外国語学部のピータ A マックミラン客員教授(専門は文学、詩、美学、翻訳)は、2008年に独自の手法で英訳した「小倉百人一首」の英詩訳を発表し、国内外で大きな評価を受けるなど、日本の古典文学に造詣が深いことで知られています。
近年は芸術活動にも精力的に取り組んでいます。このたび、2012年10月8日から12日にかけてフランス・パリ市のUNESCO本部で開催された展示会イベント「浮世絵展示会〜日本より感謝を込めて」では、マックミラン客員教授が制作した版画作品8点が展示され、注目を集めました。
公益社団法人日本ユネスコ協会連盟とUNESCO(国連教育科学文化機関)の主催による本展示会は、東日本大震災の被災地に対して世界中から寄せられた募金や善意への感謝の意を表すとともに、自然と共に生きる日本人の姿や日本文化を浮世絵を通して伝えることを目的としています。日本の企業・団体もスポンサーとして本イベントに協賛しました。
マックミラン客員教授が出品した作品は、版画作品シリーズ『新・富嶽三十六景』の一部です。天才浮世絵師・葛飾北斎へのオマージュとして、理想化された霊山としての富士山の姿と現代日本社会の現実を対比し、「現代の浮世絵」として観る者に問いかけるユニークな作品です。
本展示会では他に、望月義也氏のコレクションによる浮世絵のオリジナル8点と、写真家テラウチマサト氏による富士山の写真作品が展示されました。また、2003年よりボストン美術館とNHKプロモーションの共同で行われている浮世絵デジタル化プロジェクト(日本側責任者は牧野健太郎氏)の一環として、浮世絵を100〜300倍にまで拡大し、細部まで拡大されたが壁一面に展示されました。(木田俊一氏が和紙に染め摺りを施し制作。)
今年11月には、客員研究員として在籍経験のあるアメリカ・ニューヨークのコロンビア大学でも作品展が開催されます。この展覧会のオープニングには、マックミラン客員教授の恩師であるドナルド・キーン博士も出席する予定です。
ピーター・マックミラン客員教授の横顔
美術愛好家でもあるマックミランは美術家としての顔も持ち、最近では版画シリーズ「新・富嶽三十六景 Thirty-Six New Views of Mount Fuji」の制作・展示にも力を入れている。これは、言うまでもなく天才絵師・葛飾北斎の有名な浮世絵版画集「富嶽三十六景」へのオマージュだが(版画制作の際、マックミランは北斎への敬愛を込めて「西斎」の雅号を用いている)、制作のそもそものきっかけはやはり日本文学研究であった。マックミランは近年、日本人の精神性の象徴として、富士山が登場する古今の文学作品を取り上げた本(『富士文学百景』)の執筆にも取り組んでいる。万葉集にはじまり、伊勢物語、松尾芭蕉の句から、太宰治の『富嶽百景』、草野心平の詩や俵万智の短歌まで、富士山を描写した文学作品は数多い。そうした「富士文学」の研究を進める中で、マックミランは日本古来の伝統文化と現代日本の高度消費社会との間に横たわる大きなギャップに気づかされることとなる。版画シリーズ「新・富嶽三十六景」は、このギャップに脚光を当て、浮世絵や日本の古典絵画のイメージを下敷きとしつつ、ユーモアをこめて表現した作品集である。
「新・富嶽三十六景」では、富士山という悠久のシンボリックな存在の姿を通して、日本人も含めた全世界の人々に対し、環境問題やサステナビリティ、グローバリゼーションなど、現代社会が抱える様々なテーマについての問題提起を行うこともひとつの大きな狙いとしている。