大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ皮膚科学教室

研究室・研究グループ紹介:皮膚科学教室

臨床医学の教室が研究室をもつ意義とは何なのでしょうか。臨床と研究は全く別のものであると考えている方も多いかも知れませんが実は密接に結びついています。研究活動を通じて眼前にある現象への理解を深め、何が問題なのかを見つけ出しそれを解決する能力を培うことは、臨床の現場において、病態に洞察を加え問題を明確にし、最適な治療を選択する能力につながるものであると考えます。特に皮膚科学では発疹とその背後にある病理を総合的に解釈する力をもつことが診断力に不可欠であることから研究をすることは臨床医としての能力を高める近道であるとさえ言えるかもしれません。それを支援するのが研究室です。

また研究には最新の知識が不可欠であることから、従事することで論文や学術書を読破する力が養われ、学会発表、論文作成の過程を経験することで思考を整理する能力が培われます。

大学院への進学は学位取得が目標であることは言うまでもありませんが、研究のトレーニングを濃密に効率良く行うことができる点で実力の向上を志す医師・医学者にとって大変魅力的なプログラムであると言えるでしょう。当教室では、大学院生に限らず教室員に何らかの研究活動に携わることを奨励しています。研究というと実験室でピペットをもって試薬を混ぜ合わせる姿を想像する向きもあるかもしれません。しかし、症例の検査データを丁寧に解析し隠れていた病態をあぶり出す、過去の論文を集積し統計学的解析を加えることで治療の最適化を志すなどといった机に座って考えることも立派な研究なのです。

言うまでもありませんが、研究にはテーマが必要です。特に臨床医学を目指す者にとって、成果をベッドサイドに直接還元できるテーマをもつことはモティベーションを保つためにも大切です。当教室では、この点を重視しこれまでも臨床直結型の研究を行ってきました。この観点から、現在教室として力を入れているテーマは「皮膚疾患(難治性脱毛症、重症薬疹、皮膚悪性腫瘍)の病態把握、予後予測に役立つバイオマーカーの同定」、「皮膚疾患モデルの作成とそれを用いた新規治療法の開発」「組織幹細胞、ヒトiPS細胞を用いた皮膚付属器再生技術の確立」「発汗と皮膚疾患・感染症と皮膚疾患の関連性の解明」です。

これらのテーマに沿うプロジェクトの実現には免疫学・再生医学の技術だけでなく、倫理的配慮に基づき採取される臨床検体の採取が必要ですが、当教室研究室には長年の研究活動の間に整備されたリソース・ノウハウがあります。

研究課題

1.皮膚疾患の病態把握・予後予測に役立つバイオマーカー・因子の同定

a)難治性脱毛症

広汎性円形脱毛症、特に急速進行型では患者のうける精神的ストレス、社会的影響が大きく治療へのニーズは極めて大きいと言えます。しかし、治療に対する反応性、効果の予測は困難なのが現状です。治療早期から予後を知ることができれば効果的な治療を行うことができます。そのためのマーカー・因子の同定は極めて重要な課題と言えます。最近では、重症円形脱毛症の予後予測因子を同定し、それを用いた治療の最適化を試みています。

b)重症薬疹

当教室は薬疹研究の長い歴史をもち、重点的に研究に取り組んできました。特に塩原哲夫名誉教授の指導のもと、薬剤性過敏症症候群について、6型ヒトヘルペスウイルスなどの潜伏ウイルスの再活性化が病態に深く関与していることを世界に先駆け示した実績があります。また、中毒性表皮壊死症、Stevens-Johnson症候群などの致死的となることも多い重症薬疹について早期診断、予後の予測に役立つマーカーの同定を症例検体の系統的解析により試みています。

c)皮膚悪性腫瘍

皮膚悪性腫瘍とくにメラノーマに対して近年、患者自体がもつ抗腫瘍免疫応答を活性化する治療法が行われるようになってきました。これまで治療が不可能と考えられていた進行期の症例に適応があり大変期待されている治療である反面、中毒疹のような腫瘍以外の臓器に対する免疫応答を生じることも知られています。この治療の効果や副作用を予測するための方法を確立することができれば医療者、患者双方にとって大きなメリットとなります。

2.皮膚疾患モデルの作成とそれを用いた新規治療法の開発

皮膚疾患モデルとしてはマウスを用いたin vivoモデルと培養細胞を用いたin vitroモデルの系があります。 動物モデルとしてC3H/HeJマウスを用いた円形脱毛症マウス、培養細胞系として上皮・間葉系のヒト毛包細胞の共培養系を用いた脱毛症治療薬のスクリーニング系の技術があり、これらを用いて発毛促進効果のある物質の同定を目指しています。またヒト細胞は採取できる細胞に限りがあるためヒトiPS 細胞から分化誘導した細胞で代用するシステムの構築を目指しています。

