教室概要
脳卒中に特化した脳・神経疾患の臨床系教室です。脳卒中には、脳の血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」、脳血管が詰まる「脳梗塞」があり、脳神経内科、脳神経外科、循環器内科、血栓止血、神経放射線、リハビリテーションなど、包括的な知識が求められます。日本の国民病として重要性を増している脳卒中について、系統的かつ効率的な教育を実践しています。
教育の特色
脳卒中学の進歩は著しく、内科外科の枠組みを超えて最新の知見を習得できるよう1年次、3年次、4年次に座学の機会を設けています。年々アップデートされる最新知見についても、up to dateに習得できるカリキュラムとしています。BSLでは診療チームの一員として脳梗塞緊急治療(tPA静注療法、機械的血栓回収療法など)の実際を体験してもらっています。
社会的活動
脳卒中は日本人が寝たきりに至る原因疾患の第2位、死因の第4位であり、国民病とも言えます。予防や初期対応に関する一般市民向け啓発活動(公開講座、メディア出演ほか)、行政と協力した救急搬送システム整備、院内では高度先進医療(tPA静注療法、機械的血栓回収療法、ほか)と他科多職種が共同したチーム医療の実践、地域完結型のシームレス医療連携体制構築、などを通じ、包括的脳卒中センターの責務を果たしています。
教室員の主な学会活動の場は、日本脳卒中学会、日本神経学会、AHA/ASA International Stroke Conference、European Stroke Organization Conference、World Stroke Congress(WSO)、Asia Pacific Stroke Organization (APSO)です。
研究テーマ
脳梗塞急性期の脳組織評価に基づく治療法開発
発症直後の脳梗塞例に対するt-PA(組織プラスミノゲン・アクチベータ)静注および機械的血栓血栓回収療法(カテーテル治療)に取り組み、その成績向上に向けた様々なシステム整備やその効果検証を行っています。治療可能時間が延長されていますが、脳組織評価に基づいたテーラーメイド医療を開発中です。
次世代薬を用いた脳梗塞急性期血栓溶解療法の開発(T-FLAVOR)
現在、t-PA静注療法に用いているアルテプラーゼは血栓親和性、投与法、出血リスクについての課題が残されています。改良型t-PA製剤であるtenecteplaseはボーラス投与が可能でアルテプラーゼよりも閉塞血管を再開通させる効果が高いことが報告されています。AMEDからの資金を得て杏林大学と国立循環器病研究センターを基幹施設とする多施設共同研究を実施中です。
脳梗塞に対する抗血栓療法の最適化に関する研究
脳梗塞の抗血栓療法(抗血小板療法、抗凝固療法)について、血小板凝集能検査、凝固・線溶マーカー、神経超音波検査、脳血流検査などを用いた病態解析を行い、最適な薬物療法の選択とその効果検証を行っています。
急性期脳出血に対する新規薬物療法(FASTEST)
発症直後の脳出血例に対する国際共同研究(FASTEST)に参加しています。
がんと脳卒中(Stroke Oncology)
日本脳卒中学会で2020年に組織されたStroke Oncologyに関するプロジェクトチームと、日本がんサポーティブケア学会で2022年に設立されたStroke Oncologyワーキンググループの中心的役割を担っています。がんと脳卒中はともに頻度の高い国民病ですが、治療の進歩により余命が延長していますが、その診療には様々な課題があることが明らかになってきました。問題解決に向けた活動を開始しています。
CT灌流画像の共同研究
急性期脳梗塞症例の治療適応を考える上で、脳画像の重要性が増しています。虚血コアとペナンブラの評価は治療選択に重要な役割を果たします。よりよい画像診断のために共同研究/開発を行っています。また、急性期灌流画像の国際レポジトリ研究であるINSPIRE(私たちと関連の深い豪州のMark Parsons教授が研究主任)にも参加しています。灌流画像の評価は患者個々で異なる治療時間枠の判断に欠かせないものであり、現場にフィードバックできる知見を多く得ています。
近年の主な業績
- Johno T, Kawano H, Nagahama K, Kubota H, Hirano T. Acute Large Vessel Occlusion Caused by Giant Floating Aortic Thrombus. Stroke. 2024;55(4):e117-e118.
- Kawano H, Honda Y, Johno T, Maruoka H, Nakanishi K, Saito M, Ogata K, Yamamichi A, Kawatake A, Hirano T : Antiplatelet Therapy May Be Insufficient to Prevent Stroke Recurrence Before Percutaneous Patent Foramen Ovale Closure. J Stroke. 25(2). 307-310. 2023.
- Kawano H, Adachi T1, Saito M, Amano T, Gomyo M2, Yokoyama K2, Shiokawa Y, Hirano T (1Department of Radiology, Kyorin University Hospital, 2Department of Radiology, Kyorin University) : Correlation between pretreatment and follow-up infarct volume using CT perfusion imaging: the Bayesian versus singular value decomposition method. Neurol Sci. 44(6). 2041-2047. 2023.
- Kawano H, Hirano T : Minimal Imaging Requirements. J Neuroendovasc Ther. 17(11). 243-256. 2023.
- Hirano T, Kasner SE1 (1University of Pennsylvania): Stranger than fiction, Clonal Hematopoiesis of Indeterminate Potential, and small vessel pathology. Stroke 53(3). 798-799. 2022.
