「次世代の災害医療」と題した日本医師会シンポジウムが、6月9日(日)に文京区の日本医師会館とライブ配信のハイブリッド形式で開催されました。本シンポジウムは、本学医学部救急医学教室 山口芳裕教授、付属病院高度救命救急センター長が6年間にわたり委員長を務めている、救急災害医療対策委員会が中心となり企画開催されたものです。
災害時の救急医療の在り方を検討する際、従来は災害が発生してからのオペレーションが検討されてきましたが、本シンポジウムでは、災害発生前から作動させるという新しいコンセプトで検討されました。気象庁や国土交通省、日本政策投資銀行の他、インフラ問題の解決に取り組むスタートアップ企業などを招き、講演やディスカッション形式で多角的に災害医療の在り方が検討されました。
【山口芳裕 医学部救急医学教室 教授・救急災害医療対策委員会委員長より】
この委員会では、過去に東京オリンピック・パラリンピック大会への医療支援のあり方をガイドブックにまとめたり、大災害が起こった時に設置する避難所での新型コロナ感染症の蔓延を防ぐためのマニュアルをまとめたりしてきました。
そして、今期は災害を未然に防ぐ、あるいは被害を少しでも小さくすることはできないかを検討して参りました。昨年9月には愛知県豊川市で実際に浸水被害にあった病院を訪ね、気象庁や国土交通省(河川管理事務所)などから、予報などの情報の取り方やその解釈の仕方を学びました。
私たち杏林大学高度救命救急センターのスタッフは、東日本大震災などさまざまな被災地に赴いて参りましたが、シンポジウムの中で、主旨を説明しているとおり、「災害時に医療で救える命は、全体の10%にも満たない」という事実が残念でなりません。それ以外の80-90%の命を救うためには、医療以外の、気象や河川、地震の専門家や、建築や都市工学、国土計画の専門家など、多方面の専門家たちと手を携えなければならないことを痛感して参りました。今回のシンポジウムは、そのことを一緒に議論する場を作ったものです。
併せて、災害が不可避であるわが国において、こうした困難とどう向き合い、これをどう乗り越えていくか、さらに大切な命をどう守るかという、ある種普遍的な命題を若い人にも考えていただくきっかけになったらいいな、という思いも込められています。
その意味で、学生さんを含め、多くの皆さんに視聴していただき、そして皆で話し合う契機にしていただけたら幸いに思っています。
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