久松 理一(消化器内科学教室 教授)
潰瘍性大腸炎は原因不明の慢性炎症性疾患です。中等症から重症のステロイド治療抵抗性あるいはステロイド依存性の患者は難治性と定義され抗TNFα抗体製剤であるインフリキシマブによる治療が承認されています。インフリキシマブ治療が奏功し臨床的寛解となった患者では8週毎の同剤による寛解維持療法が継続されます。しかし、どこまで維持療法を継続するべきなのか、本当にコントロールが良好な患者ではインフリキシマブを中止することはできないのか、という治療のステップダウンについての知見はありませんでした。患者負担、医療経済的にも重要なこの問いに答えるために日本で多施設非盲検ランダム化試験(HAYABUSA)が行われ杏林大学医学部付属病院消化器内科も参加しました。
研究デザインとしてはインフリキシマブ維持治療により内視鏡的寛解を達成し臨床的寛解が維持されている患者をインフリキシマブ継続群とインフリキシマブ休薬群に割付け、その後の48週の寛解維持率を比較するものです。結果として寛解維持率はインフリキシマブを継続した患者において、休薬群よりも有意に高いというものでした。本研究は、たとえ内視鏡的寛解を達成し、かつ臨床的寛解にあったとしてもインフリキシマブの中止による再燃リスクは存在することを示しており、休薬のトライについては個々の患者においてリスクベネフィットの観点から慎重に判断されるべきであることを示しています。
発表雑誌: | Lancet Gastroenterol Hepatol. [ Vol. 6 (6), pp.492 – 437 (2021) ] |
論文タイトル: | Discontinuation of infliximab in patients with ulcerative colitis in remission (HAYABUSA): a multicentre, open-label, randomised controlled trial. |
筆 者: | Kobayashi T, Motoya S, Nakamura S, Yamamoto T, Nagahori M, Tanaka S, Hisamatsu T, Hirai F, Nakase H, Watanabe K, Matsumoto T, Tanaka M, Abe T, Suzuki Y, Watanabe M, Hibi T; HAYABUSA Study Group. (小林 拓(北里大学)、本谷 聡(札幌厚生病院)、中村志郎(兵庫医科大学)、山本隆行(四日市羽津医療センター)、長堀正和(東京医科歯科大学)、田中信治(広島大学) 、久松理一(杏林大学医学部)、平井郁仁(福岡大学)、仲瀬裕志(札幌医科大学)、渡辺憲治(兵庫医科大学)、松本主之(岩手医科大学)、田中正則 (弘前市立病院)、阿部貴行(横浜市立大学)、鈴木康夫(東邦大学)、渡辺 守(東京医科歯科大学)、日比紀文(北里大学)、HAYABUSA Study Group) |
DOI: | 10.1016/S2468-1253(21)00062-5 |
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