大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ循環器内科学教室

研究室・研究グループ紹介:循環器内科学教室

当科での大学院コースの目標は"研究のみならず臨床の研修を継続することで、臨床・研究双方に秀でた医師を育成すること"です。臨床現場で生まれる疑問 (clinical question)を育むためにも臨床の実践は重要と考え、臨床に携わりながら研究を進めます。

大学院1年目に各研究班に所属し、指導医によるメンタリング制度のもと研究テーマを決定します。研究の進捗を医局内カンファレンスで定期的に発表し、科全体としての支援を受けながら研究を進めていきます。臨床と研究の両立はハードですが、在籍中の大学院生は大学院修了後に、"臨床研究の実践による問題可決能力を有する臨床医"として自立することを目指して日々研鑽しております。この期間の努力は、その後の医師としてのキャリアに必ず役立つ4年間になると考えております。

詳細につきましては、診療科ホームページでも紹介しております。


心臓カテーテル班

虚血性心疾患、末梢血管疾患、心臓大血管の構造的疾患(SHD: structural heart disease)に対する診断およびカテーテルを用いた低侵襲治療が主な仕事になります。年間350-400例のPCI(経皮的冠動脈インターベンション)、80-90例のEVT(血管内治療)、約30例のTAVI(経カテーテル的大動脈弁挿入術)を行っています。

虚血性心疾患に対しては、血管内超音波をはじめOCTやNIRSといった血管内イメージングを複数取り入れ、病変の詳細な観察を行い、臨床、研究に応用しております。特にNIRSを用いた研究は、当院が主幹となり現在多施設共同研究が進行中です。また近年その存在が注目されている冠微小循環障害の診断にも積極的に取り組み、検査実施施設にも登録されております。末梢血管疾患に関しては原因血管の治療だけでなく、重症下肢虚血に陥った場合は、形成外科と連携し、創傷の治療を集学的に行っております。最近ではLSFGと呼ばれる低侵襲の画像診断によって、血管内治療効果の判定を行う研究を行っております。SHDに関しては 2019年より開始したTAVIの他、2023年からはMitraClipによる僧帽弁閉鎖不全の治療も開始しました。順調に症例を伸ばしており、他班とも協力しながら、総合的な治療を目指しています。

進行中の研究内容

  • 高リスク冠動脈疾患患者における、近赤外線分光法血管内超音波(NIRS IVUS)を用いた冠動脈プラークの進展に関する前向き観察研究
  • 高度石灰化を伴う冠動脈病変に対するカッティングバルーンの治療効果に関する臨床研究 近赤外線分光法血管内超音波による探索的検討
  • 重症下肢虚血に対するEVTにおけるエンドポイントとしてLSFGの有用性の検討
  • 重症下肢虚血の虚血評価法として各モダリティーの比較検討

などがあります。新規治療デバイスの治験や、多施設共同研究にも積極的に参加し、他施設との連携も大切にしています。

不整脈班

心房細動の患者の増加とともに、カテーテルアブレーションは頻脈性不整脈の治療の中心となりました。複雑な治療が安全かつ有効に行えるようになってきたことには、近年の様々なマッピングシステムと治療カテーテルの進歩が深く関係しています。当院ではこうした新しい技術を積極的に導入し、治療成績の向上につなげています。また、カテーテル治療には放射線の使用が不可欠ですが、当院では2015年から放射線被ばくの低減を可能にする、カテーテルナビゲーションシステムをアジアで初めて導入し、低被ばくでの治療を実現し、患者や医療者における被ばく低減の重要性など積極的に情報発信をしています。また、難治性心室頻拍治療には特に力を入れており、都外を含む他施設で治療困難であった心室頻拍の患者さんに対して心外膜アブレーション、外科との連携などで根治を目指しています。

また、徐脈・頻脈・心不全に対するデバイス治療(ペースメーカー、植え込み型除細動器、心臓再同期療法)においては、2014年3月より欧米と同時に、日本で初めてとなるリードレスペースメーカーの治験を行い、2017年からの保険償還後も積極的に植込みを行っています。また、生理的刺激伝導系ペーシング(ヒス束―左脚領域ペーシング)を日本では先駆けて開始し、徐脈性不整脈に対する治療から、心不全に対する心臓再同期療法の代替療法としての確立を目指しています。植込み後の患者さんのフォローとして、通常の外来だけでなく、遠隔モニタリング(患者さんが自宅にいながらデバイスチェックや心不全指標をモニターできるシステム)を取り入れ、不整脈チームと心不全チームと連携した円滑な診療に力を入れています。最新の治療を実感できる部門であるのが特徴です。

