大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ泌尿器科学教室

研究室・研究グループ紹介:泌尿器科学教室

科学の進歩による医学の変容、変化する医療環境、新しい治療技術の出現などに対応することを目指して、杏林大学大学院医学研究科外科系泌尿器科学教室では日々、臨床・研究に取り組んでいます。

調和のとれた医療を行うには、それを支える医療知識(科学)・技術(アート)そして倫理観(人間性)が求められます。大学院で行う研究は、その専門性ゆえ、視野が狭くなりがちです。泌尿器科学教室では科学、技術だけでなく、倫理観・人間性にも重きをおいた教育体制を整えております。

泌尿器で扱う臓器は、副甲状腺・副腎・腎臓・尿管・膀胱・尿道・陰茎・陰嚢・精巣・前立腺・精嚢と多種にわたります。現在、大学院では、がん治療用ウイルスを用いたウイルス療法、末梢血循環癌細胞の臨床的応用、膀胱癌や前立腺癌の遺伝子治療に関する基礎・臨床的研究、多発性嚢胞腎に関する研究、人工知能による間質性膀胱炎の研究など、多種にわたっています。

教室スタッフは、皆さんの教室来訪をいつでも歓迎しますので、気楽に見学にきてください。

研究課題

A. がんに関連した研究

がん治療用ウイルスを用いたウイルス療法

「ウイルス療法」とは、遺伝子組み換え技術によって、正常細胞は障害せずにがん細胞のみを破壊するウイルス(がん治療用ウイルス)(図1)を作製して治療に用いるものです。がん治療用ウイルスは、がん細胞に感染するとすぐに増殖を開始し、その過程で感染したがん細胞を死滅させます。増殖したウイルスはさらに周囲に散らばって再びがん細胞に感染し、ウイルス増殖→細胞死→感染を繰り返してがん細胞を次々に破壊していきます(図2)。すでに欧米では第2世代がん治療用ヘルペスウイルス1型のT-VECが認可され、一般臨床で用いられています。我々は、第3世代がん治療用ヘルペスウイルス1型である

図1:ウイルス遺伝子を改変したがん治療用ウイルス
図1:ウイルス遺伝子を改変したがん治療用ウイルス
図2:がん治療用ウイルスは、がん細胞に感染すると増殖して、感染したがん細胞を死滅させる。
図2:がん治療用ウイルスは、がん細胞に感染すると増殖して、感染したがん細胞を死滅させる。

G47Δ(じー・よんじゅうなな・でるた)を用いたウイルス療法の研究をおこなっております。当科主任教授の福原が研究代表者となり、前立腺癌に対する世界初の第I相臨床試験が東京大学でおこなわれ、安全性が確認されました。ウイルスの効果をさらに検証すべく、現在杏林大学において第II相臨床試験を行っております。

臨床試験と平行して、ウイルス療法の基礎研究も積極的におこなっています。これまで進行の速いがんを対象に研究を進めて参りましたが、比較的進行の遅いがんでも効果を発揮する、新規ウイルスを開発致しました【Fukuhara H, et al: Cancer Sci 2021】。また。IL-12 発現型がん治療用ウイルスが抗腫瘍効果を高めることを解明し【Fukuhara H, et al: Commun Med 2023】、IL-12発現型ウイルスと iPS 細胞由来樹状細胞(iPSDC)の併用治療を検証した研究は、日本経済新聞の科学面でも紹介されました。肉腫や後腹膜腫瘍マウスモデルで検証した研究でも、2019年および2023年の日本泌尿器科学会総会賞を受賞しております。ウイルス療法の英文総説も複数出版しております【Fukuhara H, et al: Cancer Sci 2016】【Taguchi S, et al: Int J Urol 2017】【Taguchi S, et al: Jpn J Clin Oncol 2019】。前者2本の論文は、各雑誌で年間ダウンロード数 Top 5 に選ばれるなど高い注目を受けております。

末梢血循環癌細胞の遺伝子型と臨床的応用

前立腺の末梢血循環癌細胞(CTC)の検出を行い、遺伝子解析にて病期および予後との関係を検討し報告してきました【Okegawa T et al: Int J Mol Sci, 2016】、【Okegawa T et al: Prostate, 2018】。また、学会での受賞は第45、46、49、53、57回日本癌治療学会総会(2007, 2008, 2011, 2015, 2019年)で優秀演題賞、第47回日本癌治療学会総会(2009年)で最優秀演題賞を受賞しました。また、CTCクラスター検出はさらなる転移に関与していることを報告し、検出機器を東ソー株式会社との共同研究にて開発し、特許(4件)を取得済みまたは取得予定です。今後、CTC、末梢血循環癌DNA(ctDNA)からの遺伝子解析により"Precision Medicine"となるようデーターの蓄積を行っています。

