苣田 慎一 (衛生学公衆衛生学教室 助教)
吉田 正雄 (衛生学公衆衛生学教室 准教授)
苅田 香苗 (衛生学公衆衛生学教室 教授)
現在、プラスチックごみの水環境汚染が問題になっています。アメリカの研究チームの報告によると、水道水にもマイクロプラスチック(以下MPと記載)繊維が含まれている場合があり、私たちも飲水等を通じてMPを摂取している可能性があることが示されました。MPビーズは洗顔料や化粧品のスクラブの原材料として生産される数十から数百μmの粒子で、試算によると毎日8兆個のMPビーズが水環境に排出されています。ところが、現在のところMPの生体毒性を評価した研究は乏しく、早急な研究データの集積が待たれています。
私たちの研究では、MPを小型脊椎動物が摂取した場合、生体にどのような影響が現われるのかを実験的に調べました。今回の研究では、MPビーズ(ポリエチレン製、粒径60μm以下)と市販餌を混合した餌を作成し、OECDにおいて有害物質を評価するモデル生物として指定されるメダカに与えました。環境中で考えられる曝露量で摂取させた試験群と、市販餌のみで飼育した対照群を12週間観察し、その期間のメダカの成長率、産卵数、受精卵の孵化率を比較しました。また、経口曝露されたMPビーズの消化管における滞留時間を調べました。
その結果、MPビーズは最低でも4日、最大9日間消化管に滞留することが分かりました(図中のb)。一般に小型魚類では、不消化物は経口摂取後4時間以内に排泄されます。つまり、MPビーズは消化管にかなり長時間滞留したことになります。市販餌とMPビーズを均一に混合した餌を与えましたが(図中のa)、フンを見るとMPビーズと食物由来物が分離していました(図中のc)。つまり、MPビーズは一定の塊になるまで消化管に留まり、その後排出されたことになります。試験群の成長率はおよそ10%、産卵数はおよそ50%減少しました。これは消化管内で滞留したMPビーズによる栄養吸収阻害が一因ではないかと考えられます。また、試験群から得られた受精卵の孵化率もおよそ30%減少していました。現在のところ、生殖力が低下した理由は不明であり、次の実験を進めています。
今回の研究成果に引き続き、様々な濃度のMPビーズでの曝露試験を進めています。これにより、実験脊椎動物でのNOAEL(無毒性量)や LOAEL(最小毒性量)を提示することができます。このような毒性データを蓄積していくことで、他の生物やヒトへの外挿可能性(実験動物で得られた結果からヒトなどの他の生物への影響を推定することの可能性)が高まり、公衆衛生上の基準や制限を設定する際の傍証としての活用が期待されます。
発表雑誌: | Environmental Pollution |
論文タイトル: | Ingestion of polyethylene microbeads affects the growth and reproduction of medaka, Oryzias latipes |
DOI: | 10.1016/j.envpol.2019.113094 |