山田 真嗣(法医学教室 助教)
日本にはおよそ800万人の喘息患者がいると推測されます。治療法の進歩により、喘息による死亡者は減少していますが、一方で、従来の治療が効きにくい喘息の存在や、死亡者に占める高齢者の増加が注目されています。また、近年では、生物学的製剤の普及を背景に、喘息の個体差(フェノタイプ)への関心が高まっています。さらに、世界的には喘息患者は増加傾向にあり、欧米諸国では乱用薬物(コカイン、ヘロイン、マリファナなど)による誘発喘息が問題となっています。このような背景から、法医解剖において喘息を正しく診断することの重要性は増しています。
本研究では、法医学的な視点から、心筋梗塞や外傷など他の突然死の原因と喘息を区別するため、2型炎症のバイオマーカーとして知見が集積しているTARC(thymus and activation-regulated chemokine)の測定の有用性を検討しました。同時に、喘息患者のフェノタイプとの関連性についても調査を行いました。その結果、喘息患者の血清中のTARC値および非特異的IgE抗体値は心筋梗塞や外傷と比べて高値を示し、診断バイオマーカーとしての有用性が確認されました(図1)。また、喘息患者の血清TARC値とBMIのあいだには負の相関性が認められたほか、男女間で有意差があり、女性患者には肥満傾向がみられることが明らかとなりました(図2)。男女を問わず肥満が重症喘息のリスクであることは知られていますが、特に治療が効きにくいとされる肥満女性の非2型炎症フェノタイプは、喘息の死亡例において重要な位置を占めている可能性が示唆されました。
さらに本研究では、気道炎症の組織学的分類、カットオフ値の設定、死後経過時間が測定結果に及ぼす影響などを含め、血清TARC測定を法医実務へ応用するための総合的な検証を行い、法医学領域ではじめてその有用性を報告しました。この成果をもとに、2型炎症が関与する類縁疾患の剖検診断への血清TARC測定の適用について、さらなる検討を進めています。
発表雑誌: | Forensic Science International.[2024 Oct 29:365:112276.] |
論文タイトル: | Diagnostic value of serum thymus and activation-regulated chemokine (TARC) in fatal asthma. |
筆 者: | Atsushi Yamada, Kyoka Kiryu, Satoshi Takashino, Masaki Yoshida, Toshiaki Takeichi, Osamu Kitamura (山田真嗣、桐生京佳、高篠智、吉田昌記、武市敏明、北村修) |
DOI: | 10.1016/j.forsciint.2024.112276. |
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