教室概要
1970年に佐藤泰司を初代教授として解剖学第一講座が開設され、1993年には松村讓兒が、2017年には長瀬美樹が教授として赴任、開設から54年目を迎えます。2004年より解剖学(肉眼解剖学部門)、2019年より肉眼解剖学に名称が変更されました。
教育の特色
当教室は、基礎医学科目の肉眼解剖学Ⅰ(1年次:肉眼解剖学・発生学の講義、骨学実習)と肉眼解剖学Ⅱ(2年次:人体解剖実習、脳解剖実習と講義)を担当しています。肉眼解剖学は、これから医学の勉強を始めようという学生が医学の根幹となる人体の構造と仕組みを修得するための教科で、良医になるための重要な第一歩です。人体の正常構造を機能と関連づけて学び、病気の成り立ちや医用画像など、臨床医学につながる知識の修得を目指します。複雑な構造の理解や知識の定着のための学習補助ツールとして、模型・模式図・動画の活用、講義後確認テスト、スマートフォンアプリを用いた解剖学用語・画像学習教材配信などの取り組みを行っています。実習では、ご遺体が発する情報を五感を駆使して収集し、人体の3次元構造をイメージとして体得することを目標とします。臨床系や保健学部と連携して、解剖体を用いた臨床手技体験実習(気管挿管など)、皮膚の結紮・縫合演習、特別講義(手術ビデオを交えて臨床医学と解剖学とを関連づける講義)、解剖体の死後CT/MRI画像と解剖実習の統合的教育を導入し、学生のモチベーション向上や医用画像の読影スキルアップを図っています。「良き医師になるために自分の身体を使って勉強して下さい」という献体者の崇高な志に触れることで、医療者としての倫理観の育成にもつながります。自由参加プログラムとしては、基礎研究や解剖体研究を希望する学生を受け入れ、学会発表する機会を提供しています。
社会的活動
日本解剖学会、日本腎臓学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会、日本心血管内分泌代謝学会、米国腎臓学会(ASN)、国際腎臓学会(ISN)等に所属して研究発表を行っています。
献体について
献体とは「医学・歯学の大学における人体解剖学の教育・研究・手術手技修練に役立たせるために自らの遺体を無条件・無報酬で提供すること」です。「死後に自分の遺体を医学・歯学の教育と研究に役立てたい」と志された方が、生前から献体したい大学または献体の会に登録しておき、亡くなられた時にそのご遺志にしたがってご遺体を大学に提供することで献体が実行されます。献体の実行にはご本人の遺志だけでなく、ご家族や近親者のご理解と同意が必要です。このように、献体は大学とご本人そしてご家族の間に「信頼」があってはじめて成り立つものであり、杏林大学はこのことを肝に銘じて献体と真摯に向き合っております。
杏林大学白菊会
肉眼解剖学教室は献体実務を担当しており、本学に献体登録されている篤志家の方々の会「杏林大学白菊会」の事務局が設置されています。入会(献体登録)をご希望の方は、下記までご連絡いただきますようお願い申し上げます。
杏林大学白菊会(杏林大学医学部 肉眼解剖学教室内)
〒181-8611 東京都三鷹市新川6丁目20番2号
TEL: 0422-47-5511(代表)(「白菊会」あるいは「献体」とお伝えください)
FAX: 0422-41-5452
杏林大学で現在進行中の「献体を用いた研究」につきましては 医学部倫理委員会 承認済み研究一覧 をご覧ください。
医学部倫理委員会 承認済み研究一覧 はこちら
研究の概要と大学院教育
肉眼解剖学教室では、基礎医学や臨床医学で遭遇する様々な疑問・ニーズに基づいて研究テーマを設定し、人体・実験動物・培養細胞・臨床サンプルを用いて、分子生物学・細胞生物学的アプローチ、各種イメージング技法を駆使して研究を行っています。臨床の教室、保健学部、他大学の研究者と幅広い領域の共同研究を進め、若手研究者の研究指導を行い、イノベーションにつながるインパクトのある研究を目指しています。
臨床の教室との共同研究で、ご遺体を用いた臨床解剖研究も行っています。
研究テーマ
各教員が人体に対する広い視野をもった研究活動を行うことが、当教室の基本方針です。学内外との共同研究で幅広い領域の研究を行っております。
- 基礎研究:人体を構成する組織・細胞は、たえず様々な機械的刺激(重力や流れずり応力、伸展力、圧力など)を感知して恒常性を維持しています。当教室では2010年に発見され、2021年にノーベル医学生理学賞受賞対象となった圧センサーPiezo1, 2の主に腎臓での役割について研究を行っています。
- 臨床解剖学研究:昨今、解剖体を用いた臨床医の手術手技修練が普及しつつありますが、通常のホルマリン固定は組織硬化のため不向きな手技が多く、新たな固定法の開発が必要とされています。杏林大学は大分大学と共同で、ホルマリンフリーで硬くならないピロリドン固定法を開発しました。現在、本法を手術修練や学生教育に応用すべく、臨床の教室と共同で研究を進めています。従来のホルマリン固定解剖体を用いた臨床解剖学研究も行っています。
- 肉眼解剖学研究:解剖体を用いて、肉眼解剖学的手法にイメージングを併用し、従来十分精査されなかった人体構造の解析を行っています。
近年の主な業績
- Nagase M, Ando H, Beppu Y, Kurihara H, Oki S, Kubo F, Yamamoto K, Nagase T, Kaname S, Akimoto Y, Fukuhara H, Sakai T, Hirose S, Nakamura N. Glomerular endothelial cell receptor adhesion G-protein-coupled receptor F5 (ADGRF5) and the integrity of the glomerular filtration barrier. J Am Soc Nephrol 2024 (in press)
- Nagase T, Nagase M. Piezo ion channels: Long-sought-after mechanosensors mediating hypertension and hypertensive nephropathy. Hypertens Res 2024 (in press)
- Ogino S, Yoshikawa K, Nagase T, Mikami K, Nagase M. Roles of the mechanosensitive ion channel Piezo1 in the renal podocyte injury of experimental hypertensive nephropathy. Hypertens Res 47(3):747-759, 2024
