糖尿病・内分泌・代謝内科学教室では、糖尿病学と内分泌・代謝学の研究と教育を精力的に進めています。日常臨床の中から疾患の病態解明へとつながる疑問点を見いだし、診療の中での臨床医学研究はもとより、基礎医学研究へと反映させています。すなわち自らの考えで得られた成果が、次世代の診療技術の向上へとつながる研究を目指しています。教育面では約400万人が居住する西東京唯一の大学医学部の利点を生かし、なかなか普段では経験できない希な症例も多く集まってくるため、充実した臨床教育が行われており、教室主任・診療科長の安田 和基教授はじめ教室員全員が切磋琢磨しながら、より質の高い診療技術の向上を目指しています。
糖尿病診療においてきめ細やかな患者教育や生活指導を行うために、眼科医師、さらには糖尿病療養指導士の資格を有する管理栄養士・看護師・薬剤師や臨床検査技師の人々とともに糖尿病教室を毎日開催するなど、綿密なチーム医療を実践しています。食事・運動療法に加えて病態に基づく内服薬の選択ならびにインスリン療法(強化療法を含む)を実施しており、血糖変動が著しい症例にはCSII(インスリンポンプ)の導入も行っています。またより厳格な血糖コントロールをめざして、CGMS(持続血糖モニターシステム)を用いた治療も実施しています。眼科・腎臓内科とも連携を密接にし、合併症の早期診断とその病期に応じた的確な治療を実践しています。特に、糖尿病網膜症や白内障などの糖尿病眼合併症に対しては、眼科との共同で特殊外来を定期的に開設し、早期診断から治療、そして糖尿病の血糖コントロールの維持について総合的な管理をすすめています。また妊娠糖尿病や糖尿病合併妊娠の症例について、産婦人科との協力関係の下、スクリーニングから治療と管理に至るまで一元化のうえ総合的な治療をすすめています。内分泌・代謝疾患については、様々な負荷試験による機能検査と画像診断から得られる情報を駆使して、的確な診断を迅速に行い、個々の病態に即した治療を進めるとともに、外科的治療が必要な際は症例に応じて甲状腺外科、脳神経外科、泌尿器科と密接な連携を図り実績をあげています。さらに、地域社会における活動の一環として、地域連携パスを導入し、地域診療にも積極的に参加しています。
糖尿病・内分泌・代謝疾患全般を分け隔てなく、かつ豊富に経験することで、病棟あるいは外来診療のなかで日々研鑽を積んでいます。日本糖尿病学会、日本内分泌学会、ならびに日本肥満学会の認定施設であり、これらの専門医、研修指導医の資格取得のためのシステムがすでに整っていることから、これまでも数多くの資格者を輩出しています。また、大学院医学研究科への進学者も多いこともあり、希望に応じた研究グループに属し、より深く高度な知識と手技・手法を身につけ、疾患の病態解明に取り組んでいます。各学会・研究会にも毎年多くの演題を発表しており、その業績を海外の学術誌に掲載しています。また西東京を中心とした地域で活躍しておられる先生方に多数お集まり頂き、診断や治療に関する学術情報の交換会を定期的に開催するとともに、国内外からその分野での先駆者を講師として招聘して、講演会、症例検討会、院内勉強会などを随時行っています。また、学部教育においても、現在増加の一途をたどる糖尿病などの代謝性疾患や、負荷試験をはじめとする特徴的な診断法が必要な内分泌疾患に関する新しい知見を、文献抄読会や講義ならびに外来・病棟実習、そして希望者には研究スタッフを交えた研究室実習を介して懇切丁寧に指導しています。
糖尿病・内分泌・代謝内科学は安田 和基主任教授のもと糖尿病や低血糖症などの代謝性疾患と内分泌疾患全般の診療を行うことはもとより、大学院医学研究科を基盤として幅広い研究活動を行っております。特に生活習慣病として増加の一途をたどっている糖尿病については、基礎的研究に積極的に取り組んでおり、インスリン分泌ならびにインスリン標的臓器(脂肪細胞、骨芽細胞や肝細胞など)に関する研究を行い糖尿病の病態解明ならびに治療への応用を目指しております。
研究班は、(1) インスリン分泌機構研究班、(2) インスリン作用機構研究班、(3) 糖尿病合併症研究班、(4) 糖尿病発症機構研究班、(5) 内分泌疾患病態生理研究班、(6) 臨床内分泌研究班の6つの班から構成されており、広く基礎系教室(衛生学・公衆衛生学教室や生化学教室など)や臨床系教室(眼科学教室、脳神経外科学教室、臨床検査医学教室や産婦人科学教室など)とも共同で仕事を進めておりま。この結果、数々の最新知見が得られており、多くの業績が英文誌に発表されています。以下に6つの研究班の研究概要をお示しします。
