のない本開発は、他のエネルギーでは得られない深い凝固変性壊死が得られるという近赤外線エネルギーの特性を活用しています。これを心房細動などの外科手術で組織に照射するもので、装置は赤外線凝固装置「Kyo-co」と名づけられました。

赤外線凝固装置「Kyo-co」(左)

赤外線を照射するプローブ(右)

 

 

 

 

 

 

患者の負担が大幅に軽減する治療法

不整脈のひとつである心房細動の患者数は国内で80万人から100万人程ともいわれ、高齢化に伴いさらに増加しています。脈が乱れることで息苦しさが生じたり、血栓ができやすくなることで脳梗塞のリスクが高まる疾患で、症状の重さによって、投薬治療、内科的カテーテルアブレーション治療、外科手術に分けられます。
外科手術では、心臓を止めて複雑な心房切開を行った後、縫合施術をするため、患者の負担が高まります。しかし、開発が続けられている赤外線凝固装置では、心臓への直接の外科的施術を行うことなく、患部のある組織の上から近赤外線を照射することで、患者の負担を大幅に減少させる治療が可能となります。また、この技術を利用し、感染性心内膜炎や心臓腫瘍の根治性を高めることも目指しています。

プローブで近赤外線を組織の上から照射

 

 

 

 

 

 

実用化に向けて、臨床工学科中島教授と協同実験

現在、この赤外線凝固装置は、日本とドイツをはじめとするヨーロッパ4カ国で特許を取得し、アメリカでも申請中です。
2020年には、模擬的評価実験が臨床工学科中島教授等と開始されています。10月23日に行われた実験では、豚の心臓を縫合してから、血液の代替として生理食塩水を心臓に循環させ、プローブで照射を試していきました。赤外線の出力温度と照射秒数、回数を調整しながら、組織の熱変性壊死の深度等を測定することで、より精度の高い機器への改良を目指しています。

実験に協力する臨床工学科4年堀池奈生さん(左)、新井純奈さん(右)。 指導する心臓血管外科土屋博司助教

心臓に赤外線を照射している様子

 

 

 

 

 

 

窪田 博教授(後列左)、中島章夫教授(前列左)をはじめ、臨床工学科学生等も実験に協力

 

 

-赤外線凝固装置の開発によせて-

ニューハート・ワタナベ国際病院
ウルフ-オオツカ低侵襲心房細動手術センター
センター長 大塚俊哉

臨床試験に参加させていただき、これまで50例超の完全内視鏡下心房細動手術で使用しました。私は協同研究者として現在、本装置の最終段階として術式に最適なサイズ、形状のプローブをデザインしています。人工心肺を使用せず、拍動している心臓の外側から安全性と貫壁性を損なわず心房壁を焼灼するのは至難の業ですが、画期的な赤外線凝固器が完全内視鏡心房細動手術の有力な新兵器になるのは間違いないと思います。

実用化に向けて

杏林大学医学部心臓血管外科学教室
教授 窪田 博

中島教授はじめ臨床工学科の皆さんとはキャンパスが近いのでお互いに行き来して相談しながら効率よく研究を進めています。学生さんたちが真剣に実験している姿を見て、初心に帰る気持ちがしました。基礎実験から臨床まで、壁にあたっては乗り越えることの連続でしたが、多くの関係の皆様と協力することによって、少しずつ前進してここまで辿り着くことができました。
赤外線は、他臓器(膀胱、食道、腎臓、血管、肺、肝臓)においても基本層構造を保ったまま細胞を深く壊死させるという他のエネルギーにみられない特徴が今迄の研究でわかってきましたが、まだまだ未知のテーマが沢山あります。将来的には、他臓器の腫瘍も切開せず赤外線の照射で治療ができたり、止血、感染創処置、肺気腫など幅広い治療にも応用されるなどの可能性もある、社会的インパクトを持った開発です。医療機器としての承認に至るにはまだ大きな壁がいくつもありますが、早期の実用化を目指したいと思っています。

 

※所属・肩書き等は報告当時の表記です

Date: 2020年10月30日

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