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JICA草の根協力事業報告[4] プロジェクトの評価会

 2017年10月から始まったJICA草の根協力事業「北タイの保健センターにおけるHIV感染者ケアの強化事業」ですが、早いものでプロジェクトの終了まであと4ヶ月を切りました。今回は、6月3日〜7日にかけて、チェンマイ県で実施された本プロジェクトの評価会の様子をご報告します。

 本プロジェクトは、チェンマイ県サンパトン地域病院で抗レトロウイルス療法(ART)を受けている患者さんが、サンパトン郡内の保健センターにおいてもARTを継続して同様に受療できる様に、保健センターの看護師のスキルアップを図ることと、病院と保健所間のART受療者紹介の仕組みを整備することを目的としています。2018年5月と8月に保健センターでART受療者へのケアを担当する看護師を対象に研修を実施しました。
 評価会には、JICA東京センターの会津菜穂氏、本学からは医学部 河合 伸特任教授、総合政策学部 岡村 裕教授、付属病院 佐野麻里子看護師、北島が参加しました。6月3日には、プロジェクトに関するワークショップがサンパトン地域病院にて開催され、タイ側のプロジェクトの関係者、保健センターの看護師から、これまでの経緯と成果、各保健所による取り組みに関する報告がありました。現在は、123人が保健センターでHIV感染症ケアを受けており、プロジェクト開始前と比較すると、患者満足度も健康状態も改善していることが報告されました。また、このワークショップには、チェンマイ県内の8郡から地域病院等でHIV感染者ケアに従事している医療関係者も参加くださり、本プロジェクトへの関心の高さを感じました。
 ワークショップの他に、サンパトン病院や保健センターの視察、プロジェクトに携わったサンパトン地域病院の医師、看護師、薬剤師、患者ボランティア、サンパトン郡保健事務所長、サンパトン郡内の2カ所の保健センターの看護師や保健センターでケアを受けているHIV感染者、チェンマイ県衛生局副局長、タイ保健省のHIV対策担当官などから、本プロジェクトの成果や課題について話を聞きました。病院や保健センターのスタッフからは、研修によって保健センターの看護師が自信をもってHIV感染者にケアを提供できるようになったことと、地域病院と保健センターの間の患者紹介と患者の情報交換が系統的に実施されるようになったことが良かったという意見が多い様に思いました。課題としては、ART受療者のスティグマがあげられました。自宅近くの保健センターを利用することで、近隣の人々にHIVに感染していることが知られてしまうことを恐れ、少し遠くても病院での受療を選択するという患者が少なからずいます。より多くの患者が保健センターでARTを受療するためには、スティグマを軽減することが重要です。また、保健センターに患者紹介をするために病院の看護師が多くの時間を割かなくてはならないことがわかり、その効率化の方法を検討する必要があります。更に、保健センターの看護師以外のスタッフもART受療者に適切にサービスが提供出来るように研修機会を提供することが重要であるとの意見もありました。
 チェンマイ県衛生局としては、県内の他の郡にも同様のART提供方法を普及させていきたいと考えている様です。保健省のAIDS対策課の担当者からも本プロジェクトに対する高い評価をいただき、現在、準備をしている患者のニーズに対応したART提供方法に関するガイドラインにサンパトン郡での活動成果を盛り込むことを検討するということでした。
 残りの期間では、保健センターの看護師を対象とした研修のカリキュラムや患者紹介マニュアル等、これまでの活動の成果をまとめ、他の地域の病院等が同様の取り組みを開始する際に、活用してもらえるようにしたいと思います。また、今回の評価会で明らかになってきた本プロジェクトの課題について、今後どのように取り組んでいったらよいかを、タイの方々や日本人専門家と検討したいと思っています。

ワークショップ参加者(国連による「差別ゼロの日」のシンボルである蝶々を手で形づくっています)

ワークショップ参加者(国連による「差別ゼロの日」のシンボルである蝶々を手で形づくっています)

トゥンシアン保健センターの方々と”ミニハート”

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チェンマイ県衛生局副局長からのヒアリング

チェンマイ県衛生局副局長からのヒアリング

このプロジェクトに関連する記事はこちらをご覧ください
◇JICA草の根協力事業報告[1] キックオフミーティングと研修会を開催
◇JICA草の根協力事業報告[2] タイ保健機関の関係者 本学に来校
◇JICA草の根協力事業報告[3] タイで看護師を対象にHIV感染者ケア研修

2019.6.11
総合政策学部教授 北島 勉