苣田 慎一 (衛生学公衆衛生学教室 助教)
吉田 正雄(衛生学公衆衛生学教室 准教授)
苅田 香苗 (衛生学公衆衛生学教室 教授)
プラスチックによる環境汚染問題は、マイクロプラスチック(粒径5 mm以下のプラスチック製粒子)の観測以来多様化し、生態系に悪影響を及ぼしているとともに、公衆衛生上の対策を講ずべき問題となっています。Koelmans(2019年)らの報告によると、多くの地域で、水道水から10~1000個/Lの、ペットボトル入り飲用水からも10~100個/Lのマイクロプラスチックが検出されており、私たちヒトもマイクロプラスチックに曝される環境で生活していることが示されています。しかし、現在のところマイクロプラスチックの生体毒性を評価した研究は乏しく、研究データの集積が待たれています。
昨年私たちは、マイクロプラスチックビーズ(MP)とメダカ(OECDにおいて有害物質を評価するモデル生物として指定されている)を用いて、MPが消化管に長期間滞留し、成長率、産卵数、孵化率を減少させたことを報告しました。今年新たに、眼や腎臓への作用と最小毒性量に関するデータを報告しました。水環境中で観測され得る濃度(1,000、4,000、8,000、40,000 個/L [40,000 個/Lは環境中で観測された最大値])でメダカを飼育したところ、4,000個/L以上で産卵数の減少(およそ50%減)と眼病変(網膜神経繊維層の菲薄化及び網膜毛細血管の拡張)が、また、8,000個/L以上で腎病変(メサンギウム基質の増生及び糸球体毛細血管の拡張)が観察されました。さらに、MPの生体影響には酸化ストレスバランスの崩れが関与していることも分かりました。組織学的解析において、組織変性が観察された周囲にMPが観察されなかったことから、MPの消化管への滞留が間接的に生体の酸化ストレスバランスに影響を及ぼしたと考察されます。今回の解析項目に関して、1,000個/L曝露群では生体影響は観察されませんでした。
メダカという実験動物を用いてMP作用機序の一端を示し、最小毒性量の範囲を示唆したこの研究は、今後公衆衛生上の基準や制限を設定する際の参考データとなることが期待されます。
発表雑誌: | Environmental Pollution [ Vol.268(Pt.B), Article number 115957, (2021) ] |
論文タイトル: | Polyethylene microbeads are more critically toxic to the eyes and reproduction than the kidneys or growth in medaka, Oryzias latipes. |
筆 者: | Shinichi Chisada, Masao Yoshida, Kanae Karita (苣田 慎一、吉田 正雄、苅田 香苗) |
DOI: | 10.1016/j.envpol.2020.115957 |
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