教室概要
細胞生化学教室が担当する分子生物学、細胞生物学は、医学・医療の全分野に渡って技術的・概念的にそれらの支柱となっている学問であり、近年の組み換えDNA革命を経て爆発的な発展を遂げています。1年生では分子生物学と遺伝子工学の実習を、2年生では細胞生物学のエッセンスを習得してもらいます。一方、研究面においては、インスリンの開口放出の分子機構を解明すべく、日夜実験を重ねています。すなわち、遺伝子工学技術、細胞生物学技術、顕微鏡技術を融合させて開発した独自の技法を駆使し、膵β細胞からのインスリン放出の可視化に世界に先駆けて成功し、我が国で社会問題となっている糖尿病成因の解明に精力的に取り組んでいます。
教育の特色
ヒトゲノム解析がほぼ完了した現在、分子生物学は、医学・医療のすべての分野にわたって技術的にも概念的にもそれらを支える柱となってきている。臨床医といえども、今や分子生物学の素養なくして、急速なスピードで進化していく医療について行くことはできない。従ってM1では、学生が将来臨床医となったときに要求される分子生物学および遺伝子工学技術に関する最低限の知識と論理を体得することを目標としている。
M2では細胞レベルで個々の生化学的事象を統合的に把握することにより、疾患の病態生理の理解を深める。M1で習得した生物学、分子生物学、生化学の基礎知識をもとに、個々の生化学的事象を細胞レベルでの統合的な理解へと発展させる。この作業によって、医師を目指す学生が疾患の病態生理を理解するために必要な細胞の構造・機能を分子レベルから理解することを目標としている。
社会的活動
教室員は以下の学会で活動しています。
日本生化学会
日本糖尿病学会
日本神経科学会
日本内分泌学会
日本細胞生物学会
大学院教育の特色
細胞生化学研究を通じて科学的思考を論理的に展開する手法を学び、科学者として基礎医学の観点のみならず臨床医学の両面から検討を加え細胞分子レベルでの解明を目指す人材の育成を教育の基本方針としている。
研究テーマ
細胞生化学教室の主要研究テーマは、膵β細胞におけるインスリン分泌の分子機構の解明である。今や日本国民の健康にとって最大の脅威となっている糖尿病の成因解明、新たな予防法、及び新規治療薬の開発のためには、インスリン分泌機構を明らかにすることが分子細胞生物学の観点からのみならず、臨床医にとっても急務の課題となっている。日本人の糖尿病患者数は予備軍を含めて約2,000万人、かつ、死亡率順位2,3位を占める心・脳血管障害の発症率は、糖尿病罹患者において非罹患者の3倍にも昇っている。特に日本人の糖尿病の特徴は、インスリン分泌不全を特徴としているため、インスリン分泌機構を分子レベルから明らかにすることが待ち望まれている。そこで、当部門は新しいイメージング手法を用いてインスリン分泌の分子機構を解明することに精力的に取り組んでいる。インスリンは膵β細胞内にあるインスリン顆粒と形質膜が融合することによって細胞の外に放出される。この様なインスリン開口放出の分子機構を明らかにするためには、生きた細胞を用いて、単一インスリン顆粒の動態を、時間的空間的に解析することが必須である。そこで、当部門においては、1分子の蛋白質を捉えることが可能なtotal internal reflection fluorescence microscopy (TIRF)システムを膵β細胞に構築し、単一インスリン顆粒をナノスケールの範囲、かつ33msのビデオレートで解析するシステムを確立した。このシステムと、従来の遺伝子工学的手法による遺伝子改変動物や種々のプローブを用いた実験を組み合わせることにより、2相性インスリン分泌の仕組みが徐々に明らかになりつつある。
現在、糖尿病におけるインスリン開口放出の異常部位、新規糖尿病薬の膵β細胞における作用等を明らかにしているところである。
研究内容の詳細は、教室ホームページへ。
近年の主な業績
- Aoyagi K, Nishiwaki C, Nakamichi Y, Yamashita SI, Kanki T, Ohara-Imaizumi M. (2024) Imeglimin mitigates the accumulation of dysfunctional mitochondria to restore insulin secretion and suppress apoptosis of pancreatic β-cells from db/db mice. Sci Rep. 14(1):6178
- Aoyagi K, Yamashita SI, Akimoto Y, Nishiwaki C, Nakamichi Y, Udagawa H, Abe M, Sakimura K, Kanki T, Ohara-Imaizumi M. (2023) A new beta cell-specific mitophagy reporter mouse shows that metabolic stress leads to accumulation of dysfunctional mitochondria despite increased mitophagy. Diabetologia 66: 147-162
- Ohara-Imaizumi M, Aoyagi K, Ohtsuka T. (2019) Role of the active zone protein, ELKS, in insulin secretion from pancreatic b-cells. Mol Metab. 27: S81-S91
- Ohara-Imaizumi M, Aoyagi K, Yamauchi H, Yoshida M, Mori MX, Hida Y, Tran HN, Ohkura M, Abe M, Akimoto Y, Nakamichi Y, Nishiwaki C, Kawakami H, Hara K, Sakimura K, Nagamatsu S, Mori Y, Nakai J, Kakei M, Ohtsuka T.(2019) ELKS/Voltage-Dependent Ca2+ Channel-β Subunit Module Regulates Polarized Ca2+ Influx in Pancreatic β Cells. Cell Rep. 26(5):1213-1226
- Aoyagi K, Itakura M, Fukutomi T, Nishiwaki C, Nakamichi Y, Torii S, Makiyama T, Harada A, Ohara-Imaizumi M.(2018) VAMP7 Regulates Autophagosome Formation by Supporting Atg9a Functions in Pancreatic β-Cells From Male Mice. Endocrinology. 159(11):3674-3688
- Kunii M, Ohara-Imaizumi M, Takahashi N, Kobayashi M, Kawakami R, Kondoh Y, Shimizu T, Simizu S, Lin B, Nunomura K, Aoyagi K, Ohno M, Ohmuraya M, Sato T, Yoshimura SI, Sato K, Harada R, Kim YJ, Osada H, Nemoto T, Kasai H, Kitamura T, Nagamatsu S, Harada A. (2016) Opposing roles for SNAP23 in secretion in exocrine and endocrine pancreatic cells. J Cell Biol, vol.215: 121-138,
日本語の解説・書籍など
- 今泉美佳、青柳共太 (2024) 2相性インスリン開口分泌のメカニズム Diabetes Journal, 51:44-52
- 青柳共太、今泉美佳 (2020) 2相性インスリン分泌のメカニズム 月刊糖尿病, 127:20-26
- 今泉美佳 (2019) 膵β細胞のアクティブゾーンタンパク質ELKSが血管方向へのインスリン極性分泌をコントロールする Diabetes Journal, 47:168-170
- 今泉美佳 (2019) アクティブゾーンタンパク質ELKSによるインスリン極性分泌調節機構 Diabetes Strategy, 9:156-157