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本学参加の産学官連携で奥多摩の地域を元気に!

 本学は2013年度に文部科学省の「地(知)の拠点整備事業」に採択されたのを契機に、地域交流活動を全学的・体系的に推進し、人々の健康を大きなテーマと位置づけて医療系・文系の各学部が積極的な活動を続けています。その活動は自治体だけでなく、各種団体や民間企業などと緊密に連携して行われ、産学官連携の重要性と有効性を地域社会に示してきました。こうした中で、本学は2025年9月、奥多摩の地域振興を担う企業との間で、持続可能な地域づくりと地域の活性化に資する教育研究の充実を目的とした包括連携協定を締結しました。学生たちはこの企業や奥多摩町などと協力し合い、過疎化が急速に進む地域に飛び込んで実践的な学びの機会を得ながら、そこに住む人々を元気づける活動に力を尽くすことになります。

 杏林大学は2025年9月、「沿線まるごと株式会社」(本社:東京都西多摩郡奥多摩町)と包括連携協定を締結しました。沿線まるごと(株)は、「JR東日本」と全国各地で地域の活性化やビジネス創生を支援している「株式会社さとゆめ」が共同出資して設立された会社で、鉄道沿線の宿泊事業など地域創生の活動を展開しています。協定式には、本学の渡邊卓学長と沿線まるごと(株)の田治米伸康取締役のほか、JR東日本八王子支社、奥多摩町役場の関係者も出席しました。
 包括連携協定書では、「沿線まるごと(株)と杏林大学は相互の協力により持続可能な地域社会づくりと発展、活性化の推進に貢献する教育・研究活動の充実、ならびに人材育成を目的とした協力関係を構築する」として、以下のような連携内容を規定しています。
●相互の知的、人的資源等を活用した産業振興に関すること
●地域経済の活性化に係る教育プログラムに関すること
●学生の実践的な学習機会の創出に関すること
●産学連携による新たな価値創造に関すること
 観光振興などを伴う地域経済の活性化は、地元住民の生活向上や鉄道経営の改善に繋がると共に、大学としても、学生が地域社会の課題に向き合い、解決策を探るという実務的な学習の機会を得ることができます。沿線まるごと(株)が2021年に設立された後、最初に手掛けたプロジェクトが過疎に悩む奥多摩エリアの「JR青梅線沿線活性化事業」で、杏林大学は総合政策学部、外国語学部のゼミナール活動を通してこの事業に参加することになりました。

地域創生に期待された“学生の行動力”

 杏林大学と沿線まるごと(株)が出会うきっかけは、学生たちの活動からでした。2年前、井の頭キャンパスで国内各地の特産品を集めて販売するイベント「クラフトマーケット」を開いたときに、奥多摩産のワサビが出店されました。意外な特産品に興味を持った学生たちは奥多摩を盛り上げる活動をしている人たちの会合に参加します。そのとき沿線まるごと(株)の関係者と出会って意気投合。その後、学生たちはJR青梅線の鳩ノ巣駅付近の整備事業に協力して、社員や住民たちと一緒に草取りをしたり、会社が企画した観光スポットを巡るツアーに参加したりしました。学生たちはこうした活動を通して発見した地域課題とその解決策について、学生目線で作成した報告を会社に行ったりもしました。
 一方、沿線まるごと(株)は、2025年3月に行われた杏林大学地域総合研究所フォーラムで奥多摩地域での地域創生活動について講演等を行ったほか、2025年秋に社会人向けに開講した「杏林大学 まなび直し講座・杏林型ウェルネスツーリズム」で2コマの講義を担当することに。こうした本学と会社の交流が連携協定に発展したのです。
 沿線まるごと(株)は鉄道と地域資源を融合させた新たな観光モデルを展開しており、将来的には全国30 路線への拡大を目指しています。奥多摩地域では「沿線まるごとホテル」というコンセプトのもと、無人駅をフロントにし、古民家などの空き家を客室にしたユニークなホテル事業に乗り出しました。2025年5月にホテルの第一棟が開業。地域住民を「ホテルキャスト(宿泊客が快適に過ごせるよう様々なサービスを行う人)」として、町全体でおもてなしを提供しています。
 杏林大学はこうした事業に関連する地域おこしに参加することになっていて、協定の締結後に早速「奥多摩町町制70 周年事業」に携わりました。11月16日に行われた記念イベントでは、企画・運営に総合政策学部の三浦ゼミと外国語学部の古本ゼミの学生約50人が参加しました。町の関係者からは、「若い人の視点で、いろいろな提案をしてもらい、イベントに活気が感じられた」と好評でした。