癌治療の複雑化、さらには医療費の高騰が大きな問題となっており、いわゆる"Precision Medicine"実現 に向けたバイオマーカーの開発が大きな課題となっています。このような状況で2017年Liquid Biopsy研究会を立ち上げました。科の枠を超えてより幅広い領域の専門家が多数参加いただいています。https://muraa9.wixsite.com/liquidbiopsy

前立腺癌に対する臨床研究

前立腺癌は、欧米では男性の罹患率第1位のがんであり、本邦でも大腸癌・肺癌・胃癌と並んで罹患率トップ4の地位を占めています。これまでに、おもに手術症例の臨床データベースを用いた研究を複数おこなってきました【Taguchi S, et al: BMC Cancer 2020】など。最近の業績としては、手術と放射線療法の最先端技術同士(RARP vs VMAT)の成績を比較した論文が、欧州放射線治療学会(ESTRO)の公式誌である Radiotherapy and Oncology誌に掲載されました【Taguchi S, et al: Radiother Oncol 2019】。

膀胱癌に対する臨床研究

膀胱癌(尿路上皮癌)は泌尿器科の3大癌の1つであり、特に転移を有する症例の予後は非常に悪いことが知られています。これまでに、転移性尿路上皮癌の臨床データベースを用いた臨床研究を複数おこなってきました【Taguchi S, et al: Int JU 2022】【Taguchi S, et al: Ann Oncol 2020】【Taguchi S, et al: Future Oncokogy 2021】【Taguchi S, et al: Sci Rep 2021】。現在、東京大学や帝京大学との多施設共同データベースを用いた様々な検討を進めています。一方、前向き研究として、当院の人工知能(AI)搭載マルチパラメトリックMRIを用いた、膀胱癌の筋層深達度診断法(VI-RADS)の検証研究を、放射線科と共同でおこなっております。こちらは、学内の共同研究プロジェクトにも選ばれました【Watanabe M, et al: Eur Radiol 2022】【Taguchi S, et al: J Urol 2021】。

B. 腹腔鏡手術に関連した研究

ロボット支援腹腔鏡下手術

現在、前立腺癌における ロボット支援(da Vinci)腹腔鏡下手術が2012年4月から保険適応となり、現在、杏林大学では、前立腺癌、膀胱癌、腎癌(腎部分切除術、腎摘除術)、腎盂尿管癌、膀胱瘤、腎盂尿管狭窄症に対してロボット手術を行っております。ロボット手術は高性能3次元画像、人間の手を凌駕する関節を有する鉗子、手の震えを吸収する機能などを有し、出血量の減少・機能温存・癌のコントロールにすぐれています。ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術と従来の腹腔鏡下前立腺全摘術との治療成績を検討して報告いたしました【Okegawa T et al, Prostate Int 2020】。その他【(Co-author) Fukuhara H:Neurourol Urodyn, 2019】【(Co-author) Fukuhara H:Radiother Oncol, 2019】【(Co-author) Fukuhara H: Int J Urol, 2020】を報告しています。前立腺全摘術は、2023年3月までに858例、腎部分切除・腎摘除・副腎摘除・腎尿管全摘除術は289例、膀胱全摘術は126例、腎盂形成術は16例、仙骨膣固定術は32例に施行しております。

精巣腫瘍における腹腔鏡下後腹膜リンパ節手術

精巣腫瘍は、後腹膜リンパ節に転移しやすいことで知られています。後腹膜リンパ節郭清は、従来、開腹手術で腹部を縦に30〜40cm切開し、腫瘍を摘出します。切除範囲によっては射精に関わる神経を切断され、射精障害を起こすことがあります。これまで、当院では先進医療として認定された"腹腔鏡下後腹膜リンパ節手術"を行ってきました。術後の痛みが少なく、回復が早いのが特徴です【Shishido H, Okegawa T:Asian J Urol. 2022】。また射精に関わる神経温存も可能です。この術式は、全国で6施設のみで行われてきました。これまでの結果にて、2020年4月より保険適応となりました。今後も当院では先駆的施設して低侵襲治療に積極的に取り組んでまいります。

C. 多発性嚢胞腎に関連した研究

2014年3月、世界に先駆けて日本で、引き続いてカナダ,EU、米国等で多発性嚢胞腎に対する治療薬としてサムスカが承認されました。それまで、多発性嚢胞腎の治療は疼痛、感染、高血圧等に対する対症療法しかなく,病気の進行を抑制する治療薬が開発されたのは画期的な進歩でした。この開発研究に杏林大学泌尿器科は積極的に取り組んできました。

杏林大学泌尿器科では1994年から厚労省の多発性嚢胞腎研究班会議の中心メンバーとして臨床研究を行なってきました。班会議としては「多発性嚢胞腎の診断基準」、「患者数や予後の疫学調査」、「降圧剤の効果比較」,「EPA服用の効果」等、施設単独または多施設共同の研究として「飲水の効果」、「腎臓体積と腎機能の関連」、「脳動脈瘤の疫学」,「DNA遺伝子変異と症候との関連」、等の研究を行なって来ました【Higashihara E et al; Kidney Int Rep. 2021】【Shigemori K et al:J Stroke Cerebrovasc Dis 2021】【Higashihara E et al; American Journal of Nephrology. 2020】【Higashihara E et al; Kidney Int Rep. 2020】【Higashihara E et al; Kidney Int Rep. 2020】。現在は、サムスカを連続して5年間服用した場合の効果に関する研究、服用中の効果を患者個々で判断する方法の開発に取り組んでいます。