研究のトピック

  • 国内他施設との共同研究(心サルコイドーシスの臨床経過、器質的心疾患に合併する心室頻拍に対するマッピング、アブレーションに関する研究)
  • 難治性心室頻拍に対する非侵襲的交感神経修飾の有効性
  • 最近のマッピングシステム、アブレーションカテーテルの特性、比較
  • 無症候性心房細動の早期発見とその生活変容の可能性
  • 生理的刺激伝導系ペーシング(ヒス束―左脚領域ペーシング)の徐脈性不整脈に対する有用性評価、ならびに心不全治療への応用

週に一度抄読会、勉強会を行い全員で知識の向上をはかるとともに、一週間の治療方針を患者さんごとに検討しています。安全で最新の治療を目指しています。興味のある方は是非参加してください。

心エコー班

心エコーは、全ての心臓血管疾患の診断および治療効果の判定に必要な検査です。しかも、非侵襲的で全ての患者さんが検査可能であり、有用性が高い検査法です。当院では年間10000件以上の検査をおこなっており、急性心筋梗塞、狭心症、心不全、弁膜症、心筋症、先天性心疾患、肺血栓塞栓症、肺高血圧症、大動脈瘤などの疾患の診断・治療効果評価をおこなっています。一般的な心エコー検査のほか、経食道エコー、運動および薬物負荷心エコー、頸動脈・腹部大動脈などの血管エコーも行っております。 当院の心エコー班では、現在以下のような検査を通して、臨床診療、研究を行っております。

  • 救命救急センターでの24時間体制の重症救急心臓血管疾患の診断、治療法の選択、治療効果の評価
  • 運動および薬物負荷心エコーによる虚血性心疾患の診断および心機能評価、心臓以外の手術を行う患者さんのリスク評価、心筋症・弁膜症・肺高血圧症の心機能評価
  • Speckle-tracking法や3D心エコーによる肺高血圧症の右心機能評価
  • 経食道心エコーによる不整脈アブレーション前の血栓評価や先天性心疾患や心臓弁膜症の詳細評価
  • Speckle-tracking法による心筋虚血、心不全の心臓同期不全の評価、3Dエコーによる心形態・心機能の詳細な評価
  • 頚動脈エコーによる高血圧、糖尿病、高脂血症、急性冠症候群の患者さんの動脈硬化評価

現在、研修医を含めた若手医師、検査技師の教育のための心エコースクールも開催しており、誰でも参加可能です。今後も、心エコー技師、若手医師、心エコー専門医が一体となり、診療業務を充実し、他科や地域医療機関との連携をさらに強め、研究・教育を進めて参ります。

肺高血圧班

稀少疾患、かつ難病特定疾患である肺動脈性肺高血圧症及 慢性血栓性肺高血圧症を中心に診療しています。患者数は国内上位3位施設に入り、関東甲信越から毎年多くの患者さんが紹介されてきています。慢性肺血栓塞栓症に対しては、日本のカテーテル治療(BPA:経皮的肺動脈形成術)は世界から注目されており、当院はBPAの実施施設として認定されている数少ない施設の一つで、かつ日本に6名しかいないBPA認定指導者のひとりが指導をおこなっており、世界に通用する術者の育成を目指しています。2009年から日本の草分けの1つとして始め、年間120例以上の患者様のBPAを行っています。

カテーテル検査中の運動負荷試験による循環動態の詳細な検討は、肺高血圧の早期診断や潜在性左室拡張障害の鑑別に有用であり当施設の取り組みは国内外から高く評価されています。心臓リハビリ、呼気ガス分析を併用した運動負荷試験も施行しており、運動負荷時の生理的な循環動態を検討することで、肺高血圧の早期診断や治療に応用しています。また、肺高血圧症の遺伝子治療に関する研究を進めており、早期の治療開始をめざし、肺高血圧症の予後改善に貢献しています。

研究のトピック

  • 末梢圧測定による定量的指標をガイドとしたBPAの有効性・安全性の検討
  • 肺高血圧症を伴わない慢性肺血栓塞栓症に対するBPAの有効性・安全性の検討
  • Wearable Deviseを用いた肺高血圧症患者の身体活動に関する研究
  • 肺高血圧症の各サブグループとExercise PHに関する研究

