研究室・研究グループ紹介:高齢医学教室
高齢医学教室は本邦が高度成長期を終え安定期に移行した1983年に、加齢に伴う諸問題について研究する講座として開設されました。高齢者は医学的・社会的両見地から、多病性や様々な因子を統合して病態を捉える必要があるため、非高齢者の病態とは一線を画して考える必要があったからです。
当教室は"本邦における高齢医学(老年医学)のパイオニア"として様々なオリジナリティーにあふれる概念やツールを社会に発信し、国内外に広めてきました(高齢者総合機能評価(CGA)やポリファーマシー、フレイル、転倒スコアなど)。高齢者研究は、個々の身体・精神・社会的機能から評価される老年期の各ステージごとに、必要とされる目的が異なるため、方向性を的確にとらえ、"回復もしくはrewind"、要介護状態への進行防止、進行抑制や症状緩和など目的に応じて、切り口を変える必要性があります。

1892 年に Sir William Osler が"The Principals and Practice of Medicine" 中で「ひとは血管とともに老いる」と著述しました。当教室の重点研究の一つが動脈硬化研究です。動脈硬化は心臓や脳・腎臓・筋肉などに障害を与え、加齢性疾患の発生につながります。当教室は診療部門として"もの忘れセンター"および"高齢診療科(外来・病棟)"を併設しておりますが、血管性認知症は無論のこと、その他の各種認知症疾患における動脈硬化病変の関与、また、動脈硬化は上述の高齢者特有の性質に寄与する重要な要因であることから、動脈硬化を基軸とする未解決の高齢者全身疾患諸問題に臨床的、基礎的見地から取り組んでおります。

また、Sir William Oslerは同書の中で"肺炎は老人の友である"とも著述しています。これまで行ってきた高齢者誤嚥性肺炎メカニズム解明研究を基盤とし、2025年には700万人に急増すると推計されている認知症患者の"誤嚥性肺炎および摂食嚥下障害"の、時間軸を考えた病態解明ならびに予防法の開発といった急務の臨床課題にも、重点的に取り組んでいます。また、様々な事象や混沌としている認知症高齢者の最期の在り方についての科学的論拠を作るための研究にも取り組んでいます。
研究成果は、アカデミアの中だけではなく、どのような診療場面でも(病院・診療所・在宅問わず)いつでもフィードバックし、実際の診療に役立つ実学であることをモットーとしており、常に"患者から学ぶ"という謙虚な基本姿勢で、「フレイルから最期まで」をスローガンに高齢者包括的診療に合致した連続性のある研究を行っています。
研究プロジェクト
臨床
神﨑恒一(教授)
- 認知症の地域連携構築に関する研究
- 地域での在宅医療推進のための研究
- フレイル高齢者のレジストリ研究及びロコモ、サルコペニアを含めた病態解明及び予防介入法の確立を目指した臨床ならびに関連研究
神﨑恒一(教授)、永井久美子(実験助手)
- AI を用いたチャットボットによる高齢者に対する情緒的支援に関する研究
- 経頭蓋超音波ドップラ法による認知機能障害患者の血流動態に関する研究
神﨑恒一(教授)、海老原孝枝(准教授)、永井久美子(実験助手)
- コグニティブフレイルの臨床的意義解明のための総合研究
大荷満生(教授)
- 高齢者の脂質代謝異常症に関する研究
海老原孝枝(准教授)
- 高齢者肺炎における、DPP-IV阻害剤のpros and cons
- 併存疾患に注目した認知症重症化予防のための研究
業績リスト
- 神﨑恒一:COVID-19による認知的フレイルへの対応.日本サルコペニア・フレイル学会誌 5(1):55-59.2021.
- Ebihara T, Yamasaki M, Kozaki K, Ebihara S:Medical aromatherapy in geriatric syndrome.Geriatr Gerontol Int 21(5).377-385.2021.
- Ebihara T,Miyamoto T,Kozaki K:Prognostic factors of 90-day mortality in older people with healthcare-associated pneumonia.Geriatr Gerontol Int 20(11):1036-1043,2020.
- 神﨑恒一:フレイルの定義・診断.日本医師会雑誌 148(8):1471-1473,2019.
- Miyamoto T, Ebihara T, Kozaki K:The association between eating difficulties and biliary sludge in the gallbladder in older adults with advanced dementia, at end of life.PLOS ONE 14:e0219538,2019.
- 神﨑恒一:認知機能低下とフレイルおよび認知症と転倒.Aging&Health 30(4).10-13.2022.
- Ebihara T ,Yamasaki M,Kozaki K, Ebihara S:Medical aromatherapy in geriatric syndrome.Geriatr Gerontol Int.21(5).377-385.2021.
- Ebihara T,Gui P,Ooyama C,Kozaki K, Ebihara S:Cough reflex sensitivity and urge-to-cough deterioration in dementia with Lewy bodies.ERJ Open Res,2020.
- 神﨑恒一:東京都における認知衣装疾患医療センターの活動と課題 北多摩南部の活動-多彩な専門性と協調性-.老年精神医学雑誌 30(12):1315-1325,2019.
- 神﨑恒一:サルコペニアの診断:現時点でどの診断基準を用いるべきか EWGOP2基準.日本サルコペニア・フレイル学会誌 3(1):21-26,2019.