脱毛症に挑む 毛髪の研究・医療の最前線

医学部皮膚科学教室教授

大山 学
1993 年慶應義塾大学医学部卒業。米国国立衛生研究所(NIH)・国立癌研究所(NCI)皮膚科訪問研究員として、それまで知られていなかったヒト毛包バルジ幹細胞の分子署名を初めて明らかにし、毛包のバルジ幹細胞を分離することに成功。以後、自己免疫性脱毛症の病態解明と治療法の開発に力を注ぐ。2014 年慶應義塾大学医学部准教授、2015 年杏林大学医学部教授

大山 学
1993 年慶應義塾大学医学部卒業。米国国立衛生研究所(NIH)・国立癌研究所(NCI)皮膚科訪問研究員として、それまで知られていなかったヒト毛包バルジ幹細胞の分子署名を初めて明らかにし、毛包のバルジ幹細胞を分離することに成功。以後、自己免疫性脱毛症の病態解明と治療法の開発に力を注ぐ。2014 年慶應義塾大学医学部准教授、2015 年杏林大学医学部教授

脱毛症の仕組み

脱毛症の仕組みは大きくわけて二つあります。
一つは毛を作っている皮膚の小器官である毛包が何らかの原因で壊されてしまうもので、もう一つは、毛の生え変わりのサイクルが異常になる病気です。前者の代表的なものが円形脱毛症、後者の例が男性型脱毛症です。
男性型脱毛症は約 1 千万人以上、円形脱毛症は自然に治ることもあり正確な統計はありませんが、10 万人に 20 人
くらいの頻度でみられるといわれています。
近年の脱毛症に対する医療の研究の進歩はめざましく、治療法や治療薬が多く確立されています。未だ良い治療のない脱毛症も多くありますが、正確に診断することで患者さん一人ひとりにあった治療ができる時代になりつつあります。
今でこそ私の外来は、毛髪に悩みをかかえる患者さんが多く受診されますが、実は私が最初に研究していたテーマは「水疱症」という病気に関連したものでした。

毛髪疾患研究のきっかけ

「水疱症」は、皮膚、とくに表皮の細胞に対して自己免疫が働き、みずぶくれやびらんなどが生じる病気です。治療なしでは広範囲の熱傷のようになり、死に至ることもあります。より治療効果を上げるため、私はこの病気に対する遺伝子治療を確立しようと試みました。研究を進めるうち、人体の様々な種類の細胞の基となる「幹細胞」に遺伝子を入れるのが治療効果を上げる重要なポイントではないかと考え始めました。
当時は皮膚の最も高位の幹細胞が毛を作り出す毛包にあることはわかっていましたが、ほとんどがマウスを用いた実験の結果であり、ヒトの毛包における正確な場所やそれを生きたまま取り出す技術もありませんでした。細胞を生きたまま取り出すには、その細胞の表面にある特徴的なタンパク=マーカーを見つける必要があります。私はそれを見つけようと来る日も来る日も顕微鏡をのぞき続けました。

エウレーカ!毛包幹細胞のマーカーを見つけ、生きたまま採取

ある日、膨大なデータから選び出した幹細胞のマーカー候補のうちの一つが毛包幹細胞に出ているのを見つけました。幹細胞を示すマーカーを染色すると、ホワーッと茶色に浮かび上がって見えたのです。アルキメデスが体積の測定に関する難問を解決する方法を発見したときに叫んだ「エウレーカ!(見つけた!)」はこういう瞬間だったのか、と思いましたね。
その後、そのマーカーを使って私は毛の幹細胞を豊富に含んだ細胞を生きたまま採取・培養することに世界で初めて成功し、その結果を 2006 年米国科学誌 The Journal of Clinical
Investigation で発表しました。
顕微鏡をのぞき続け 2 年半、私の研究対象は毛髪、特に脱毛症へと変わっていました。

研究と臨床の間で

今の研究の中心テーマは、再生医学、免疫学の手法で脱毛症や皮膚悪性腫瘍の治療に伴う皮膚の副作用などの状態を明らかにし、いかに治療法の効率をあげるかということです。
私の研究は、診断の精度や治療法の効果を上げるためのもので、できるだけ臨床に活かすために行っています。基本的には臨床医ですので、杏林に来てからは、「研究成果をいかに患者さんに還元するか」を特に強く意識しています。
一方、研究にはどうしても多くの時間が必要です。臨床とのバランスをいかに上手にとるか、とても悩ましい問題です。

若い人こそ研究を

最新の知見は研究をしていれば容易に知ることができます。わかっていることは教科書に書いてある。わからない現象を解決する力は、研究でしか身につきません。「臨床の力を高めたいなら研究すべき」、これは私の信条です。実験室で試験管を振るだけが研究ではありません。今後は AI を用いた臨床データの解析など研究の多様性は増していくと思います。
若いうちに何らかの研究をするとよいでしょう。

大事なのは楽しむこと

受験に失敗した、仕事がうまくいかない。誰でも辛く、大変なことはあります。私も浪人時代など辛い時期がありました。しかし、どんな経験も、自分の血となり肉となります。いま辛くても、いつか懐かしく振り返れる日が来ます。だから日々楽しむことを忘れないでほしい。
脱毛症に限らず、皮膚科の病気は患者さんに症状が見えてしまいます。つまりアピアランスの障害が多く、そうした方々に元気や安心感を与えるのも医者の役目です。気持ちは表情に出るので、まずは医者の心身の充実が必要です。日々、充実した時間を楽しむことが大切だと思います。
写真:アメリカで研究をしていた頃の大山教授

アメフトと実験と・・・

勉強は大切ですが、それ以外のことも学んで欲しいと思います。私は手先が器用な方で、絵を描いたり模型を作ったりするのが好きでした。
医学部に入るとヒトの組織の構造に興味をもち、解剖学教室で組織を染めたり、遺伝子を検出する実験をさせてもらっていました。大学ではそれ以外の時間は部活のアメフトに、大学の外ではアメカジとディスコ(どちらも今や死語!)をエンジョイしていました(笑)。

※記事および各人の所属等は取材当時のものです

ピックアップ