2025年 3月 地域総合研究所フォーラム
「企業×自治体×総合大学の連携で織りなす『杏林型ウェルネスツーリズム』の発展と意義」をテーマにしたフォーラムが井の頭キャンパスで開かれた。(株)さとゆめ・沿線まるごと(株)・JR東日本(株)・奥多摩町観光産業課の職員による講演、パネルディスカッションを通して産学官が連携した地域づくりについて考えた。

2025年 7月 学生が奥多摩地域の課題を報告
奥多摩地域の課題報告会で、三浦ゼミと古本ゼミが、現地調査などを行った結果導き出した地域課題を発表。

2025年 9月 杏林大学と沿線まるごと(株) 包括連携協定を締結
奥多摩町の持続可能な地域社会づくりと地域の発展・活性化の推進に貢献する教育・研究活動の充実、ならびに人材育成を目的とした協力関係を構築するべく、包括連携協定を締結。

2025年11月 奥多摩町町制施行70周年記念事業
三浦ゼミと古本ゼミが企画・運営に協力。


奥多摩町町制施行70周年イベント


総合政策学部 渡辺学さん
(三浦ゼミ4年)

 2 年前のクラフトマーケットに出店した奥多摩の事業者を通じて、奥多摩の魅力を知り、奥多摩を盛り上げる活動に参加した一人で、今回のイベントの学生代表を務めた総合政策学部4 年生の渡辺学さんは、「多くの方に奥多摩を知ってもらうため、町民20人インタビューのパネル展示や町の見どころをめぐるスタンプラリーを行いました。当日は天気に恵まれ、多くの方が楽しんでくれました」と話しました。
 また、イベントを振り返り、「奥多摩の方は、“町と自然の調和を大切にしたい” 強い思いがあり、それを重視して活動したいと感じました。多方面でサポートしてくれた、沿線まるごと(株)の溝口さんは、学生の自由な発想が町の活性化のヒントになると、私たちの意見を真剣に聞いてくれ、何事にも、実際に現地に行って、人と話すことが大切だと、自らの行動を通して私たちに教えてくれました。ここで得た経験は、私にとってかけがえのない財産です。奥多摩の皆様、関係者の皆様に感謝しています」と話しています。


一般社団法人おくたま地域振興財団
菅 俊一郎さん

 奥多摩町の豊かな自然を活用して森林セラピーや観光PRなどの事業を展開する、おくたま地域振興財団の菅俊一郎さんは、「70周年イベントを通じて、学生が奥多摩の歴史や文化などに興味を持ち、なにか魅力を感じてくれたら嬉しいです。イベントでは、『町民20人インタビュー』の一人として学生の取材を受けました。私の話を熱心に聞き、質問をたくさんしてくれたことが嬉しかったですね」と学生との交流について聞かせてくれました。
 学生が地域で活動することについては、「全国には、奥多摩と同じような課題や問題を抱える地域も多く、学生がそうしたことに関心を持ってくれたのは嬉しいです。遊びたい盛りにもかかわらず、奥多摩の人と深く関わり、時間をかけてイベントの準備をしてくれました。この経験は社会に出て間違いなく役に立つでしょう。なにより、奥多摩町に注目し、地域を一緒に盛り上げてくれたことに感謝しています」と話しています。


インタビュー(1)学生とつくる奥多摩のミライ
沿線まるごと株式会社 コーディネーター 溝口謙太氏

◆溝口謙太(みぞぐち・けんた)氏
鉄道と地域をつなぐ「沿線まるごとホテル」の構想を現場の最前線で形にしている。JR東日本から出向中

―奥多摩町の地域的な特徴 について教えてください
奥多摩町は東京都でありながら、人口減少や高齢化、空き家問題など地方特有の課題を抱えています。都心からのアクセスが良く、自然や文化が色濃く残る奥多摩は、地方創生を学ぶ場として理想的です。

