血液内科は、造血器に由来する様々な疾患を扱う診療科です。血液細胞は、大きく分類して、白血球、赤血球、血小板の3つの細胞から成り、これらは、造血幹細胞と呼ばれるすべての細胞の源となる細胞が分化成熟してつくられます。白血球は感染防御、赤血球は酸素の運搬、血小板は止血の機能を担い、いずれも生命維持に欠かせない重要な細胞です。血液疾患では、これらの細胞が減少する、あるいは異常増殖するなど多岐にわたる異常が生じ、その多くは血液の異常にとどまらず、全身の臓器に様々な障害をもたらします。血液内科は、血液という特殊な細胞を扱うspecialistとしての側面と、全身をくまなく管理するgeneralistとしての側面の両者を兼ね備えており、大変魅力的な分野です。
当教室では、あらゆる分野の血液疾患の診療、研究を行っていますが、中心となるのは、造血器腫瘍の治療です。造血器腫瘍には、急性白血病、慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性腫瘍、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などがあり、いずれも、近年、多くの新薬が登場して、治療成績の改善が著しい領域です。当科では、これらの最新の治療に積極的に取り組み、世界レベルに負けない治療成績を出せるよう、努力を続けています。
難治性血液疾患の治療に欠かせないのが、造血幹細胞移植です。当教室では、2002年に自家造血幹細胞移植の第1例を、2004年に同種造血幹細胞移植の第1例を行い、以後、造血幹細胞移植を教室の中心テーマの一つとして、その治療成績の向上に努めています。2019年の時点で、累計、約130例の自家移植、約210例の同種移植を実施してきました。同種移植には、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、臍帯血移植がありますが、当教室では臍帯血移植に特に力を入れています。
このように、当教室は、難治性血液疾患の多摩地区の診療拠点となるだけでなく、新たなエビデンスを創出できるよう、日々、努力を重ねています。
多摩地区では、お互いの学術交流を深めるために、定期的に様々な血液疾患をテーマに研究会を行っております。
難治性血液疾患の治療開発には、大規模な臨床研究が欠かせません。当教室は、白血病治療に関しては、成人白血病治療共同研究機構(JALSG : Japan Adult Leukemia Study Group)、悪性リンパ腫治療に関しては、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG : Japan Clinical Oncology Group)という、日本を代表する全国規模の研究グループに所属し、積極的に臨床研究を行っています。
同種造血幹細胞移植に関しては、臍帯血移植の治療成績の向上が中心的な研究テーマです。血縁者に適切なドナーが存在しない場合、骨髄バンクによる非血縁者間移植または臍帯血移植が代替幹細胞源として用いられます。臍帯血移植は、迅速な移植が可能であるというメリットを有する反面、移植早期の合併症管理は他の幹細胞源より難渋することが多く、全体的な治療成績は、非血縁者間移植にやや劣ると考えられています。当教室では、移植片対宿主病の予防に工夫をこらすことにより、臍帯血移植後に発生する諸問題を克服する試みを行っています。まだ症例数は多くはありませんが、一部では大変良好な成績が得られています。
悪性リンパ腫は、血液疾患の中でも最も症例数が多く、血液疾患の中でも大変重要な位置を占めます。悪性リンパ腫には多くの細分類があり、どのカテゴリーに属するかにより、治療法や予後が大きく異なるため、正しい診断が何より重要です。悪性リンパ腫の病理診断には高度に専門的な知識が要求されるため、当教室では、外部から専門家を招いて、病理の検討会を月1回行っています。
多発性骨髄腫は、近年、多数の新薬が開発され、治療成績の改善が著しい分野です。当教室でも、多発性骨髄腫の患者さんは多数診療しており、若年者には自家造血幹細胞移植を含めた強力な治療を、高齢者にも、最新の治療レジメンを用いた深い寛解を目指す治療を積極的に行っています。