D. 女性泌尿器科疾患に関連した研究

女性泌尿器科疾患の代表でもある骨盤臓器脱の手術治療では比較的高齢者でも低侵襲の経膣メッシュ手術(TVM手術)を安全に行い高い治療効果と患者さんのQOL改善を示しています【kinjo M et al;J Obstet Gynaecol Res. 2018 】。骨盤臓器脱治療におけるペッサリー治療とTVM手術の比較では両者とも症状・QOLを改善させますが、TVM手術の方がより改善度が高いことを示しました【kinjo M et al; Low Urin Tract Symptoms. 2022】。腹圧性尿失禁に対する中部尿道スリング術は尿失禁症状のみではなく、不安・うつといった精神症状も改善させることがわかりました【kinjo M et al; Res Rep Urol. 2020】が、性機能、特にオルガズム障害を忌避させる可能性がありました【金城ほか;日本性機能学会雑誌 2019】。過活動膀胱の薬物治療により不安症状も改善することがわかりました【kinjo M et al; Urol Int. 2019】。多摩地区における排尿関連の疫学調査において、症状や受診行動の男女の違い(女性の受診率は男性の1/5で、男性の3倍何らかの行動を断念)を明らかにし【kinjo M et al; Urology 2021】、受診を躊躇しがちな女性に対して受診しやすい環境の構築に取り組んでいます。

E. 尿路結石に関連した研究

尿路結石症はとてもよくみられる疾患で、生涯で男性が7人に1人、女性が15人に1人が尿路結石症を罹患すると言われています。尿路結石症の多くは自然に排石しますが、中には手術が必要となることがあります。最近では尿管鏡という細い内視鏡を使った手術(尿管鏡手術)が広く普及しています。ただ、尿管鏡手術では結石の位置や腎の形状により尿管鏡の操作性に限界があり、その限界を克服するために多武保らは従来の尿管鏡より操作性の優れた革新的な新規尿管鏡の開発に携わってきました。2020年に人工腎モデルで新規尿管鏡の操作性が従来の尿管鏡より優れていたことを報告し【Tambo M et al. : J Endourol, 2020】、【(Co-author) Tambo M: World J Urol, 2020】、今後は新規尿管鏡の臨床応用を検討しています。

尿路結石症は尿路感染症との関連が強く、結石による閉塞性腎盂腎炎(結石性腎盂腎炎)ではしばしば敗血症を発症するので、結石性腎盂腎炎の診療において早期に敗血症を予測することが重要なポイントになります。多武保らは敗血症の新基準に合わせた予測因子を検証し【Tambo M et al.: BMC Urol, 2020】、結石性腎盂腎炎症例における敗血症の早期予測診断に努めています。

F. 排尿機能に関連した研究

排尿および蓄尿障害は我々の日常生活に大きな影響を及ぼし、生活の質(QOL)を低下させてしまいます。この下部尿路機能障害の原因の一つに糖尿病があります。日本の糖尿病有病者は現在1000万人を超えるとされており、さらに糖尿病患者の約80%が何らかの下部尿路機能障害を有していると推定されています。このような背景から、我々は動物モデルを用いて糖尿病ラットにおける排尿機能の経時的な変化を観察し、膀胱および尿道の機能障害を明らかにしました。この結果は今後、ヒトにおける糖尿病患者の下部尿路機能障害の病態を解明する一助となる可能性があります【Masuda K et al.: Scientific Reports. 2020】。

G. 結節性硬化症に関連した研究

結節性硬化症は全身の臓器に良性腫瘍が形成され、様々な合併症を発症する病気です。症状が多岐に渡るため、単独の診療科で治療を行うことが難しい疾患のひとつです。杏林大学付属病院では、診療科の枠を越えた結節性硬化症診療チーム(TSC診療チーム)を結成しました。結節性硬化症に伴う様々な症状に対して、関連する各診療科と連携および相談しながら総合的に診療します。多摩地区では療育施設が多く、入院しているTSC患者さんもいることから、施設に往診し、治療を進める上でのアドバイスや、精密検査を要する場合は検査の実施するための段取りを行っています。現在、多摩地区における結節性硬化症の全数調査を行っており、連携強化に努めています【記録集:TSC center of excellence 2018】。

研究サポート体制

  • 当教室専属の実験助手の配備
  • 基礎医学各教室との連携を図り、知識や手技の獲得
  • 大学院生はベッドフリーの期間を設け、研究時間を有効活用
  • 海外留学も視野に入れ、国内だけでなく国外での研究発表

業績集

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