大学ホーム医学研究科教育・研究指導研究室・研究グループ呼吸器・甲状腺外科学教室

研究室・研究グループ紹介:呼吸器・甲状腺外科学教室

私たち臨床医が携わる研究には、大きく分けると臨床研究とトランスレーショナル研究(基礎と臨床をつなぐ)があります。臨床研究には、これまでの治療成績をまとめることで見えてくる予後予測因子などを明らかにする後ろ向き研究(アウトカムリサーチとも言います)や、あらかじめ研究の目的やゴールを設定し、患者さんの協力を得て行う前向き研究があります。後ろ向き研究で臨床的に意味のある課題を抽出し、その課題(研究テーマ)を解決するために何ができるのか考える、さらに前向き研究として検討する、といった一連のプロセスを大切にしています。

大学院は、答えが分かっていないことや未知のことを明らかにするための方法や思考法を身に着けるところです。学位取得は、研究テーマを通して得られるスキル、学びのプロセスの結果ですので、入学すれば学位が取れる、といった安易な考えではすぐに行き詰まってしまいます。当研究室では、まずその点を大学院入学前に十分話し合い、研究テーマを決定します。

初期臨床研修を修了後、通常3年間の大学内外での臨床研修を積んで外科専門医を取得します。当科入局医師には、6年目以降で大学院進学を検討されることを期待します。博士号取得後の進路は、国内外の留学を含めて様々な選択肢の相談に応じます。

呼吸器グループ

当科は全国レベルの多施設臨床研究を行うJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)に所属し、数多くの医師主導型臨床研究や臨床治験などに参加することで日本の肺癌外科治療のエビデンス作りに寄与してきました。

今後肺癌の腫瘍増殖の分子メカニズムを標的とする治療(分子標的治療)や、免疫本来の力を回復させることによる治療(免疫療法)などが主流となることから、我々外科医の役割も変容していくことが予想されます。そこで、肺癌の術式(切除方法、リンパ節郭清)に関する研究を推進します。また、高齢化に伴い、癌そのものだけでなくフレイル、サルコペニアの病態と癌治療との関連も現在研究を進めています。

基礎的な研究テーマとしては、病理・細胞形態学的な解析と予後因子の解明や各種遺伝子異常との関連を網羅的に解析する研究や、気管支鏡検査で採取した細胞検体を用いた遺伝子解析と臨床病理学的な諸因子との関連性に関する研究、液状化検体細胞診(Liquid-based Cytology: LBC法)を用いた遺伝子解析と最適な核酸の保存条件に関する研究に取り組んでいます。今後、これらの検体を用いた人工知能(Artificial Intelligence; AI)による診断支援の開発にも取り組んで行く計画です。

当院は動態X線画像撮像装置(コニカミノルタ社)を全国でも先駆けて導入しており、呼吸による胸郭運動や横隔膜の動きを評価することが可能になっています。肺切除術前後の呼吸動態を詳細に調べることで、呼吸筋の回復程度や呼吸筋のサルコペニアの評価に生かすための検証を行なっています。

甲状腺グループ

甲状腺癌の罹患率は世界的に上昇しています。甲状腺癌の進行は一般的に緩徐ですが甲状腺癌においては、がん遺伝子(BRAF、RAS遺伝子等)が高齢者・大きな腫瘍・高度な浸潤・進行がんに多く見られることもわかってきています。当科では現在、甲状腺癌の遺伝子学的背景とバイオマーカーの探索、特にTERTプロモーター変異と多型が腫瘍の増大・進行に影響しているかを臨床病理学的ならびに実験病理学的に明らかにするべく病理学教室と共同で研究を行っています。内分泌腫瘍はしばしばホルモン産生能をもち、腫瘍の増殖とホルモンの調節系の間にはクロストークがみられます。このクロストークは内分泌腫瘍の分化度や増殖速度とも関連し、そのメカニズムの解明は内分泌腫瘍の分子標的治療へ発展することが期待されます。甲状腺腫瘍の個々の症例における特有の腫瘍関連遺伝子の異常、およびホルモン調節遺伝子の変化を明らかにすることを目的とし、腫瘍の増殖とホルモン機能に関る受容体や調節因子等の発現や役割を調査し、腫瘍の悪性度を予測する情報を得る。そして遺伝子異常と腫瘍の病理組織、分類との関係を明らかにするべく研究を進めています。

