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Faculty of Medicine運動は肥満によるマウス褐色脂肪組織におけるブラウンアディポカインの発現異常を減弱する

櫻井拓也(衛生学公衆衛生学教室・講師)

研究のハイライト
  • 褐色脂肪組織(細胞)から分泌される液性因子(ブラウンアディポカイン)を同定しました。
  • マウスの褐色脂肪組織におけるブラウンアディポカインの遺伝子発現に対する肥満や運動の影響を検討しました。特に、肥満によるブラウンアディポカインの発現異常を運動は減弱させることを見出しました。
  • 褐色脂肪細胞に対する影響がわかっていないブラウンアディポカイン・ガレクチン3やガレクチン3結合タンパク質が褐色脂肪細胞の分化に関与することを明らかにしました。

概要

肥満は、2型糖尿病をはじめとする生活習慣病の発症に密接に関わっていることがよく知られています。現在、我が国では成人肥満者の割合が男性では33.0%、女性では22.3%と、決して少なくない数が肥満者に該当することから、効果的な肥満・生活習慣病の予防・改善策の確立が期待されています。運動は、肥満・生活習慣病の予防・改善に有効であることが広く認められていますが、そのメカニズムは十分に解明されていません。
 肥満の原因臓器のひとつである脂肪組織には、過剰なエネルギーを中性脂肪として蓄え、運動時など必要な際にエネルギー供給に寄与する白色脂肪組織 [いわゆる一般に”脂肪”と呼ばれているもの(WAT)]と、ミトコンドリアを豊富に持ちエネルギーを熱に変換して熱産生を行い、体温維持に貢献する褐色脂肪組織(BAT)の2種類が存在します。これまで成人にはBATは存在しない(新生児期や乳児期には豊富に存在するが成長するにつれて消退する)されていましたが、近年、画像診断技術の発達により成人にもBATの存在が確認されました。さらに、肥満の程度とBATの活性化のレベルは逆相関すること、寒冷刺激によるBAT活性化を継続すると肥満が改善されることなどが報告され、肥満解消のターゲットとして非常に注目を浴びる存在になりました。
 WATは多種多様な液性因子(アディポカインと呼ばれています)を分泌し、アディポカインに対する肥満や運動の影響については多くの検討が行われていますが、BATから分泌される液性因子(ブラウンアディポカインと呼ばれています)については報告が少なく、肥満や運動による影響もほとんどわかっていません。私達はこのブラウンアディポカインにスポットをあて検討を行いました。
 褐色脂肪細胞から分泌される液性因子について質量分析装置を用いて網羅的解析を行ったところ、ガレクチン3 (Lgals3)やLgals3 結合タンパク質(Lgals3bp)をはじめとする様々なブラウンアディポカインが分泌されることがわかりました。次に、C57BL/6Jマウスを対照群、4ヵ月間の高脂肪食(脂肪含量60%)摂取による肥満群と高脂肪食摂取 + 運動群に分け、脂肪食摂取 + 運動群には高脂肪食摂取と回転かごでの自発運動走を4ヵ月間施行しました。各マウスの肩甲骨間よりBATを採取し、DNAアレイ解析を用いて遺伝子発現の解析を行った結果、Lgals3やLgals3bpなどの遺伝子発現が、肥満群のBATで大きく上昇しましたが、自発運動走はそれらの発現増加を有意に減弱させることがわかりました(表1)。

表1

さらに、肥満群のBATではペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ共役因子-1αなどの褐色脂肪細胞分化(分化:幹細胞から役割を持つ細胞に変化すること)関連因子の発現低下も観察されましたが、運動はそれらの発現低下を抑制しました。一方、褐色脂肪細胞で人工的にLgals3を増加させるとコントロール細胞よりも中性脂肪の合成が高まり、Lgals3bpを増加させるとミトコンドリア量が減少することが明らかになりました。以上のことから、運動は肥満によるブラウンアディポカインの発現異常を減弱することが明らかになり、Lgals3とLgals3bpは褐色脂肪細胞の分化に関わることが推測されました。これらの発見は、肥満・生活習慣病の予防・改善ツールである運動の新たな有用性を推奨できるエビデンスであると思われます(図1)。

図1

掲載論文
発表雑誌:International Journal of Molecular Sciences [22(19):10391, 2021]
論文タイトル:Physical Activity Attenuates the Obesity-Induced Dysregulated Expression of Brown Adipokines in Murine Interscapular Brown Adipose Tissue
筆 者:Takuya Sakurai, Toshiyuki Fukutomi, Sachiko Yamamoto, Eriko Nozaki and Takako Kizaki
(櫻井拓也1、福冨俊之2、山本幸子3、野崎江里子4、木崎節子11衛生学公衆衛生学教室、2薬理学、3化学教室、4共同研究施設))
DOI: 10.3390/ijms221910391

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