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脳神経外科学教室 永根特任教授・小林講師が2025年米国臨床腫瘍学会で試験成果を発表

永根 基雄 特任教授(左)と小林 啓一 講師

 

 2025年5月30日から6月3日にかけて、米国シカゴで「2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO 2025)」が開催されました。5月31日には、脳神経外科学の永根特任教授と小林講師が、「再発膠芽腫に対する用量強化テモゾロミド+ベバシズマブ逐次併用療法をベバシズマブ療法と比較する多施設共同ランダム化第III相試験(JCOG1308C)」の主たる解析結果をポスター形式で発表しました。

 膠芽腫は、脳腫瘍の中でも最も悪性度が高く、標準治療としては、手術後に放射線治療と抗がん薬テモゾロミドの併用が世界的に行われています。テモゾロミドは、2006年に日本で承認された、膠芽腫に対して生存期間を延長する効果が科学的に証明された唯一の抗がん薬です。しかし、この治療を行っても再発は避けられず、再発後には血管新生阻害薬ベバシズマブが使用されますが、その効果には限界がありました。

 今回の試験(JCOG1308C)は、膠芽腫に有効性が示されているテモゾロミドを再発時にも増量して再度投与し、その後にベバシズマブを併用するという新たな治療法の有効性と安全性を検証したものです。本試験は、杏林大学を中心に日本全国の30を超える施設が参加した第III相臨床試験であり、適応外使用となる用量強化テモゾロミドについては、MSD株式会社および日本化薬株式会社から薬剤の提供を受け、先進医療B制度の枠組みのもと、AMEDの支援も受けて特定臨床研究として実施されました。

 このたび、治療成績の主解析結果がまとまり、がん医療分野で世界的に最も注目される学術集会の一つであるASCO 2025にて発表されました(参考:日経メディカルOncologyニュース、2025年6月1日掲載「再発膠芽腫に対する新規治療の第III相試験結果」)。

 米国臨床腫瘍学会(ASCO:American Society of Clinical Oncology)は1964年に設立された世界最大級のがん学会で、がんの治療と予防の向上を目的とした国際組織です。毎年5月末から6月初めに開催される年次集会には、世界中から4万人を超える腫瘍専門医や研究者などが参加し、最新の研究成果が発表されます。特に第III相試験(新規治療の有効性・安全性を最終段階で検証する試験)の結果が多数発表される場としても知られており、がん医療の最前線を担う重要な学会です。

 今回、永根特任教授が研究代表者、小林講師が研究事務局を務めた本試験(JCOG1308C)がASCOに採択・発表されたことは、本研究成果の重要性が国際的にも高く評価されたことを示しています。試験では残念ながら新規治療法の有効性は示されませんでしたが、治癒が困難な再発膠芽腫に対して、日本主導で実施された大規模な第III相試験の成果を国際学会で発信できたことは、非常に意義深いものです。

【永根基雄 脳神経外科学特任教授のコメント】

 膠芽腫は、脳にできる原発性がんの中でも極めて悪性度が高く、標準治療を行っても、平均して半年から1年で再発し、治療の選択肢が限られています。2年生存率は約50%、5年生存率は10%程度と、極めて予後不良な疾患です。

 本試験では、再発後の治療法として現在標準的に行われているベバシズマブ単剤療法に対して、テモゾロミドを増量して再投与し、その後にベバシズマブを併用するという新たな治療法の有効性を比較しました。全国のJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)参加施設の協力を得て、杏林大学が研究代表施設として、先進医療B制度の下、AMEDの支援も受けつつ本試験を主導しました。

 試験の立案は2011年6月にさかのぼり、14年をかけて得られた本成果を今回発表することができたことには、大きな感慨があります。今回は新規の治療法の有効性を示すには至りませんでしたが、この結果を踏まえ、今後さらに膠芽腫の患者さんにとって有効な治療法の確立につなげていきたいと考えております。最後に、本試験に参加していただいた全ての患者さん、ご家族・支援者、ご協力いただいた先生方ならびに医療関係者に心より感謝申し上げます。

医学部脳神経外科学教室

参考情報

・JCOG1308C試験概要(jRCT 臨床研究等提出・公開システム)

・日経メディカルOncologyニュース 2025年6月1「再発膠芽腫にdose-denseテモゾロミドとベバシズマブ逐次療法はベバシズマブ単剤に比べてOSを改善せず【ASCO 2025】」として紹介

2025年6月14日