受験生サイト サークル紹介 学生支援ポータル 学納金サイト  [在学生・保護者専用]

北タイ・JICA草の根技術協力事業(第5報) チェンマイ県の2つの地域での進捗報告

チェンダオ病院のHIVクリニックのスタッフと




総合政策学部教授 北島 勉

杏林学園はJICA(国際協力機構)から委託を受け、2024年7月からタイ北部のチェンマイ県とメーホンソン県の病院で治療を受けているHIV感染症患者のうち、病状が安定しているなど一定の基準を満たした方を地域の保健センターで、治療を継続できる仕組みづくりを目指して活動しています。これまで相互の国の保健・医療機関等の訪問や協議会を実施し、2025年2月には保健センターの看護師等への研修を行いました。

今回は、6月24日〜25日に訪問したチェンマイ県のチェンダオ郡とチャイプラカン郡の病院と保健センターでの取り組みの進捗状況などを報告します。チェンダオ郡は、チェンマイ市内から約90km、チャイプラカン郡はそこから更に60kmほど離れており、両郡ともミャンマーと国境を接する山の多い農村地域です。

チェンダオ郡を訪問して】

チェンダオ郡では、チェンダオ病院とテゥング・カオ・プング保健センター、そして患者さんのお宅を訪問しました。チェンダオ病院では、HIV感染症の治療を受けている患者のうち226人が保健センターに紹介する基準を満たしていることがわかっており、病院のスタッフが順次対象者と面談をしています。今のところ、そのうちの28人(12.4%)が保健センターで治療を継続することに同意しています。

私が、紹介患者を受け入れる施設の一つとなっているテゥング・カオ・プング保健センターを訪問した日は、3人の患者が来ていました。私は、今後 紹介患者を受け入れる他の保健センターの看護師とともに、問診や抗HIV薬の提供を行う様子を見学しました。見学終了後には、患者に対応した看護師、チェンダオ病院の医師やエイズコーディネーターナースらを交えて行った振り返りミーティングでは、HIV感染症患者は高齢化が進んでおり、高血圧症や糖尿病を併発しているまたは発症するリスクが高いため、それらの疾患への対応を協議しました。

テゥング・カオ・プング保健センターでの患者の問診の様子

テゥング・カオ・プング保健センターの看護師にとって、HIV感染症患者のケアを担当するのは初めてでしたが、今回の見学やミーティングを通して、患者を受け入れる準備ができていると感じました。

その後、受診した患者さんのお宅を訪問しました。お宅は保健センターから小さな山を越えたところの村にあり、車で20分くらいかかりました。道路は概ね舗装されていますが、大雨が降ると洪水で道路が寸断されることもある地域です。 ご夫婦ともにHIVに感染していますが、近所の人はそのことを知っているそうです。現在は元気にトウモロコシと果物を栽培して生活をしています。病院で治療を受ける場合、往復と病院での滞在時間を含めると概ね3時間くらいかかりますが、保健センターだと30分で済むので、とても助かるとのことでした。

患者さんのお宅の前で

【チャイプラカン郡を訪問して】

チャイプラカン郡でも同様に、チャイプラカン病院、保健センター、患家を訪問しました。同郡では、123人が保健センターに紹介する基準を満たしていました。41人と面談をし、そのうち13人(31.7%)から同意を得ています。ポンタム保健センターでも、患者受け入れの様子を見学したのちに、紹介患者の受け入れに関するミーティングを行いました。チャイプラカン郡の保健センターの看護師はHIV感染症の患者のケアを経験したことがあり、生活習慣病の管理についてもガイドラインに沿って対応し、わからないことがあれば病院のエイズコーディネーターナースに相談するとのことで、準備は万端のようです。

チャイプラカン病院でのミーティング(左)、ポンタム保健センターでの問診(右)

その後、患者さんのお宅を訪問しました。ご主人と二人暮らしで、果物やきのこの栽培、洋裁などをして生活しています。この方も自身がHIVに感染していることを周囲に伝えていますが、特に不都合はないとのことでした。保健センターで治療を継続できると、通院時間を大幅に短縮できるうえ、センターのスタッフはとても丁寧に対応をしてくれるのでありがたいと言っていました。

患者さんのお宅を訪問

保健センターへの紹介基準を満たしているが保健センターでの治療継続に同意しない方の大半は、HIVに感染していることを周囲に知られた場合に起こるかもしれない様々な問題を気にしてのことでした。このプロジェクトを進める上で、HIVに関する正しい理解を醸成し、差別や偏見をなくすことの重要性を改めて感じました。

≫これまでの報告はこちら:https://www.kyorin-u.ac.jp/univ/news/1205/

≫プロジェクトのFacebook: https://www.facebook.com/groups/sanpatongmodel

2025年6月30日