糖尿病発症における重大な病因のひとつとされているインスリン分泌障害の解明に少しでも近づくよう、インスリン分泌機構に関し分子生物的手法を用い、基礎的研究を行っております。ラットやマウスの膵臓から取り出したインスリン分泌細胞である β 細胞を含むランゲルハンス氏島やインスリノーマ細胞である MIN6 細胞を使用し、各種薬剤ならびにサイトカインなどを含む多様な生理活性を有する種々の因子を用いてインスリンの分泌ならびに合成におよぼす影響、細胞内代謝機構について検討しております。さらに近年になり、β 細胞からのインスリン以外の分泌物質(MCP-1、VEGF など)についてもその制御機構及び病態生理学的作用について検討を進めており、今後糖尿病状態下の膵ランゲルハンス氏島におけるこれらの分子の新たな役割を明らかにすることができると考えております。またこれら基礎研究とは別に臨床的研究も行なわれており、膵 β 細胞内でのプロインスリンからインスリンへの変換過程が糖尿病状態下で障害されている現象を明らかすること、ならびにその異常に関する分子機構の解明に着手しています。そして、これらの研究によって得られた新知見は、海外の英文誌に投稿することはもちろんのこと、毎年日本糖尿病学会や関連する研究会で随時報告しております。
2型糖尿病の発症には、膵臓からの “インスリン分泌の低下” と、筋肉や脂肪などにおける “インスリン作用の低下” の両者が関与しています。その重要なメカニズムの一つであるインスリン作用の研究は、筋肉や脂肪細胞、骨芽細胞あるいは肝細胞を用いて生化学的なアプローチが可能です。インスリン作用機構研究斑では、主に脂肪細胞におけるインスリン受容体結合以降のシグナル伝達や、インスリン様作用物質による細胞への糖取り込みと糖輸送担体へ及ぼす影響、さらには近年注目されているアディポカインの分泌制御機構や、酸化ストレス、ER ストレス、mitochondrial uncoupling、熱刺激などの病態への作用機序などについて検討を行い、“インスリン作用の低下” すなわちインスリン抵抗性がもたらされる機序の解明を遂行しております。特に、インスリン抵抗性誘導における key factor となっている肥大化脂肪細胞からの低酸素非依存的な血管新生因子 VEGF120 の分泌制御機構を解明した研究、ならびに酸化ストレスと mitochondrial uncoupling が 成熟脂肪細胞より分泌されるアディポカインに及ぼす影響とその制御機構を解明した研究は、それらの結果がそれぞれ2013年と2012年に英文誌に掲載されました。また、ここ数年注目されている脂肪組織の慢性炎症と糖尿病の関連性についても研究をすすめており、なかでもその両者を結びつける最も重要な因子であるケモカインの MCP-1 に関しましては、最近私達が肥大化脂肪細胞における分泌制御機構を明らかにし英文誌に発表しております。さらに、現在基礎・臨床研究の両者において主要な柱のひとつとなっているインクレチンなど消化管ホルモンに関する研究も行なっており、中でもグレリンに関しましては、多くの研究結果が報告されている中枢作用に比較し全くといっていいほど解明されていない末梢作用、なかでも種々のアディポカイン分泌制御機構を含むインスリン抵抗性関連作用を解明し、2015年海外の英文雑誌に掲載されました。
糖尿病合併症研究班としては、数ある糖尿病合併症のなかでも特に骨代謝ならびに大血管障害に関して精力的に研究活動を行っております。糖尿病における骨代謝異常に関しましては、我々はその発症におけるイニシエーターのひとつが、糖尿病に高頻度に合併する脂質異常症(高脂血症)状態下で骨芽細胞より分泌が増大する VEGF120 であることを世界に先駆けて発見し(この VEGF120 により第一義的に破骨細胞の異常活性化が生じ、その後骨代謝のカップリングが破綻して骨吸収優位に傾くと考えられます)、さらにその分泌制御機構も明らかにしました。そして、これら結果をまとめた研究論文を英文誌に投稿し受理されております。加えて、臨床的なデータを解析することにより、高血糖状態が続くことによっておこる骨量減少の病態およびその原因を臨床的立場からもアプローチしております。特に骨芽細胞により産生されるオステオカルシンに関しては、基礎ならびに臨床の両面からその病因論的意義を追跡中です。さらに最近注目を浴びているインクレチン関連薬(DPP4 阻害薬や GLP-1 アナログ製剤)の骨代謝異常に対する改善作用の臨床的検討に着手し、その効果のメカニズムの解析を進めています。また大血管障害に関しましては、基礎的な研究として血管内皮細胞モデルとして HUVEC を使用し、その発症・進展を制御する分子メカニズムの解明に励んでおります。さらに臨床的な面からは、頸動脈超音波検査による頸動脈の解析を基盤として脳血管・冠血管は勿論、全身の大血管に悪影響を及ぼす因子を可能な限り収集したうえでの解析・検討を行っています。特に、動脈硬化に対する酸化ストレスや AGEs (後期糖化最終産物)の関与などについては重点的に検討を加えています。そして、これらの成果は日本骨代謝学会や日本糖尿病学会で発表することはもちろん、海外の英文誌に掲載されています。今後さらなる有効な治療法を確立し、糖尿病患者の生活の質の向上を目指したいと考えております。
