大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ感染症学教室

研究室・研究グループ紹介:感染症学教室

本研究室では感染症の原因となる細菌、ウイルス、真菌、寄生虫を対象とした病原性発現メカニズムの解析をはじめとする基礎医学的研究を行っています。本研究室は細菌、ウイルス、真菌を対象とする微生物学部門、寄生虫を対象とする寄生虫学部門に大別されて大学院教育が行われます。

微生物学部門

微生物学研究室の対象は細菌・ウイルス・真菌と幅広いですが、当研究室では特に細菌感染症の病態解析や発症メカニズムに関する研究とゲノム解析による感染経路や定着におけるマイクロビオータの役割の解明を主体として指導しており、以下に挙げる諸点に関する研究が現在進行しています。

赤痢菌の病原性発現機構の解析とワクチン開発

赤痢菌には有効なワクチンが開発されていません。赤痢菌の病原性に必須な3型分泌装置はヒトの体温である37℃では発現しますが環境温度に近い30℃では発現せず、RNA結合蛋白Hfqが欠損すると30℃での抑制が失われ、37℃での発現量が増えることが分かりました。一方でHfqは細菌のストレス応答に必須なシグマ因子RpoSの発現に必要なため、それを欠損させた赤痢菌は弱病原化しワクチン候補株として利用できる可能性があります。通常、細菌に対するワクチンは血清型に依存するものが多数ですが、候補株は複数の血清型の赤痢菌に対して動物実験レベルで効果があることを見つけ、その改良を行っています。

桿菌の形態形成に関わるRodZ蛋白の研究

温度による3型分泌装置の発現調節は転写レベルではなくmRNAレベルで行われることが分かりました。Hfqと同様に欠損させると30℃の抑制がなくなる、別のRNA結合蛋白として見つけた因子は驚いたことに、桿菌の桿状の形態を維持するRodZという膜蛋白と同じものでした。精製したRodZはなぜか高分子量の塊をつくるためそのメカニズムを調べたところ、6量体の基本構造が多数集合したSuperstructureをとることでRNA結合活性を持ち、生きている菌にもSuperstructureが含まれること、超解像度顕微鏡の観察でRodZが菌全体に散らばるSuperstructureに相当するドット状の局在をとることを証明しました。こうした細菌にとってファンダメンタルな因子といえるRodZが病原性以外の遺伝子の発現にも作用するか調べています。

ヘリコバクター・ピロリ感染と胃内および口腔内マイクロビオータとの関連性についての研究

胃炎、胃十二指腸潰瘍および胃癌の原因と想定されているヘリコバクター・ピロリは個体によって感染の形態および経過に違いが生じることが知られています。そこで、本菌感染においてヒトの口腔内および消化管に存在している正常細菌叢が大きな役割を果たしているという仮説のもとに実験動物を使った感染実験等により解析を行なっています。また、このような感染症に対するプロバイオティクスによる治療効果について検討を行なっています。

百日咳菌の病原性発現制御機構の解明

百日咳菌感染症は小児の感染症として古くから知られてきましたが、近年、成人患者の割合が増加しています。また、ワクチンによって制御されてきたにもかかわらず現在世界的に増加傾向にあります。百日咳菌は多種多様な病原因子を産生しており、それらの発現はBvgASという二成分制御系により正に制御されています。また、本菌は多くのグラム陰性菌と同様に外膜ヴェシクル(OMV)を分泌しますが、そこにはそのうちいくつかの病原因子が含まれています。本研究室では、新たなワクチン開発につなげるため、それらの機能を解析する研究を行っています。

バイオフィルム感染症の予防と治療法の確立に向けた研究

ある種の細菌はバイオフィルムを形成して生体の免疫能を回避するとともに抗菌薬の作用から免れています。バイオフィルムはメディカルデバイス表面などに形成される他、生体組織にも形成され、バイオフィルム感染症を引き起こします。当教室では百日咳菌バイオフィルムと菌の定着との関連について解析を行なっており、百日咳の新たなワクチンの開発を目的としています。また、救急医学教室との共同研究により多剤耐性菌感染症を対象としたファージ療法(バクテリオファージを用いた治療)の確立に向けた研究を行っており、バイオフィルム感染症の治療の一助となることが期待されます(図1)。