- Ochiai K, Mochida Y, Nagase T, Fukuhara H, Yamaguchi Y, Nagase M. Upregulation of Piezo2 in the mesangial, renin, and perivascular mesenchymal cells of the kidney of Dahl salt-sensitive hypertensive rats and its reversal by esaxerenone. Hypertens Res 46(5):1234-1246, 2023
- Mochida Y, Ochiai K, Nagase T, Nonomura K, Akimoto Y, Fukuhara H, Sakai T, Matsumura G, Yamaguchi Y, Nagase M. Piezo2 expression and its alteration by mechanical forces in mouse mesangial cells and renin-producing cells. Sci Rep 12(1):4197, 2022
- Nagase M, Nagase T, Tokumine J, Saito K, Sunami E, Shiokawa Y, Matsumura G. Formalin-free soft embalming of human cadavers using N-vinyl-2-pyrrolidone: perspectives for cadaver surgical training and medical device development. Special issue “Cadaver Surgical Training: Status Quo from anatomy and surgery”. Anat Sci Int. 97(3):273-282, 2022
- Nagase M, Kimoto Y, Sunami E, Matsumura G. A new human cadaver model for laparoscopic training using N-vinyl-2-pyrrolidone: a feasibility study. Anat Sci Int. 95:156-164, 2020
- Haizuka Y, Nagase M, Takashino S, Kobayashi Y, Fujikura Y, Matsumura G. A new substitute for formalin: Application to embalming cadavers. Clin Anat. 31:90-98, 2018
- Watanabe K, Tokumine J, Nagase M, Matsumura G, Sawada R, Kinjo S, Yorozu T. A new and simplified extraoral approach for inferior alveolar nerve block: A cadaveric study and clinical case reports. J Anesth 2024 (in press)
- Miyamoto M, Nagase M, Watanabe I, Nakagawa H, Karita K, Tsuji DH, Montagnoli AN, Matsumura G, Saito K. Excised human larynx in N-vinyl-2-pyrrolidone-embalmed cadavers can produce voiced sound by pliable vocal fold vibration. Anat Sci Int 97(4):347-357, 2022
- Watanabe K, Tokumine J, Lefor AK, Nakazawa H, Yamamoto K, Karasawa H, Nagase M, Yorozu T. Photoacoustic needle improves needle tip visibility during deep peripheral nerve block. Sci Rep 11(1):8432,2021
- Maruyama K, Yokoi H, Nagase M, Yoshida H, Noguchi A, Matsumura G, Saito K, Shiokawa Y. Usefulness of N-vinyl-2-pyrrolidone Embalming for Endoscopic Transnasal Skull Base Approach in Cadaver Dissection. Neurol Med Chir. 59:379-383, 2019
日本語の解説・書籍など
- 長瀬美樹:特集『医学部基礎医学教室の最前線〜第1回 肉眼解剖学教室』『医学部基礎医学教室の最前線─肉眼解剖学教室』Part I.肉眼解剖学教室の研究紹介.杏林医学会雑誌 53(4): 131-138. 2022
- 長瀬美樹:特集『医学部基礎医学教室の最前線〜第1回 肉眼解剖学教室』『医学部基礎医学教室の最前線─肉眼解剖学教室』Part II.解剖学教育と学生のリサーチマインド育成.杏林医学会雑誌 53(4): 139-145. 2022
- 長瀬美樹:特集『医学部基礎医学教室の最前線〜第1回 肉眼解剖学教室』『医学部基礎医学教室の最前線─肉眼解剖学教室』Part III.解剖学実習における新たな取り組み.杏林医学会雑誌 53(4): 147-152. 2022
- 長瀬美樹:正常腎の組織所見~血管.非腫瘍性疾患病理アトラス 腎.大橋健一、小池淳樹、冨田茂樹、原重雄(編集).東京.文光堂,2022. p.21-28
- 上野仁之, 山本智朗, 長瀬美樹. 解剖実習における肉眼解剖所見とご遺体のCT・MRI画像対比による教育. Rad Fan 20(3):92-95,2022
- 山本智朗, 阿部竜馬, 川口廉,小山瑠奈, 西田陽, 小林邦典, 松友紀和, 只野喜一, 深見光葉, 長瀬美樹. X線撮影、X線CT、MRIおよび頭部DSAを用いた死後画像撮像について. Rad Fan 20(3): 86-91,2022
- 長瀬美樹:臨床検査ガイド 2020年改訂版.大西宏明(編集).Medical Practice編集委員会(編集).東京,文光堂,2020. p.992-995
- 長瀬美樹:腎疾患のメカノバイオロジー.疾患に挑むメカノバイオロジー 循環器、運動器、がん、再生・発生に生体内の力はどうかかわるのか.曽我部正博(編集).実験医学増刊 38: 1105-1112. 2020
- 長瀬美樹(分担執筆):カラー図解 人体の細胞生物学.坂井建雄、石崎泰樹(編集).東京,日本医事新報社,2018
- 長瀬美樹、尾崎紀之、竹田扇訳(分担執筆):ムーア臨床解剖学第3版.坂井建雄監訳.東京, MEDSi.2016