- Kawano H, Hirano T, Inoue M1, Fukuda-Doi M1, Iwasaki K2, Omae K1, Yamamoto H1, Koga M1, Sakai N3, Nagao T4, Sasaki M5, Hayakawa N1, Toyoda K1, T-FLAVOR investigators (1National Cardiovascular Center, 2Osaka University, 3Kobe City Medical Center General Hospital, 4Nippon Medical School Tamanagayama Hospital, 5Iwate Medical University): Tenecteplase versus alteplase for large vessel occlusion recanalization (T-FLAVOR): Trial protocol. Eur Stroke J. 7(1):71-75. 2022.
- Nakajima S1, Kawano H, Yamashiro K2, Tanaka R3, Kameda T4, Kurita N1, Hira K1, Miyamoto N1, Ueno Y1, Watanabe M2, Hirano T, Fujimoto S3, Urabe T2, Hattori N1 (1Juntendo University, 2Juntendo University Urayasu Hospital, 3Jichi Medical University, 4Shin-Oyama City Hospital): Post-Treatment Plasma D-Dimer Levels Are Associated With Short-Term Outcomes in Patients With Cancer-Associated Stroke. Front Neurol. 13:868137.2022.
- Kawano H, Ebisawa S, Ayano M, Kono Y, Saito M, Johno T, Maruoka H, Ryoji N, Yamashita H, Nakanishi K, Honda Y, Amano T, Unno Y, Komatsu Y, Ogawa Y, Shiokawa Y, Hirano T: Improving Acute In-Hospital Stroke Care by Reorganization of an In-Hospital Stroke Code Protocol. J Stroke Cerebrovasc Dis. 30(1). 105433. 2021. DOI: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2020.105433.
- Johno T, Kawano H, Hirokawa T, Shibahara J, Hirano T: Intracerebral hemorrhaging due to coagulopathy caused by latent advanced prostate cancer. Intern Med. 60(11). 1763-1767. 2021. DOI: 10.2169/internalmedicine.5838-20.
- Saito M, Kawano H, Amano T, Hirano T: Acute stroke caused by progressive intracranial artery stenosis due to Varicella Zoster virus vasculopathy after chemotherapy for malignant lymphoma. Intern Med. 60(11). 1769-1773. 2021. DOI: 10.2169/internalmedicine.6365-20.
- Nakanishi K, Kawano H, Yamagishi Y, Kamma H, Shiokawa Y, Hirano T: Tumor cells detected in retrieved thrombus: A case of cancer-associated stroke. Intern Med. 60(15). 2491-2494. 2021. DOI: 10.2169/internalmedicine.6201-20.
- 平野照之:新型コロナウイルス感染症と脳卒中.血栓止血誌.33(1).57-59.2022.
- 河野浩之,平野照之,高野利実1,辻哲也2,成田善孝3,藤本茂4,塩川芳昭(1がん研有明,2慶應大,3国立がん研究センター,4自治医科大):がんと脳卒中を合併する症例の治療者側の意識と診療実態に関する全国調査.脳卒中.2022.
- 海野佳子:【片頭痛治療のパラダイムシフト】抗CGRPモノクローナル抗体・抗CGRP受容体モノクローナル抗体の特性と臨床効果「フレマネズマブ(Ajovy)」.CLINICAL NEUROSCIENCE.40(5).591-594.2022.
日本語の解説・書籍など
- 平野照之(企画):令和の脳卒中ディベート10番勝負 脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る.ⅿedicina.60(3).医学書院.2023.
- 海野佳子:薬剤乱用頭痛の診断と治療.脳神経内科.98(4).518-524.2023.
- 河野浩之,塩川芳昭,平野照之:脳卒中と関連する病態 がんと脳卒中.脳神経内科.98(5).708-714.2023
- 平野照之:脳神経内科における予防医療 脳血管障害と予防医療.神経治療学.40 (2) .86-91.2023.
- 平野照之,井口保之1,板橋亮1,猪原匡史3,岩間亨4,小野賢二郎5,古賀政利6,辻野彰7,波多野武人8,河野浩之,日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会静注血栓溶解療法指針改訂プロジェクトチーム(1東京慈恵会医大,2岩手医科大,3国立循環器病研究センター,4岐阜市民病院,5金沢大学,6国立循環器病研究センター,7長崎大,8小倉記念病院):静注血栓溶解(rt-PA)療法適正治療指針 第三版 2023年9月追補.
- 井口保之1,岩間亨2,大木宏一3,片岡大治4,河野浩之,山上宏5,河村朗夫6,福井重文7,赤木禎治8,金澤英明9,原英彦10(1東京慈恵会医科大,2岐阜大,3東京都済生会中央病院,4国立循環器病研究センター,5国立病院機構大阪医療センター,6国際医療福祉大,7藤田医科大,8岡山大,9慶應義塾大,10東邦大学医療センター大橋病院)日本脳卒中学会,日本循環器学会,日本心血管インターベンション治療学会 三学会合同手引き作成委員会:潜因性脳梗塞に対する経皮的卵円孔開存閉鎖術の手引き 第2版.脳卒中.45(6) .511-537.2023.