形成外科学とは、顔面、手など体の表面における先天異常の治療から、外傷、熱傷および瘢痕拘縮、ケロイド、顔面神経麻痺など後天的な変形に対する治療、また乳癌切除後の乳房再建など腫瘍摘出後の再建術にいたるまで、幅広い領域をカバーする学問です。さらに美容外科は人間の美を追究する医学であり、アンチエイジングとして医学的見地からアプローチを行っていく分野でもあります。このような幅広い分野に対応するためには形成外科の一般的な技術だけでなく、マイクロサージャリーやクラニオフェイシャルサージェリーといった特殊な技術と経験が要求されます。杏林大学形成外科では、総勢20名を超える都内随一を誇るスタッフが、それぞれの専門分野を活かしながら、患者さんにとって最適な治療法を選択して診療に当たっています。
当教室では豊富な症例数を背景として、形成外科のあらゆる対象疾患に対する治療を行っています。臨床実習では多岐にわたる患者の診察や処置、手術を目の当たりにすることができ、系統講義で学んだ知識の定着、深化をはかります。また、実習、講義ともにQ&A形式のアクティブ・ラーニングに積極的に取り組んでいます。
血管奇形には切除困難とされる難治性の病変が多く存在する。そのような症例に対しては、硬化剤を病変内に注入することで病変の縮小と症状の改善を期待できる硬化療法が治療法として選択される。血管奇形に対する硬化療法は本邦でも20年以上前から施行されており、その有効性と安全性の高さから現在では標準的な治療法の1つと考えられている。しかし、現在も血管奇形に対する硬化療法は保険収載されていない。2021年より硬化療法の保険収載に向けて、使用される硬化剤について薬事承認を得ることを目的とした医師主導治験を実施している。本研究に関して、これまで市民公開講座等で広く周知を行っており、早期の保険収載化に向けて積極的に活動している。
2023年7月 第15回日本創傷外科学会総会・学術集会を主催予定。 2021年11月 第44回日本顔面神経学会を主催。 2017年12月 第44回日本マイクロサージャリー学会学術集会を主催。 2016年5月 第8回日本下肢救済・足病学会学術集会を主催。 2015年7月 第12回日本血管腫血管奇形学会学術集会を主催。
当教室の多久嶋教授は陳旧性顔面神経麻痺治療の世界的第一人者であり、全国から治療を求めて患者が集まってきています。遊離広背筋移植術を代表とする「笑い」の再建から、眼瞼や眉毛の下垂や頬部の下垂などに対するリフティングの手術も行っており、より自然な表情を取り戻すために最適な治療法を提供しています。また積極的に新しい治療法の開発や顔面表情筋運動の客観的評価方法の開発もすすめております。
外傷や腫瘍切除後に大きな組織欠損を生じる場合には、大きな組織移植が必要となります。この移植を行うにはマイクロサージャリーによる微小血管吻合が不可欠であり、一般に血管柄付き遊離組織移植術と呼ばれています。当教室の多久嶋教授は、豊富な経験と実績で多くの施設から再建を依頼されています。また血管吻合の難易度が高い切断指再接着術においても、積極的に対応しマイクロサージャリーを用いた手術成績の向上に努めています。
近年、乳癌患者が増加しており、それに伴って術後の乳房変形に悩まれる患者が増えています。当教室では、侵襲の少ない乳房インプラントを用いた再建から脂肪移植、自家組織を用いた再建まで、乳房再建専門グループが積極的に行っています。縮小手術が盛んになるにつれ、乳房変形の度合いは小さくなりますが、その修正は逆に難しくなります。乳房形成術として有用な術式の開発をすすめています。また、乳房再建患者に対する満足度や整容性に関する研究、乳房インプラント関連未分化大細胞型リンパ腫に関する基礎研究も行っております。
形成外科では顔面・頭部の骨組織も治療の対象としています。外傷では鼻骨骨折や頬骨骨折などの単純な顔面骨折から多発顔面骨折にいたるまで幅広く対応しています。またクルーゾン病やアペール症候群などの先天異常に対する骨切り手術(クラニオフェイシャルサージャリー)も当教室の専門グループが担当しています。困難な顔面骨骨折の治療や頭蓋顔面変形に対して、新しい術式や器具の開発を行っております。
一般に血管腫と呼ばれる「乳児血管腫(苺状血管腫)」から治療に難渋する「血管奇形」まで、幅広く対応しています。先進的治療である硬化療法も積極的に施行しており、治療成績と安全性の向上に努めています。血管奇形に対する治療はいまだ十分に確立されていないため、基礎研究も積極的に行っています。現在は硬化療法をより広く、一般化するための研究を行っております。
糖尿病や動脈疾患に伴う下腿潰瘍は一般に難治性潰瘍と呼ばれ、治療が非常に難しい疾患群の一つです。当教室では潰瘍の治療を多角的アプローチで行っており、良好な治療成績をおさめています。特に高圧酸素療法や陰圧閉鎖療法などの保存的治療も積極的に行っています。下肢切断を避けるために、創傷治癒の基礎的研究を中心に、臨床への応用も積極的に行っています。
AIを用いた画像解析技術により、2次元の動画において顔面や手指などの特徴点の座標を3次元的に抽出することができます。この技術を応用し、①顔面神経麻痺患者における顔面表情運動の定量評価、②手指関節可動域の自動計測、を行うアプリケーションの開発を目指し、株式会社NTTDATAと共同で研究を行っています。
難治性創傷に関して、創傷の専門家以外の医療従事者でも創傷の状態を評価できることを目的とした研究も行っています。例として褥瘡の画像データをimage recognitionあるいはimage segmentationという技術を応用し、形成外科医が判断した教師データとして畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に読みこませ学習をさせることで、潰瘍全体、壊死組織、肉芽組織の判別良好にできるようになりました。今後、さらなる研究の拡大を目指しています。