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多様化した社会 ものの見方を変えてみよう

本年度の卒業式に当たり、学長として一言ご挨拶を申し上げます。
卒業生、修士、博士の学位を授与された皆様、心よりお祝いを申しあげます。また、今まで皆様を支えてくださった保護者をはじめとするご家族、関係者の方々のお喜びは大変なものとご推察いたします。本当におめでとうございます。
さて、杏林大学の3研究科、4学部、医学部付属看護専門学校でともに学んだ1,056名の皆様が、今日の記念すべき日を迎えられました。学んだ場所は、八王子キャンパスであったり、三鷹キャンパスであったり、また学んだ年限の違いはありますが、卒業に至るまでの間には様々な出来事があったでしょう。
特に中国をはじめとした留学生の方々は、その苦労はまさに筆舌につくしがたいものがあったのではないかと推察いたします。それらを克服し、その結果が本日の素晴らしい日となりました。私は、皆様の努力に心から敬意を払いたいと思います。
この喜びの日を迎えるに当たり、何よりあなた方を支え、応援してくださった保護者、ご家族、友人に感謝の気持ちを新たにしてください。また、皆様の勉学を積極的に支援してきた杏林学園の教員、職員の働きも決して忘れないでいただきたいと思います。

ご承知のように、この八王子キャンパスにある保健学部、総合政策学部、外国語学部、保健学研究科、国際協力研究科が、4月から井の頭キャンパスに移転をします。従って、卒業式がここで執り行われるのは今年までとなります。八王子キャンパスで学生生活を過ごした皆様、またここで働いてこられた教職員の方々は感無量でありましょうし、私ども杏林大学関係者は深い感慨を抱いております。
杏林学園は、初代理事長である松田進勇先生により、1966年現在の三鷹キャンパスに杏林学園短期大学が設立されたことに始まっています。1970年には杏林大学医学部が創設されました。当時の60名の医学部一年生がはじめて基礎教養の講義を受けたのが、ここ八王子キャンパスでした。
従ってこのキャンパスは48年の歴史を有しています。八王子キャンパスにはその後保健学部、総合政策学部、外国語学部が相次いで開設され、今日ではここで学ぶ学生数は約3,500名になっており、杏林大学が本当に発展したものだと思います。
八王子キャンパスは広大で、緑に恵まれた教育環境にありますが、三鷹キャンパスと離れており全学的な教育連携が必ずしも十分にできず、医学・保健医療系と人文・社会科学系を併せ持つ大学の利点を生かしきれない面がありました。
また私は毎年、全ての新入生とお昼を食べながら話し合いをしております。皆様が一年生だったとき、サンドイッチを一緒に食べましたが覚えていますか?その時に学生諸君は異口同音に、駅から遠い、バス代が高いなどと申し、通学の利便性を求める声が強く上がっていました。
一方近年少子社会となり、大学入学志願者の減少がまさに現実のものとなり、大学運営上の問題も懸念されるようになってきました。こうしたことから、杏林大学は創立50周年を迎える本年、松田理事長の決断により、井の頭に新キャンパスを開設、八王子キャンパスの学部・大学院の移転を計画したのです。
皆様が学んだキャンパスが、移転することはとても寂しい気持ちもあるでしょう。ただ、素敵な井の頭キャンパスを一度訪れてください。そこは母校である杏林大学が、さらに大きく発展することを実感できるような素晴らしいキャンパスです。

さて、皆様の多くは社会人として活躍することになります。そこはどのような社会なのでしょうか。そこは、まさに多様化した社会であります。多様化とは幅広く性質の異なるものが存在することを意味しています。
皆様はこれまで、比較的圴一な環境の中で生活をしてきました。大学生は、講義を受け実習をする、試験を受け単位を取得する、ことが第一義的な目的です。多くの学生は共通の目的をもって、同じキャンパスで同じ講義を聴き勉学に励みます。このように生活の多くは均一な側面が大きいのです。
クラブ活動やボランテイア活動、アルバイトなどは様々なものがありますが、それも学生としての枠の中でのことでしょう。学生生活も多様化しているのは確かですが、これから経験する実社会はまさにグローバルな意味での多様化した社会です。そこで人種、性差、言語、信教の違い、障害の有無など、私達は多様性社会で生活しているのだと実感するはずです。
このような社会で生活する、活躍するために何をすればよいでしょうか?もちろん答えは一つではありません。多様化した社会では多様化した対応が必要となります。
私は、その中で一つ提案したいことがあります。それは、ものの見方を変えてみようということです。つまり、一つの物事を、別の側面からみること、別の方法でみること、別の立場で見ることです。
例えば、何か規則をつくる時に文面を考えます。何かしっくりこない時に、これを英語に直してみると問題点がはっきりしてくることがあります。医学論文で曖昧な箇所が出た時に、英訳をするとすっきりこともあります。
皆様は村上春樹さんをご存知ですね。ノーベル賞の文学分野で受賞が期待される作家ですが、彼は最初に小説を書いたとき満足できなく、同じ内容をもう一度英語で書いてみたそうです。それにより、彼が最初に書いた内容でなにが不足していたのか、そして文体の問題点などがわかり、これが作家として独自のスタイルをつくる第一歩となったと述べています。
これはもちろん日本語と英語のどちらが良いというものではありません。世界で最小の定型詩といわれる俳句は、日本語の持つ優れた特性を良く表しています。日本語の持つ叙情性豊かな側面、英語が持つ論理的な側面があり、それぞれの見方でものをみると違った見方ができるということです。
本学のピーター・マクミラン客員教授は、百人一首を英訳したことで有名ですが、英語でみる日本、日本語でみる日本の違いに大きな興味を持ったと言っています。言語だけではなく、みる方法を変えてみるのも良いでしょう。総合政策学部の方は、ある事案が起こったら、これを経済的、経営的側面でみるとどうなるか、法的な側面からみるとどうなるか、というようなものです。立場を変えてみること、これは日常で皆さんも実行していることでしょう。それをもう少し積極的、意識的にやってください。
医学部や保健学部の方は、当然のように患者さんの立場を考えるでしょう。ただ、相手の気持ちを察するのではなく、もっと踏み込んで自身が相手の立場に立ったらどうなのか、何をしたいのかと考えてみるのです。これにより、新たな見方がでてくるものです。
チーム医療の本来的な価値はここからも生まれてきます。内科医なら外科医の立場、看護師なら理学療法士の立場など様々な立場があります。その立場に身を置いて物事を見てみる、これを実践してください。本学で学んだことを基礎とし、多様な見方をすることで多様な社会に対応し、実社会で活躍することを願っています。

杏林学園の卒業生は3万名を超えており、これに新しく皆様が同窓生として加わります。三鷹、八王子の両キャンパスでともに学んだ皆様も、新しい杏林学園の同窓生としてとして、しっかり絆を深めていただきたいと思います。また母校と皆様との連携もいつまでも続くものでありましょう。
杏林学園は本年、創立50周年を迎えます。50周年に向けた井の頭キャンパスはロケーションもよく、本当に素晴らしいキャンパスとなります。杏林学園はさらに発展する大きな一歩を踏み出そうとしています。皆様のお力を是非お貸しくださるよう、お願いいたします。
卒業生の皆様、健康に気をつけてご活躍ください。
これで、学長の式辞といたします。

(2016年3月 杏林学園卒業式式辞より)