図1:バクテリオファージがメチシリン耐性黄色ブドウ球菌に吸着・感染して溶菌する様子

近年の業績

  1. Yonezawa H, Motegi M, Oishi A, Hojo F, Higashi S, Nozaki E, Oka K, Takahashi M, Osaki T, Kamiya S. Lantibiotics produced by oral inhabitants as a trigger for dysbiosis of human intestinal microbiota. Int. J. Mol. Sci. 2021;25;22(7):3343. doi: 10.3390/ijms22073343.
  2. Mitobe J., Nishiumi F., Yanagihara I., Yamamoto Y., Ohnishi M., Superstructure formation by RodZ hexamers of Shigella sonnei maintains the rod shape of bacill. PLoS One 2020;15(2):e0228052.doi: 10.1371/journal.pone.
  3. Hanawa T, Shimoda-Komatsu Y, Araki K, Ohyama M, Ohnishi H, Kamiya S, Matsuda T. Skin and Soft Tissue Infections Caused by Different Genotypes of PVL-Positive Community-Acquired Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus Strains. Jpn. J. Infect. Dis. 2020 Jan 23;73(1):72-75. doi: 10.7883/yoken.JJID.2019.162.
  4. Yonezawa H, Osaki T, Hojo F, Kamiya S. Effect of Helicobacter pylori biofilm formation on susceptibility to amoxicillin, metronidazole and clarithromycin. Microb. Pathog. 2019 132:100-108. doi: 10.1016/j.micpath.2019.04.030.
  5. Matsumoto H, Kuroki Y, Higashi S, Goda K, Fukushima S, Katsumoto R, Oosawa M, Murao T, Ishii M, Oka K, Takahashi M, Osaki T, Kamiya S, Shiotani A. Analysis of the colonic mucosa associated microbiota (MAM) using brushing samples during colonic endoscopic procedures. J. Clin. Biochem. Nutr. 2019 Sep;65(2):132-137. doi: 10.3164/jcbn.19-3.
  6. Peng C, Hanawa T, Azam AH, LeBlanc C, Ung P, Matsuda T, Onishi H, Miyanaga K, Tanji Y. Silviavirus phage φMR003 displays a broad host range against methicillin-resistant Staphylococcus aureus of human origin. Appl. Microbiol. Biotechnol. 2019 Sep;103(18):7751-7765. doi: 10.1007/s00253-019-10039-2.
  7. Zaman C, Osaki T, Furuta Y, Hojo F, Yonezawa H, Konno M, Kurata S, Hanawa T, Kamiya S. Enhanced infectivity of strains of Helicobacter pylori isolated from children compared with parental strains. J. Med. Microbiol. 68:633-641. 2019. doi: 10.1099/jmm.0.000918
  8. Ohshima T, Osaki T, Yamamoto Y, Asai S, Miyachi H, Kamiya S, Evaluation of risk factors for Clostridium difficile infection based on immunochromatography testing and toxigenic culture assay. J. Clin. Microbiol. 2018;56:e00555-18
  9. Osaki T, Zaman C, Yonezawa H, Lin Y, Okuda M, Nozaki E, Hojo F, Kurata S, Hanawa T, Kikuchi S, Kamiya S. Influence of Intestinal Indigenous Microbiota on Intrafamilial Infection by Helicobacter pylori in Japan. Front. Immunol., 9:287. 2018. doi: 10.3389/fimmu.2018.00287. eCollection
  10. Mitobe J, Sinha R, Mitra S, Nag D, Saito N, Shimuta K, Koizumi N, Koley H. An attenuated Shigella mutant lacking the RNA-binding protein Hfq provides cross-protection against Shigella strains of broad serotype. PLoS Negl. Trop. Dis. 2017;11(7):e0005728. doi: 10.1371/
  11. Yonezawa H, Osaki T, Fukutomi T, Hanawa T, Kurata S, Zaman C, Hojo F, Kamiya S: Diversification of the AlpB outer membrane protein of Helicobacter pylori affects biofilm formation and cellular adhesion. J. Bacteriol 199. pii: e00729-16. 2017. doi: 10.1128/JB.00729-16. 2017
  12. Hanawa T, Kamachi K, Yonezawa H, Fukutomi T, Kawakami H, Kamiya S. Glutamate Limitation, BvgAS Activation, and (p)ppGpp Regulate the Expression of the Bordetella pertussis Type 3 Secretion System. J. Bacteriol 2016. 2;198(2):343-51.

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寄生虫学部門

寄生虫病研究の対象としては、マラリア原虫、赤痢アメーバなどの原虫類と、住血吸虫、フィラリア、回虫などの蠕虫類の他、外部寄生虫があります。当部門では、特に、エイズ、結核と並ぶ三大感染症の1つである"マラリア"の病態発症/抑制機構、感染防御/免疫制御機構、抗マラリア薬開発のための新規創薬ターゲットの探索に関する研究を行っています。

妊娠によるマラリアの病態重症化機構の解明

マラリア浸淫地域の人々はマラリア原虫に対する免疫を獲得しており、マラリア原虫に感染しても重症化することは殆どありません。しかし、妊娠するとマラリア原虫に対する抵抗性が低下し、病態は重症化します。また、妊娠中のマラリアにより流産や死産、胎児の発育遅延が頻発します。マラリア原虫に感染した妊婦における病態重症化機構は未解明な部分が多いことから、妊婦における重症マラリアの病理学的・臨床的な特徴を再現するマウスモデルを作出し、その病態生理について解析を行っています(図2)。

