三嶋竜弥 (病態生理学教室 講師)
小藤剛史 (共同研究施設RI部門 助教)
寺尾安生 (病態生理学教室 教授)
赤川公朗 (名誉教授)
熱性けいれんは2-4%の乳幼児に見られ、遺伝的な要因が強ことが知られています。近年、ヒトにおいてシンタキシン1B(STX1B)というタンパク質をコードしている一対の遺伝子のうちの片側に変異が生じ、この遺伝子から作られるSTX1Bの量が減少すると、熱性けいれんや・てんかんを引き起こすことが報告されました。熱性けいれんは、発熱などによる高体温により神経細胞が過剰興奮を起すことで発症しますが、なぜSTX1Bタンパク質が半減すると熱性けいれんを引き起こすのかは不明です。STX1Bは中枢神経系の細胞に発現し、シナプス小胞の開口放出に関与する形質膜タンパク質です。STX1Bを含む3種のSNAREと呼ばれるタンパク質(STX1, SNAP-25, VAMP2)の働きが開口放出の調節に中心的に関わっています。また、STX1BはSLC6Aファミリーの神経伝達物質トランスポーターに直接結合し、神経終末から放出されたGABAやグリシンなどの抑制性神経伝達物質を再び神経細胞内に取り込むトランスポーターの機能調節にも関っています。
本研究ではSTX1B遺伝子の片側を欠損した遺伝子改変マウスを用いて、STX1Bのタンパク質量減少による熱性けいれんの発症機序を調べました。実験には出生直後の新生仔マウスから採取した海馬神経細胞を培養したものを用いました。けいれんの発症は抑制性神経機能の異常と関連が強いことが知られています。そこで抑制性神経伝達物質であるGABAの放出機構を電気生理学的な手法で解析したところ、自発的に放出されるGABAの量が減少していることを明らかになりました。シナプスから放出されたGABAはGABAトランスポーターにより再取り込みされシナプス前終末に回収されますが、一部はシナプス間隙に残り、持続的に神経活動を抑制する働きをします。そこで、シナプス間隙のGABA濃度を解析したところ、野生型マウスでは高体温時にはシナプス間隙のGABA濃度が上昇しており、神経活動の抑制が強くなることが解りました。しかし、遺伝子改変マウスでは高体温時にシナプス間隙のGABA濃度が上昇せず、神経活動の興奮性の低下が見られませんでした。このとき、GABAトランスポーターの阻害剤を投与することで神経活動の興奮性を低下させることができました。これらの結果は、熱性けいれん・てんかん症候群の治療法の開発につながるものとして期待されます。
この研究は、文部科学省科研費(基盤研究C)、てんかん治療研究振興財団の助成を受けて実施されました。
発表雑誌: | Journal of Neurochemistry |
論文タイトル: | Syntaxin 1B regulates synaptic GABA release and extracellular GABA concentration, and is associated with temperature-dependent seizures |
筆 者: | Tatsuya Mishima, Tomonori Fujiwara, Takefumi Kofuji, Ayako Saito, Yasuo Terao, Kimio Akagawa (三嶋竜弥、藤原智徳、小藤剛史、斎藤綾子、寺尾安生、赤川公朗) |
DOI: | 10.1111/jnc.15159 |
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