心不全班

研究は、より良い診療を心不全チームが提供しつづけるために重要です。臨床研究・症例報告を、国際的な学術誌を通して世界に発信するために、個別のメンタリング制度(毎週あるいは隔週)による研究支援をしています。"臨床研究の実践による問題解決能力"を身につけた心不全専門医の育成、心不全多職種チームスタッフ (理学療法士・看護師・薬剤師など)・医学部生の研究支援は、我々の大切なミッションです。

多施設共同心不全レジストリ

当院が参加するWest Tokyo Heart Failure Registry (WET-HF)は、臨床研究コーディネータによる支援のもと、良質なデータベースとして現在も発展しており、我々の大きな強みです。具体的な報告をご紹介しますと、日々の診療で心不全患者さんに何気なく処方しているガイドライン推奨薬剤が、高齢者や腎機能障害の場合は必ずしも予後と関連しないことを報告しました。その結果は学会シンポジウムで大きく取り上げられ、高齢化社会における薬物治療の議論が今も活発に行われています。このような研究の原点は、臨床現場に立ち続けている若手医師が診療で感じる疑問から始まることが実は多いのです。現場感覚で生まれた解決不可能な疑問を解決すべく、研究デザインの立案・データ解析・学会[欧米主要学会]発表/論文作成まで、当院のみならず、施設を越えた心不全・臨床研究の専門家が支援します。

近年は国際比較研究を推進しています。なぜかというと、本邦と欧米とで、どうも心不全の特徴が違うことが指摘されてきたからです。国際的に説得力をもって本邦の特殊性を提示・議論するためには国際比較は不可欠です。米国ワシントン大学との共同研究では、心不全症例の突然死が少ないという本邦特有性を示す一方で、米国で開発された突然死予測リスクモデルが日本の患者さんでも当てはまることを証明しました。本邦の診療ガイドラインの根拠は欧米のevidenced-based medicine (EBM)に主に基づいているわけですが、欧米のEBMをそのまま外挿できる部分と、本邦独自のEBM発信が必要な領域を見極めながら、あらたな知見を臨床現場に還元し続けます。

杏林大学単施設での研究

単施設で詳細に情報を取得することが、臨床の疑問の解決の近道となることも多々あります。運動中の血行動態や運動耐容能評価による病態把握、患者視点を踏まえた適切な意思決定支援の在り方などについての報告は、国際的にも高く評価されています。

研究に興味がある学生の皆様へ

心不全チームは、熱意ある医学部生の臨床研究の参加を支援します。"創造的思考力" を育てるには臨床研究は絶好の機会です。興味のある方は、是非教室ホームページよりお問い合わせください。

教室の特色を示す業績

  1. A Leadless Intracardiac Transcatheter Pacing System. Reynolds D, Duray GZ, Omar R, Soejima K, Neuzil P, Zhang S, Narasimhan C, Steinwender C, Brugada J, Lloyd M, Roberts PR, Sagi V, Hummel J, Bongiorni MG, Knops RE, Ellis CR, Gornick CC, Bernabei MA, Laager V, Stromberg K, Williams ER, Hudnall JH, Ritter P; Micra Transcatheter Pacing Study Group.N Engl J Med. 2016 Feb 11;374(6):533-41.
  2. Long-Term Outcomes After Percutaneous Transluminal Pulmonary Angioplasty for Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension. Inami T, Kataoka M, Yanagisawa R, Ishiguro H, Shimura N, Fukuda K, Yoshino H, Satoh T. Circulation. 2016 Dec 13;134(24):2030-2032.
  3. 坂田好美:【心臓イメージング2019】新しい3次元スペックルトラッキング心エコー法を用いた心機能評価(解説/特集). 映像情報Medical 51巻3号:25-30,2019.
  4. Kongoji K:EVT course, CLI Global Session,傷を治すためのEVTとは.Tokyo Percutaneous cardiovascular Intervention Conference (TOPIC) 2019,東京,2019年7月11日‐13日.
  5. Takeuchi S, Kohno T, Goda A, Shiraishi Y, Saji M, Nagatomo Y, Tanaka TD, Takei M, Nakano S, Soejima K, Kohsaka S, Yoshikawa T. Malnutrition in real-world patients hospitalized for heart failure with preserved ejection fraction and its potential impact on generalizability of EMPEROR-Preserved trial. Int J Cardiol. 2023 Jan 1;370:263-270
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