佐藤俊明 (不整脈先進治療学研究講座 特任准教授)
冨樫郁子 (不整脈先進治療学研究講座 特任講師)
上田明子 (不整脈先進治療学研究講座 特任講師)
心臓における生理的な電気的興奮伝播は、房室結節から、房室間を貫く一本のヒス束を介して、脚、プルキンエ、心室筋へと伝わります。これまで、徐脈に対するペースメーカ治療として、右室心筋を刺激する右室ペーシングが施行されてきました。現在、ヒス束(直径1.5-2 mm, 長さ6-20 mm)にリード先端(径1.4mm)を留置する恒久ヒス束ペーシングが注目されています。ヒス束を介した興奮伝播速度は心室筋内伝播速度の2-3倍と早く、電気的心室興奮を示す心電図QRS波形は、ヒス束ペーシングと自己の房室伝導捕捉時ではほぼ同一となります。一方、右室ペーシング時QRS幅は大きく延長し左室収縮能低下、心房細動合併、脳梗塞発症リスクは増加します。恒久ヒス束ペーシングは、右室ペーシングと比較し心不全入院率を低下させると報告されました。
植込み後ヒス束捕捉閾値上昇によるペーシング不全は過去20年間課題として残されてきました。2016年、杏林大学病院では国内では先駆けて恒久ヒス束ペーシングを開始、前向き観察研究を継続しています。2019年、恒久ヒス束ペーシングリード留置後深い陰性ヒス束電位が記録されると術後1年間良好なヒス束捕捉閾値が維持されると報告しました(Circulation Arrhythmia Electrophysiology 2019;12:e007415)。従来、恒久ヒス束ペーシングリード先端は右房側に留置され近位ヒス束ペーシングが行われてきました。2021年、右室側からの遠位ヒス束ペーシングは、右房側近位ヒス束ペーシングと比較し、同様なヒス束捕捉が可能であり、近傍心室捕捉閾値はより低く維持されると初めて報告しました。ヒス束捕捉閾値上昇時もバックアップとなる近傍心室捕捉が維持される右室側遠位ヒス束ペーシングは安全かつ有用です。本論文に附図を提供頂いた肉眼解剖学教室 長瀬美樹教授, 松村讓兒教授には深く感謝申し上げます。
発表雑誌: | Journals of the American College of Cardiology: Clinical Electrophysiology. [ Vol.7 (4), pp.513 – 521 (2021) ] |
論文タイトル: | Safety of Distal His Bundle Pacing Via the Right Ventricle Backed Up by Adjacent Ventricular Capture. |
筆 者: | Sato T, Soejima K, Maeda A, Mohri T, Katsume Y, Tashiro M, Momose Y, Nonoguchi N, Hoshida K, Miwa Y, Ueda A, Togashi I (佐藤 俊明1, 副島 京子2, 前田 明子2, 毛利 崇人2, 勝目 有美2, 田代 身佳2, 百瀬 雄一2, 野々口 紀子2, 星田 京子2, 三輪 陽介2, 上田 明子1, 冨樫 郁子1 (1: 不整脈先進治療学研究講座, 2: 循環器内科学教室)) |
DOI: | 10.1016/j.jacep.2020.09.018 |
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