大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ小児外科学教室

研究室・研究グループ紹介:小児外科学教室

小児外科教室では、ヒルシュスプルング病を主な研究テーマとしています。ヒルシュスプルング病は先天的に腸管内の神経節細胞が欠損するために、生まれた時から頑固な便秘を生じる病気です。なぜこのような病気が発生するのか(病因)、またなぜ便秘になるのか(病態)はいまだ十分解明されていません。

現在の研究課題

ヒルシュスプルング病腸管における糖脂質の分布

糖脂質は細胞膜を構成しており、細胞間の接着や情報伝達に重要な役割を果たしています。ヒルシュスプルング病においては、腸管内の神経芽細胞の遊走や分化が停止したり、抑制されている可能性があります。そこで細胞膜を構成する糖脂質に対する各種抗体を用いて、正常腸管やヒルシュスプルング腸管における糖脂質の分布を研究しています。

ヒルシュスプルング病腸管における HPC-1/syntaxin の局在

ヒルシュスプルング病腸管では神経節細胞が欠損している部分の腸管では正常な腸管に比べて過剰な神経線維が存在しています。なぜ病気の腸管で神経線維が増生してくるのかはわかっていません。そこで生理学の赤川先生の教室と連携し、神経の発芽をコントロールしている HPC-1/syntaxin という蛋白質の局在を病気の腸管で染色し、神経増生の原因を探求しています。

これまでの研究成果

電子顕微鏡による腸管壁内神経節細胞の正常発生

ラット胎児の腸管を用いて、正常な神経節細胞の発生を電子顕微鏡を用いて検討しました。その結果、腸管の輪状筋が発生する以前の胎生早期から神経叢の発生が始まり、形態学的にも分化することが分かりました。これは従来、神経節細胞は腸管の筋層間を頭側から尾側に遊走するとの光学顕微鏡での研究結果を覆すことになりました。

組織化学による腸管壁内神経節細胞の正常発生

神経節細胞や神経繊維に特異性をもつアセチルコリンエステラーゼ染色を用いて、ラット胎児腸管の神経節細胞の発生を電子顕微鏡で検討しました。その結果、神経節細胞のアセチルコリンエステラーゼ活性は胎生とともに徐々に増強し、成熟していることが分かりました。

ヒルシュスプルング病腸管の電顕組織化学

手術で摘出した病変部腸管、正常部腸管、その間の移行部腸管についてアセチルコリンエステラーゼ染色を行った後に電子顕微鏡で観察しました。その結果、ヒルシュスプルング病腸管では増生した神経繊維の終末部が平滑筋に近接して存在し、神経筋接合部を形成していることが分かりました。これは、ヒルシュスプルング病では外来神経は平滑筋と接合しないとの従来の説を覆す結果となりました。

腸管の神経節細胞発生過程における細胞外基質

ヒルシュスプルング病の発生には、神経節細胞の発生に欠かせない細胞外基質に異常があるのではないかとの仮説をたて、複合糖質に選択的に結合するレクチンを用いて検討を行いました。ラット胎児腸管のレクチン染色では、神経叢の分化が明らかとなる時期に一致してN-グルコシド型糖鎖構造が神経叢とその周辺に増強することが確認されました。

ヒルシュスプルング病腸管における複合糖質

ヒルシュスプルング腸管では正常部腸管に比べ N-グルコシド型糖鎖構造をもつ複合糖質が減弱していました。この結果よりヒルシュスプルング病の発生には細胞外基質の異常が示唆されました。

ヒルシュスプルング病の遺伝子解析

いろいろな先天性疾患で遺伝子の異常が指摘されています。ヒルシュスプルング病でも各種の遺伝子異常が報告されていますが、いずれも欧米からの報告で日本発のこの病気に関する遺伝子異常に関する研究はありませんでした。そこで生化学の脇坂先生の教室と共同で日本で初めてこの病気の遺伝子異常に関して検索し発表しました。これまで欧米で報告のあった RET, EDNRB, EDN-3, GDNF, Endothelin-3 の5種の遺伝子異常を検索しましたが、この遺伝子の異常のみではこの病気の発生を説明することはできませんでした。この病気の発生にはおそらく未知の遺伝子の異常か、もしくは腸管が発生してくる時の各種の環境因子の異常も関与していると考えられます。

業績

  • Tanaka H, Ito Y, Nirasawa Y, Kawakami H, Hirano H.
    Importance of N-linked sugar residues in the development of Auerbach's plexus in the rat colon: a lectin histochemical study. Histochem J. 2002 Mar-Apr; 34(3-4): 111-6.
  • Nirasawa Y, Ito Y, Fujiwara T, Seki N, Tanaka H, Akagawa K.
    Altered immunoreactivity of HPC-1/syntaxin 1A in proliferated nerve fibers in the human aganglionic colon of Hirschsprung's disease. J Mol Neurosci. 2001 Feb; 16(1): 13-9.
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