図 ヒト頭部(毛包)組織を移植したモデルマウス

3.組織幹細胞、ヒトiPS細胞を用いた皮膚付属器再生技術の確立

皮膚と毛包・爪・汗腺などの付属器は再生を繰り返す組織・器官であることから再生医療の実現の可能性が高いと考えられています。本学共同研究施設フローサイトメトリー部門の協力のもと、組織幹細胞を分離培養し3次元構造を再構成することにより皮膚・付属器を再生し疾患の治療に活用する技術の開発を心掛けています。また、日本学術振興会からの研究支援(科研費)をもとにヒトiPS細胞から皮膚・付属器を再生し疾患の治療に活用する技術の開発を行っています。

図 教室で維持しているヒトiPS細胞

4.発汗と皮膚疾患・感染症と皮膚疾患の関連性の解明

塩原哲夫名誉教授の指導のもと、アトピー性皮膚炎患者の多くで温熱負荷による発汗の増加が認められないことを見出し、これが皮膚の乾燥を助長するなどして発疹の増悪につながる可能性を見出し、むしろ発汗を促すことで症状が改善することを報告してきました。発汗傷害に関してはその他多くの皮膚疾患の発症に寄与している可能性を追求しています。また、ウイルス感染と自己免疫性皮膚疾患、マイコプラズマ感染と陰部潰瘍といったこれまで想定されていなかった感染症と皮膚疾患の関連を見いだしてきています。また蜂窩織炎の病型と起因菌の関係についても検討しています。

業績(代表的なもの)

  1. Ohyama M, Matsudo K, Fujita T.: Management of hair loss after severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 infection: Insight into the pathophysiology with implication for better management. J Dermatol. 2022 Oct; J Dermatol. 49(10). 939-947.
  2. King B, Ohyama M, Kwon O, Zlotogorski A, Ko J, Mesinkovska NA, Hordinsky M, Dutronc Y, Wu WS, McCollam J, Chiasserini C, Yu G, Stanley S, Holzwarth K, DeLozier AM, Sinclair R; BRAVE-AA Investigators.: Two Phase 3 Trials of Baricitinib for Alopecia Areata. N Engl J Med. 2022 May 5;386(18):1687-1699.
  3. Mizukawa Y, Aoyama Y, Takahashi H, Takahashi R, Shiohara T.: Risk of Progression to Autoimmune Disease in Severe Drug Eruption: Risk Factors and the Factor-Guided Stratification. J Invest Dermatol. 2022 Mar;142(3 Pt B):960-968.e9.
  4. Shimoda-Komatsu Y, Yamazaki Y, Kimishima M, Mizukawa Y, Ohayma M: Clinicopathological digital image analyses before and after thermal stimulation subdivide acquired idiopathic generalized anhidrosis into inflammatory and non-inflammatory type. J Dermatol Sci.2022 Oct;108(1). 12-21.
  5. Fukuyama M, Ito T, Ohyama M.: Alopecia areata: Current understanding of the pathophysiology and update on therapeutic approaches, featuring the Japanese Dermatological Association guidelines.J Dermatol. 2022 Jan;49(1):19-36.
  6. Kinoshita-Ise M, Fukuyama M, Ohyama M.: Distinctive age distribution and hair loss pattern putatively highlighting uniqueness of Japanese cases of fibrosing alopecia in a pattern distribution. J Dermatol. 2022 Jan;49(1):106-117.
  7. Sato Y, Kinoshita-Ise M, Fukuyama M, Yamazaki Y, Ohyama M: Development of a scoring system to predict outcomes of i.v. corticosteroid pulse therapy in rapidly progressive alopecia areata adopting digital image analysis of hair recovery. J Dermatol 48(3): 301-309, 2021.
  8. Shimoda-Komatsu Y, Yamazaki Y, Kimishima M, Tsukashima A, Ohyama M: Digital-immunohistological dissection of immune privilege collapse in syringotropic autoimmune diseases: an implication for the pathogenesis. J Dermal Sci 101(1): 30-39, 2021.
  9. Mizukawa Y, Kimishima M, Aoyama Y1, Shiohara T: Predictive biomarkers for cytomegalovirus reactivation before and after immunosuppressive therapy: A single-institution retrospective long-term analysis of patients with drug-induced hypersensitivity syndrome (DiHS)/drug reaction with eosinophilia and systemic syndrome (DRESS). Int J Infect Dis 100: 239-246, 2020.
  10. Fukuyama M, Kinoshita-Ise M, Sato Y, Ohayama M: Elucidation of demographic, clinical, and trichoscopic features of self-healing acute diffuse and total alopecia facilitating the early differential diagnosis. J Dermatol 47(6): 583-591, 2020.
  11. Shimoda-Komatsu, Y, Mizukawa Y, Takayama N1, Ohyama M: Cutaneous adverse events induced by azacitidine in myeodysplastic syndrome patients: case reports and a lesson from literature review. J Dermatol 47(4): 363-368, 2020.
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