大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ麻酔科学教室

研究室・研究グループ紹介:麻酔科学教室

当教室では、臨床研究、基礎研究を行っています。

臨床研究

中心静脈カテーテル挿入における安全性と血流感染防止策の確立(萬教授)

中心静脈カテーテル挿入による機械的合併症およびカテーテル関連感染症は、臨床上の予後悪化および医療費の増大を招く。組織的な安全管理および感染管理を確立することによる臨床的恩恵は大きいと考えられる。Johns Hopkins 大学集中治療医 Peter Provonost の業績を見本とし、国内においても最大限の効果を発揮する安全対策を構築することが目的である。後方視的研究により、機械的合併症、血流感染の実態を把握し、安全策、感染防止策の有効性を検討する。さらに、持続可能なサーベイランスデータ収集を確実に行うためのシステム構築に取り組んでいる。

本邦の集中治療領域に新たな医療の質指標を構築する為の基盤研究(森山教授)

~人工呼吸器関連事象(Ventilator-associated event: VAE)の臨床展開に向けて~(臨床観察研究)

本研究の目的は、人工呼吸器関連事象(Ventilator-associated event: VAE) の「本邦QIとしての妥当性・実用性」を解明し、臨床展開への基盤を確立する事が目的である。その為第一に、VAEの予後への影響力を立証する。第二に、VAE防止策を策定する。計画する具体的究明点は下記である。

研究①:VAE発生の有無と死亡、臨床経過(人工呼吸器・在ICU日数)との関連を解析する。
研究②:VAEと、その防止策に繋がる患者管理法との連関を解析し、ベストプラクティスを割り出す。

日本集中治療医学会主催の集中治療室入室患者登録システム事業への参画(森山教授)

我が国において集中治療管理を行うのにふさわしい専用の構造設備及び人員配置の基準が満たされている医療機関数(特定集中治療管理料算定可能機関数)は、822施設を数える(2011年厚労省統計より)。しかし、これ以外に特定集中治療室管理料を算定していない集中治療室 (ICU) も1000施設以上存在する。このような事情から、各ICUの診療成績には大きな差があることが推測され、現在のような診療体制を放置すると、我が国全体の重症患者管理の診療成績が低下し、患者予後の悪化と医療費の不要な増加が予想される。

我が国の集中治療の問題の一つとして、診療プロセスと診療に関係した患者情報が標準化されていないため、予後から見た診療機能評価が行われておらず、それらが診療報酬に反映されることも不可能であることがあげられる。

上記の問題を解決するための一つの手段として、日本集中治療医学会では、我が国のICUに入室し管理を受けた患者についての多施設登録システムの開発を行っており、2014年1月より稼働している。このシステムにより、我が国の集中治療の客観的評価、参加施設間の差についての客観的指標(患者重症度と死亡率比較など)を得ることができるようになり、最終的には治療成績の向上が期待できる。

COVID-19重症患者におけるROX indexの有用性の検討(森山教授)

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 重症患者に対する酸素療法は、早期に提唱されていた積極的な人工呼吸器管理から、一転して人工呼吸管理を避ける管理が推奨されるようになってきた。特に経鼻高流量酸素療法 (High-flow nasal therapy: HFNC) は、初期には院内感染を増やす懸念からその使用が非推奨とされていたが、現在では多くの医療機関で重症患者への第一選択となっている。本研究ではCOVID-19重症患者に対する経鼻高流量酸素療法の呼吸負荷軽減効果につき、ROX index (ROX=[SpO2/FiO2]/呼吸回数[/分])に基づき評価する。

高機能シミュレーターを用いた経鼻高流量酸素療法による換気効果の評価(森山教授)

