田口 慧 (泌尿器科学教室、講師)
渡邉 正中 (放射線科学教室、助教)
多武保 光宏 (泌尿器科学教室、准教授)
町田 治彦 (放射線科学教室、准教授)
横山 健一 (放射線科学教室、教授)
福原 浩 (泌尿器科学教室、教授)
膀胱癌は比較的頻度の高い癌であり、年齢調整罹患率では全世界の男性の7位、女性の9位にランクしています。初発時の患者のうち、75%は筋層非浸潤癌、25%は筋層浸潤癌であり、後者は膀胱全摘を含めた集学的治療が必要となることから、両者の鑑別は臨床上非常に重要です。膀胱癌の初期治療としては、内視鏡手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術; TURBT)がルーチンで行われます。これにより、筋層浸潤の有無を病理学的に診断して病期診断(ステージング)を行うととともに、筋層非浸潤癌の場合は同時に根治治療にもなり得ます。一方、TURBTの欠点として過小診断率の高さが挙げられ、初回TURBT後に正確な病期診断のために再度のTURBTがしばしば行われます。これにより、根治治療の遅れや、医療コストの増大に繋がることが指摘されています。以上のことから、膀胱癌の初回手術前に、正確に病期診断を行う方法(例: 画像診断など)の開発が強く求められてきました。
近年MRIの撮像プロトコールと報告方法を標準化しようという試みが盛んであり、前立腺癌のProstate Imaging-Reporting And Data System (PI-RADS)や乳癌のBreast Imaging-Reporting And Data System (BI-RADS)などが報告されています。これらに倣って、膀胱癌の深達度診断法としてVesical Imaging-Reporting And Data System (VI-RADS)が2018年に提唱されました。VI-RADSは、膀胱造影MRIのT2強調画像、dynamic contrast-enhanced (DCE) 画像、拡散強調画像、などの所見に基づき、膀胱癌の筋層浸潤リスクを5段階のスコア(VI-RADS 1-5; 数値が大きいほど筋層浸潤の可能性が高い)で分類する試みです。すでに世界中で検証研究が行われ、その有用性と完成度の高さが急速に認知されつつありますが、その前向き検証はほとんど行われていませんでした。
今回我々は、本学が有する、高い最大傾斜磁場強度を持つ次世代高分解能MRI「Vantage Galan 3T / ZGO」(キヤノンメディカルシステムズ)を用いてVI-RADSの前向き検証を行いました。このMRIには、人工知能によるノイズ除去再構成(denoising deep learning reconstruction)の機能が搭載されており、その有用性についても検討しました。2019年1月~2020年4月にVantage Galan 3T / ZGOによる膀胱MRIを行った98例を前向きに集積し、最終的にTURBTで尿路上皮癌の病理診断が得られた68例を対象に解析しました。放射線科専門医の画像評価によりVI-RADSスコア(1-5点)を決定しました。また、ノイズ除去再構成画像に基づいたVI-RADSスコアも別途算出しました。術後病理診断では18例(26%)に筋層浸潤を認めました。「VI-RADSスコア≧4点」をカットオフ値とした場合、筋層浸潤の予測性能は、感度89%、特異度96%、正確度94%、AUC 0.92と非常に高い値でした。興味深いことに、VI-RADSスコアと病理診断が食い違った4例のうち、ノイズ除去再構成画像に基づく評価では3例で正しく診断していました。以上まとめると、次世代高分解能MRIを用いた前向き検証において、VI-RADSは極めて高い精度で膀胱癌の筋層浸潤を予測しました。また、人工知能によるノイズ除去再構成技術により、診断能のさらなる向上が期待されました。本研究で示された、VI-RADSによる膀胱癌の正確な術前診断により、手術の安全性や治療成績の向上が期待されます。
本研究は、本学泌尿器科学教室と放射線科学教室の共同研究による成果であり、令和元年度 杏林大学医学部 共同研究プロジェクト(研究代表者: 多武保光宏准教授)の助成を受けて実施されました。
発表雑誌: | The Journal of Urology |
論文タイトル: | Prospective validation of Vesical Imaging-Reporting and Data System (VI-RADS) using a next-generation magnetic resonance imaging scanner: Is denoising deep learning reconstruction useful? |
筆 者: | Satoru Taguchi*, Mitsuhiro Tambo†, Masanaka Watanabe*, Haruhiko Machida†, Toshiya Kariyasu, Keita Fukushima, Yuta Shimizu, Takatsugu Okegawa, Kenichi Yokoyama, Hiroshi Fukuhara (*contributed equally; †co-correspondence) (田口慧、多武保光宏、渡邉正中、清水裕太、福島啓太、苅安俊哉、町田治彦、桶川隆嗣、横山健一、福原浩) |
DOI: | 10.1097/JU.00000000000013 |
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