メタボリックシンドローム(Mets)は、内臓脂肪蓄積型の肥満に加え血圧高値、脂質異常、糖代謝異常などの複数の異常が重積し、その結果、心血管疾患、糖尿病、脂肪肝、腎機能低下、高尿酸血症、睡眠時無呼吸症候群など健康リスクが増大する病態です。Metsの発症に影響を与えるのが生活習慣と遺伝素因です。これまでMetsのモデル動物を用いた研究によりSlc22a18という機能未知のトランスポーター(細胞膜を介する物質輸送タンパク)の変異が内臓脂肪型肥満と関連することが示されていましたが、その生理的な働きは分かっていませんでした。本研究では、Slc22a18が脂肪蓄積に及ぼす影響を主に肝臓と脂肪組織に焦点を当てて調べました。
マウスの肝臓でSlc22a18を過剰発現させると肝臓における中性脂肪の蓄積(脂肪肝)が誘発される(図1)一方、高脂肪・高蔗糖食下で肝臓でのSlc22a18の発現を抑制すると肝臓での中性脂肪の蓄積が著明な減少を示しました。また、遺伝性の肥満モデルマウスでSlc22a18を欠損させると脂肪重量が減少し、反対にSlc22a18を脂肪組織で過剰発現したマウスでは脂肪細胞の容量と脂肪重量の増加を認めました。これらの結果から、生体内においてSlc22a18が脂肪蓄積を促進し、特に肝臓や脂肪組織で重要な役割を果たしていること明らかになりました。本研究結果は、Slc22a18の発現亢進が肥満や脂肪肝などの代謝障害の原因となる可能性を示唆し、今後Slc22a18の機能を制御する化合物の発見が、Metsの新たな治療法の開発に資することが期待されます。
[掲載論文]
発表雑誌:Biochem Biophys Res Commun. 712-713. 149922. 2024.
論文タイトル:Overexpression of Slc22a18 facilitates fat accumulation in mice
著者:Takashi Yamamoto, Yoko Iizuka, Kozue Izumi-Yamamoto, Midori Shirota, Nobuko Mori, Yoshikazu Tahara, Toshiro Fujita, Takanari Gotoda
doi: 10.1016/j.bbrc.2024.149922.