―この取り組みで大切にしていることは何ですか
住民の皆さんとは、継続的な関係を築くことを重視しています。〇〇商店の○○さん、ワサビ田の〇〇さん、など顔の見える関係を大切にしています。学生にも「住民とどんどん話をしてほしい」と伝えています。

―地域で活動する学生の様子はどうですか?
奥多摩町のイベントに向けて、積極的に住民インタビューをしていました。杏林の学生は、どんな時も主体的で積極的な姿勢で臨んでいて、地域の方々にも好意的に受け止められています。

―学生にとっての意義はどのような点にありますか?
現場での学びは、学生にとって貴重な機会です。実体験を通じて、地域課題に対する理解を深めることは、これからの社会を生きる若い人にとって大きな財産になります。

―今後の活動について教えてください
沿線まるごとホテルは、単なる宿泊施設ではなく、地域の未来を共に創るプラットフォームです。学生、住民、行政と連携して、奥多摩の魅力を再発見し、持続可能なまちづくりを目指す活動をしていきたいです。

     

インタビュー(2) 奥多摩で育まれる「実践の学び」
地域連携センター 副センター長・総合政策学部三浦 秀之 教授

◆三浦秀之(みうら・ひでゆき)教授
国際政治経済を専門とし、グローカルな課題の発見とその解決を志向するゼミを展開。東日本大震災の被災地での課題発見と解決に取り組んだプロジェクトは、2015年と2018年にグッドデザイン賞を受賞

―奥多摩での学生の活動をどのように考えていますか
奥多摩は、過疎化や少子高齢化に伴い、多様で複雑な課題を抱えていて、その解決に向けた道筋は、模索の途上にあると思われます。だからこそ、学生が地域に足を運び、現場に触れることは、課題を発見し、解決への一歩を踏み出すうえで重要だと考えています。

―奥多摩での取り組みについて教えてください
沿線まるごと(株)の協力のもと、外国語学部の古本ゼミナールと連携し、奥多摩地域の課題発見に取り組んでいます。学生は、町の基本計画や各種データ、地域の歴史を丁寧に調査したうえで仮説を構築し、その検証のために地域へ赴き、ヒアリング調査を重ねてきました。社会の多様な課題を、現場での体験と仮説検証を通じて理解を深めています。

―学生の成長をどう感じていますか?
普段関わる機会の少ない企業や行政、地域の大人から学ぶことは多く、その過程でスケジュール管理やタスク遂行力、責任感を身につけているようです。また、実践の中で気づいた自らの知識不足を補うために大学の授業で主体的に学ぼうとする、良い学習循環も生まれています。奥多摩での取り組みは、総合政策学部が掲げる理念「社会の課題を多角的に捉え、自ら行動できる人材の育成」を体現するものだと感じています。

―今後の展望を教えてください
学生自身が見いだした地域課題の解決策を発表する場を設ける予定です。その解決策が小さなものであっても、実際に形にするためのスモールステップを踏み出し、次の挑戦につなげていくことが重要だと考えています。

 

産学との連携で町おこしがグレードアップ!
奥多摩町 町長 師岡 伸公(もろおか のぶまさ) 氏

 奥多摩町は1957年に奥多摩湖ができてから、これを核にした観光振興に力を入れていますが、今の時代はそのあり方が様変わりしています。産業界や大学の皆さんは行政機関がなかなかできないことをやってくれる面があり、ここ数年の産学のご協力で町おこしがグレードアップして来た印象があります。
 沿線まるごと(株)は、青梅以西の地域で町のホテル化という新たな企画を考案してくれ、それが今この地域の観光振興の大きな流れになっています。こうした事業者とのコラボレーションは行政だけでなく、学生にとっても実践を学ぶよい機会になると思います。
 今年、杏林大学の学生さんたちにはワサビ田での活動や町制70周年の記念事業に参加してもらいましたが、町の関係者からは「非常によくやってくれ、自分も頑張ろうという気持ちになった」という声を耳にしました。大変感謝しています。


杏林大学新聞第35号(2025年12月23日発行)より

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2025年12月25日