図2:妊娠マラリアの病態に関わる新たな宿主因子の探索

マラリア原虫のエネルギー代謝機構の解明

赤内期のマラリア原虫におけるATPの主な産生源は解糖系で、TCA回路を介したエネルギー代謝システムはほとんど機能していないと考えられてきました。しかし、マラリア原虫のTCA回路が関わる代謝ネットワークには未解明な部分が多々あります。当研究室では、マラリア原虫が有する8種のTCA回路関連酵素のうち、マラリア原虫に特異的に保存されているmalate:quinone-oxidoreductase(MQO)が、赤内期マラリア原虫の核酸合成系とTCA回路との代謝ネットワーク(フマル酸回路)に重要な役割を果たしていることを世界に先駆けて明らかにしました(図3)。この代謝ネットワークの鍵分子であるMQOは、ヒトなどの哺乳類にはホモログが存在しないことが知られています。これらの知見から、MQOは抗マラリア薬の新たな創薬標的として期待されます。現在、共同研究によってMQOを標的とした抗マラリア薬の開発を進めるとともに、抗マラリア薬開発のための新規創薬ターゲットの探索や抗マラリア活性を有する化合物のin vivo評価などを行っています。

図3:マラリア原虫のフマル酸回路

マラリア原虫の有性生殖期における分化発育・制御機構の解明

熱帯熱マラリア原虫の有性生殖体(ガメトサイト)は、ヒト体内で形成され、蚊への伝播に必須となる発育ステージです。ガメトサイトは極めて複雑な分化・発育過程をとるため、これまで詳細な分子・遺伝子解析ができませんでした。そこで、ガメトサイトの成熟度を様々な段階で制御できる画期的な化学成分既知培地を開発し、これを用いてガメトサイトの分化・発育を制御後、高精度の次世代シーケンサーを駆使してその成熟機構および無性生殖期から有性生殖期への転化機構を解析しています。

近年の業績

  1. Niikura M, Fukutomi T, Fukui K, Inoue SI, Asahi H, Kobayashi F: G-strand binding protein 2 is involved in asexual and sexual development of Plasmodium berghei. Parasitol. Int. 2020 Jan 18;76:102059. doi: 10.1016/j.parint.2020.102059.
  2. Niikura M, Inoue SI, Fukutomi T, Yamagishi J, Asahi H, Kobayashi F: Comparative genomics and proteomic analyses between lethal and nonlethal strains of Plasmodium berghei. Exp. Parasitol. 185: 1-9, 2018. doi: 10.1016/j.exppara.2018.01.001.
  3. Inoue SI, Niikura M, Asahi H, Kawakami Y, Kobayashi F: γδ T cells modulate humoral immunity against Plasmodium berghei infection. 2018 Immunology 155, 519-532 doi:10.1111/imm.12997. Epub 2018 Sep24
  4. Niikura M, Inoue SI, Mineo S, Asahi H, Kobayashi F: IFNGR1 signaling is associated with adverse pregnancy outcomes during infection with malaria parasites. PLoS One 12 (11): e0185392, 2017. doi: 10.1371/journal.pone.0185392.
  5. Asahi H, Inoue SI, Niikura M, Kunigo K, Suzuki Y, Kobayashi F, Sendo F: Pyknosis and developmental arrest induced by an opioid receptor antagonist and dihydroarthemisinin in Plasmodium falciparum. PLoS One 12 (9): e0184874, 2017. doi: 10.1371/journal.pone.0184874.
  6. Niikura M, Komatsuya K, Inoue SI, Matsuda R, Asahi H, Inaoka DK, Kita K, Kobayashi F: Suppression of experimental cerebral malaria by disruption of malate:quinone oxidoreductase. Malar. J. 16 (1): 247, 2017. doi: 10.1186/s12936-017-1898-5.
  7. Inoue SI, Niikura M, Asahi H, Iwakura Y, Kawakami Y, Kobayashi F: Preferencially expanding Vγ1+ γδ T cells are associated with protective immunity against Plasmodium infection in mice. Eur. J. Immunol. 47 (4): 685-691, 2017. doi: 10.1002/eji.201646699.
  8. Honma H, Niikura M, Kobayashi F, Horii T, Mita T, Endo H, Hirai M: Mutation tendency of mutator Plasmodium berghei with proofreading-deficient DNA polymerase δ. Sci. Rep. 6: 36971, 2016. doi: 10.1038/srep36971.
  9. Suzuki S, Hikosaka K, Balogun EO, Komatsuya K, Niikura M, Kobayashi F, Takahashi K, Tanaka T, Nakajima M, Kita K: In vivo curative and protective potential of orally administered 5-aminolevulinic acid plus ferrous ion against malaria. Antimicrob. Agents Chemother. 59 (11): 6960-7, 2015. doi: 10.1128/AAC.01910-15.
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