近年、基礎の生理学、臨床医学いずれも著しい発展を遂げていますが、それとともに、この二つを結び付けるトランスレーショナルな観点がますます重要になってきています。当教室では分子神経生物学からヒトの生理学まで様々なレベルで、疾患の病態を理解する基盤を明らかにし治療につなげられるような、生理学・臨床医学を融合した研究を目指しています。
ヒトでは磁気刺激法と眼球運動計測・脳波・経頭蓋超音波刺激などの神経生理学的手法を広く用いて、大脳皮質、大脳基底核など生理的機能・高次機能を明らかにする研究を行っています。大脳皮質可塑性を誘導できる連続磁気刺激法や迷走神経刺激などの生理学的手法の治療への応用などを目指しています。また臨床症例の解析を通じて、神経疾患・発達障害の病態生理を明らかにする研究も行っています。
さらにシナプス機能を制御しているsyntaxin1(HPC-1)及びそのファミリー分子に関連した神経機能に関する解析も行っています。そのため、分子生物学、生化学、免疫組織化学、細胞培養、live cell imaging、電気生理学、遺伝子ノックアウト動物作製、動物学習・行動解析、更には臨床教室との共同研究による人の遺伝子解析等の多様な方法を駆使した研究を展開しています。
教室の研究員もヒト・動物実験両面で様々な方法論のエキスパートが揃っていて、研究目的のためにチームを組んで研究しており、研究に必要な機器・設備類も充実しています。教室内だけでなく他大学・研究所との共同研究も活発に行っています。
学部教育では主に人体の植物性機能の生理学分野、個体維持に必要な機能である血液、消化吸収、腎機能、呼吸、内分泌・代謝等の講義・実習を担当しています。個体の生命維持に関わる生理学的機能を独立したものとしてではなく、相互に関連した生理学的な統合的機能として体系的に理解できることを重視しています。最新医学の知見もとりいれることで疾患の病態生理の基礎的な理解を深め、臨床医学につなげていくことを目指した教育を行っています。
日本生理学会、日本神経科学会、北米神経科学会、日本神経学会、日本臨床神経生理学会、日本神経化学会、日本分子生物学会に所属して研究業績を発表しています。国立障害者リハビリテーションセンターと共同して、自閉症をはじめとする発達障害について広く啓発活動に取り組んでいます。
ヒトでは、健常者だけでなく神経内科疾患、とりわけパーキンソン病などの運動障害疾患に対して様々な動作障害の生理学的基盤を明らかにするとともに、連続磁気刺激法・迷走神経刺激・経頭蓋超音波刺激を用いて症状を改善させる生理学的手法の開発を目指しています。発達障害疾患における運動制御・感覚処理の異常を臨床的に明らかにするとともに、障害のモデル動物を用いて、社会性や感覚処理障害に関わる神経生理学的な病態基盤の理解を目指した研究を行っています。
syntaxin 1A(HPC-1)は神経伝達物質の放出を制御しています。当教室で作製したこの遺伝子のノックアウトマウスにおいては電気生理学的に海馬長期増強の低下があり、個体レベルでは記憶の消去過程に異常があると共に、ヒトの自閉症に類似した情動行動異常が誘起されることを見出しました。また、syntaxin 1B遺伝子のノックアウトマウスについても解析を行い、その表現型はsyntaxin 1A遺伝子のノックアウトマウスと異なることを見出しました。syntaxin 1Bと熱性けいれんの病態の関連も明らかにしました。更にこれらの遺伝子の障害がヒト精神神経疾患に関連している可能性について研究を進めています。
研究内容の詳細は、病態生理学教室のホームページ を御覧下さい。
助教 小藤剛史 博士(理学)(RI研究部門所属)