糖尿病発症の原因となっているインスリン分泌低下とインスリン抵抗性増大の両者を統合し、糖尿病発症のメカニズムを総括的な立場より解明するため、臨床及び基礎の両面より研究を行っています。そのひとつとして、最近になりわが国においても研究が盛んとなっている摂食調節因子(例えばグレリンやレプチンなど)について、糖尿病に直接的または間接的に関与する種々の要因との関連性の評価を広範にわたり解析している臨床面に加え、 3T3-L1 脂肪細胞などを使用し基礎的にも研究を続けております。特にグレリンに関しましては、先の(2)インスリン作用機構研究班の項で記載したとおり、基礎的な面からはアディポカイン分泌制御機構を含めた末梢におけるインスリン抵抗性関連作用の解明が推進されており、この研究ならびに現在並行して行なわれているグレリンのインスリン分泌に及ぼす影響を解析している研究を含めた基礎研究の結果に、さらに臨床研究から随時得られるデータを融合することにより糖尿病発症とその予防のメカニズムを今までとは異なった新たな視点より解明できると信じております。さらに、脂肪細胞においてインスリン抵抗性を惹起する種々の脂肪酸に加えて酸化ストレスや悪玉アディポカイン(MCP-1 や TNF-α など)の糖尿病発症における役割とその分子機構、ならびに GLP-1 などのインクレチン関連因子と糖尿病発症との結びつきにつきましても、基礎と臨床を融合させた独特の研究方法により検討を進めています。また膵 β 細胞からのインスリン分泌障害に関与する因子も含めて多角的に解析することもでき、これまでに報告されていないような観察結果が得られています。そして、最近話題になっている糖質制限食の糖尿病、肥満の発症・進展などに対する影響に関しましても、動物モデルを使用した詳細な検討に加え、臨床面から得られた数多くのデータを解析することにより、今までに確認された結果とは異なる非常に興味深い結果が報告できると思われます。これら新知見は英文誌への投稿ならびに日本糖尿病学会や関連する研究会で毎年発表しております。
生体内には、多様な内分泌組織が存在しますが、わが研究班ではそれら組織間の新たなネットワークの解明と臨床的応用に臨床と基礎両面よりアプローチし続けております。特に、その研究成果のなかのひとつである中枢性尿崩症患者に対して高張食塩水負荷試験を施行して得られた結果の解析により、血漿浸透圧の上昇が AVP またはウロコルチンの作用を介して下垂体前葉からの ACTH 分泌を促進し、さらにそれに続く副腎皮質からのコルチゾール分泌も増大させることが確認されました。これは、中枢性尿崩症患者の ACTH-コルチゾール系調節において、正常人とは異なった制御機構が存在することを実証するものであり、大変貴重な知見と思われます。この成果は海外の英文誌に発表しております。今後さらなる研究を進め、最終的には疾患の治療に役立てたいと考えており、またこれらの研究結果は日本内分泌学会や関連する研究会等で随時報告しております。
臨床内分泌研究斑では、代表的な内分泌疾患の診断・治療はもとより、臨床的に非常に稀な疾患についても精力的にその診療を行っております。診断・治療に関しては、特に個々の症例において臨床的なアプローチを重視し、その病態を解明すべく最新の臨床研究データを常に把握することは勿論のこと、積極的に研究会等へ参加して新たな知見を吸収することにより、より優れたエビデンスに基づいた診療を行うよう心掛けております。また、上記を重視した診療の結果として,これまで見逃されていた特殊な病態を発見することも多く、研究会や学会で多くの症例報告を行っており、多方面より非常に注目されております。また、研究活動に関しましては、臨床的な側面を重視した研究を行っており、これら診療で蓄積されたデータに基づいた多角的な解析により得られた結果を治療に役立てる一方、常に日本内分泌学会やその分科会等で報告しております。
大学院医学研究科内科学(糖尿病・内分泌・代謝内科学)は基礎及び臨床研究の両面において最先端かつユニークな研究を行う一方、その研究成果を疾患の治療に役立てております。私達一同は、みなさんと一緒に診療ならびに研究が行えることを心より楽しみにしています。この分野に興味のある方、または何か御質問等ありましたら、糖尿病・内分泌・代謝内科学スタッフに気軽に声をかけて下さい。