2020年8月に行われた、日本外科学会定期学術集会の医学生の発表セッションに参加しました。テーマは、「皮膚縫合練習の素材の違いによる教育効果の調査」です。発表者は上級生が多く、内容も臨床実習で体験した症例報告が大半を占めていました。その中での挑戦でしたが、精一杯取り組みました。
発表資料を完成させるまでには、データ収集、統計分析、音声付きの資料作成など、初めて経験する多くの工程がありました。データを集めるためセミナーに協力してくれた友人、発表の手助けをしてくれた仲間の存在は大きかったです。そして終始相談にのっていただいた呼吸器・甲状腺外科の先生方には感謝と共に、次回は、今回の発表を上回る成果を報告したいと思っています。
発表は以下の通りです。
私たちは、学年を問わず、早い段階から外科手技を体験できる外科手技同好会『ひも倶楽部』に所属しています。
今回、同好会のメンバーを対象に、豚皮と人工皮膚(ポリビニルアルコール)を用いて皮膚縫合セミナーを開催し、その教育効果の違いについて検証しました。
【方法】
学生20名をランダム化ソフトで2グループに分け、まず、全員に縫合手技評価シミュレータM57BⓇ(KYOTO-KAGAKU)で、専用の皮膚パッドに3針縫合するテストをしてもらいました。そのあと、一方のグループは縫合素材に豚皮を用いて、もう一方は人工皮膚を用いて、呼吸器外科の田中良太先生の指導のもと、基本的な縫合手技の練習を90分間行いました。最後に、再び縫合手技評価シミュレータで同じテストを行い、縫合練習の素材の違いが手技評価にどのように影響しているかを比較しました。
なお手技評価は、時間、皮膚に加わる力(外力)、結紮力、縫合間隔、縫合幅、創離開の6項目としました。
【結果】
全員が練習の前後(練習後−練習前)で、縫合にかかる時間が有意に短縮し(p=0.001)、算出された総合得点が有意に改善していました(p=0.014)。
縫合にかかる時間の差は、豚皮群では-75.6±49.36秒、人工皮膚群では-107.6±85.21秒で、統計学的な有意差はみられませんでした。
また縫合シミュレータの総合スコア(算出された総合得点)の差は、豚皮群では5.2±12.7点、人工皮膚群では10.1±10.8点で、統計学的な有意差はみられませんでした。
結紮力・縫合間隔については練習の前後で改善がみられませんでしたが、他の4項目については時間や総合スコアと同様に改善がみられました。
【考察】
素材の違いによる練習効果に有意差はみられませんでしたが、いずれの材料においても評価スコアは改善していました。この結果から従来から用いられる豚皮と同様、人工皮膚も縫合手技のスキル上達に効果が期待できると考えました。
[写真:Web発表を終え、外科学教室の先生、調査班の学生とともに。中央が中村さん]
※記事および各人の所属等は取材当時のものです