超高齢化社会を迎える日本の急性期医療には、これまでの救命のために"とことん型医療"から、最善の治療を施しつつ、かつ患者及び家族が思い描く穏やかな死に方も視野に入れた医療への移行が求められている。高齢者に対する集中治療では、各人の罹患前の生活水準に応じて、侵襲的治療それ自体のダメージから回復可能かを念頭に置いた"まあまあ型医療"の選択が必要となる。酸素療法では、気管挿管をして人工呼吸する侵襲的治療から、より侵襲の少ない非侵襲的換気療法 (NIV: Non-invasive ventilation)、更に非侵襲的な経鼻高流量療法 (HFNC: High Flow Nasal Cannula) へと急速に移行している。我々は、高機能シミュレーター (H u m a n P a t i e n t S i m u l a t o r: H P S) を用いた過去の研究において、高流速の酸素によるCO2洗い出し効果を立証し、HFNCの低換気患者に対する有効性を明らかにした。本研究ではHFNCが換気補助効果を持つことを、HPS及び臨床データより明らかにすることで、HFNCの適応を更に拡げ、より非侵襲的に最善の医療を施せる、終末期も視野に入れた急性期医療の発展に繋げたい。

超音波ガイド下血管確保に関する臨床およびシミュレーション研究(徳嶺教授)

中心静脈カテーテル挿入に関連した死亡事故は、本邦の医療事故死亡で最多となっている。その背景には、超音波を用いた手技に不慣れな医療者が多いことが挙げられる。解決のため、ハンズオン・トレーニングを主体としたシミュレーション教育法の開発と実施に取り組んでいる。医学生・研修医・医師にトレーニングを行い、臨床での合併症発生率の推移を追跡中である。

気道エコーの臨床およびシミュレーション研究(徳嶺教授)

麻酔科学において、気道確保は生命維持のための重要な手技である。最近、Point-of-car ultrasoundの一分野として、気道エコー(Airway ultrasound )が注目されるようになってきた。気道エコーの有用性に関して大きな期待がかけられているにも関わらず、現在まで臨床上のエビデンスは明確になっていない。当教室では、気道エコーの有用性を、シミュレーターでの研究だけでなく臨床で実施し、評価を行なっている。

糖尿病治療薬SGLT2阻害薬に関連した術後ケトアシドーシスに関する多施設共同前向き観察研究〜SAPKA Study〜)(関准教授)

新しいタイプの糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬は最近処方数が急速に増加している。SGLT2阻害薬は低血糖などの有害な副作用が少ないとされるが、まれにケトアシドーシスを生じるリスクがある。ケトアシドーシスは治療が遅れると死につながる重篤な副作用で、手術患者では生体に加わるストレスや絶食により特にリスクが高いと考えられるものの、その発生頻度は明らかではない。本研究は、SGLT2阻害薬の副作用であるケトアシドーシス (SGLT2 inhibitor-associated postoperative ketoacidosis: SAPKA) の周術期における発生率を明らかにするための世界初の前向き研究で、当院麻酔科を中心として国内の16大学病院が共同で行っている。本研究でSAPKAのリスク因子を明らかにすることで、今後さらなる増加が予想されるSGLT2阻害薬服用患者の周術期の安全性向上が見込まれる。

術前の口腔機能と術後合併症に関する研究(関准教授)

最近の研究で、口腔機能の低下がフレイルや死亡率に関連することが示されており、高齢者の健康維持には口腔機能の改善が重要であると考えられる。周術期患者においても術前の口腔ケアが術後創部感染や肺炎などの合併症を減少させることが示されているが、どのような口腔機能の患者に介入を行えば合併症が減少するかという点についてはエビデンスがない。われわれは、全身麻酔で予定手術を受ける65歳以上の患者において、術前の口腔機能と術後30日以内の新規合併症発生との関連性を後方視的に調べている。本研究により、術後合併症のハイリスク患者のスクリーニングが可能となり、より効率的かつ有効な介入が可能になると考えられる。

基礎研究

敗血症の新たな治療薬の開発;骨格筋におけるタンパク質のファルネシル化に着眼して(中澤准教授)

敗血症は、発症率、死亡率がともに高く治療が困難な病態である。また、敗血症に合併したミトコンドリア機能障害は、患者予後を増悪させることが知られている。我々はこれまでの研究において、敗血症はミトコンドリアの形態異常を引き起こし、そして、それに伴って血中に漏出したミトコンドリアDNA(mtDNA)が全身の炎症反応を増悪させる因子として働くことを示した。本研究は、敗血症に合併するミトコンドリア障害には、タンパク質の翻訳後修飾であるファルネシル化が関与している可能性がある点に着目し、そのメカニズムや特異的な治療薬を開発することを目的としている。

重症病態における内皮細胞機能変化の時間空間的イメージング手法による病態生理の解明(鵜澤助教)

麻酔や集中治療領域において重症患者の全身管理、特に敗血症や大量出血などの致死的重症患者の治療は時に困難を極める。その死亡率は未だ30%前後もあり、発展途上国では60%以上とも報告され、急性期医療にとって重要な課題である。しかし治療評価やリアルタイムな病態把握は困難なため、これまでの経験や予測に基づいて加療されているのが現状である。『リアルタイムに評価可能な全身管理』と『重症患者の予後改善』のために、重症病態での微小循環環境は最重要であり、特に内皮細胞周辺環境改善が治療のキーファクターであると考えている。本研究は、核心的な役割を果たす血管内皮細胞機能に着目し、微小循環環境をin vivo顕微鏡イメージング技術で観察することにより、重症病態生理を解明することである。我々は病態の各段階における内皮細胞上層のグリコカリックス層の形態変化に着目し、各種輸液製剤や薬剤のグリコカリックス層への保護効果を評価し、崩壊したグリコカリックス層の修復過程を明らかにする。さらにグリコカリックス層の役割の完全解明を目指し、重症患者治療への新たな戦略を導く新規治療戦略を開発することを目指す。

体外循環によるミトコンドリア機能障害とプレニル化タンパク質の関与(中澤准教授)

心臓血管手術における人工心肺の使用は術後患者の炎症の遷延を惹起し、患者の予後に影響を与えることが知られており、如何にして人工心肺の患者への影響を少なくするかが、今後の心臓手術の課題である。近年、人工心肺の使用が血中のミトコンドリアDNAを増加させ全身の炎症を遷延させるとの報告があり注目されている。我々はこれまでの研究において、熱傷によって誘導されたミトコンドリア障害と血中ミトコンドリアDNAの増加に対して、タンパク質のプレニル化が病態の悪化に関与していることを示した。今回我々は、人工心肺に伴うミトコンドリアDNAの増加に対しても、プレニル化阻害作用を持つファルネシルトランスフェラーゼ阻害薬(FTI)が病態制御に有用と考えた。本研究で、我々は人工心肺の使用によって引き起こされるミトコンドリア障害と血中へのミトコンドリアDNAの漏出による炎症の遷延のメカニズムを明らかにし、それに対するFTIの効果を検証したい。

アスコルビン酸合成酵素ノックアウトマウスを用いた重症病態下、内皮細胞構造・機能の観察(安藤助教、吉川助教)

重症敗血症の死亡率はいまだに高く、治療法の確立は喫緊の課題である。敗血症では活性酸素や一酸化窒素が過剰産生され、血管内皮に存在するGlycocalyxが破壊される。その結果、血管透過性の亢進、微小循環の破綻が生じ、組織への酸素供給が障害される。アスコルビン酸は抗酸化作用を持つ生体内分子で、活性酸素や一酸化窒素の発生を抑制すると考えられている。敗血症患者では血中のアスコルビン酸が低下していることが報告されており、アスコルビン酸の投与が敗血症の治療に有用であるという報告もある。しかし、アスコルビン酸のGlycocalyxに対する影響については知られていない。我々は、アスコルビン酸のもつ抗酸化作用がGlycocalyxと血管内皮機能に保護的に作用し、敗血症患者の予後を改善するという仮説をたて、これを検証するためにアスコルビン酸合成酵素ノックアウトマウスを使用し実験を行っている。アスコルビン酸のGlycocalyxに対する影響を明らかにすることができれば、敗血症に対する新たな治療法開発につながるものと考えられる。

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