「専攻医の声」

私は元々外科系への入局を考えていましたが、最終的に呼吸器・甲状腺外科への入局を決めた理由は、理想となるような指導医に出会えたことに加え、将来的に自分がやっていきたいと思える手術を見て、なおかつそれを若い先生方が執刀しており早い段階から手術経験 を積むことができると考えたからです。入局してからは、同期とも協力しながら日々のタスクをこなしています。医局員が少ない分、日々の業務は他科と比べると多いかもしれませんが、幸いにも私含め 3 人も入局したことでうまく業務を分担することができています.手術準備も含め至らない点が多いです が,指導医の先生方に指導していただいております。今後は、手術手技の向上だけでなく、大学病院にいるからこそできる症例経験や、学会発表の経験を積んでいきたいと考えています。

「大学院生の声」

大学院卒業博士号取得(女性医師)

子育てが一段落ついたところで、甲状腺腫瘍の基礎を一から学び直す良いチャンスだと思い卒後24年目で大学院へ進学しました。ちょうど病理学教室と共同研究をさせていただく機会を得て、「甲状腺腫瘍の増殖・悪性度の分子マーカー」に関するテーマをいただきました。

レジデント時代を思い出しながら、病理標本の切り出し・診断からご教授いただき、患者さんの血液とパラフィン包埋標本からDNAを抽出して解析する実験を行いました。昔と違って今はDNAの抽出キットは充実していますが、それでもピペットを持つのは何十年振り?という状況で、慣れるまで何度か失敗しながらのスタートでした。行った実験結果をまとめて相関関係が示されたりまたは示されなかったり、いずれにせよ結果を出して、考察できた時は考えることの大切さを痛感し、達成感を感じました。

社会人大学院生という立場で、臨床と研究で4年間はあっという間に過ぎ去りました。

振り返れば、この4年間は十数年間、育児・家事に追われていた時間を、さまざまな知識を増やし、勉強する姿勢を取り戻す時間に変えた貴重な期間だったと思います。

「学びに年齢はない。」そうお考えくださる理解ある指導者と同僚の先生方のおかげで学位申請まで辿り着くことができました。まだまだ、ゴールではなくここからがまた新たなスタート地点だと思っています。

大学院4年生(女性医師)

私は2020年度に大学院へ入学し、外科学分野(呼吸器・甲状腺外科学コース)を専攻しました。私の現在行っている研究を踏まえ、大学院生活について紹介したいと思います。私の大学院入学の理由は、大学でできることをするという単純なものでした。そのため、大学院に入学したものの、「興味があるもの」を見つけられずにいました。そのような時、X線動画像とういう"動くレントゲン"が当院に新しく導入されました。肺癌と言えば、病理学や分子生物学、遺伝子解析等の研究が盛んに行われてきましたが、X線動画像という今までにない装置であり、研究してみたら面白いのではと思いました。

どんなことでも新しいものを始めるときは、前例がないゆえに、初めは上手くいかないことや、壁にぶち当たることがあります。しかし、当教室の先生方は非常に協力的で、こうした方が良いのではといつもアドバイスをくださり、定期的に進捗状況を確認し、軌道修正をしてくださいます。入学前は手術や病棟業務に追われ、研究というものを考えたことすらありませんでしたが、実際に入学してみて、研究の大変さを実感するとともに、面白さも実感しています。一時的であっても臨床の現場を離れることに不安はありましたが、同じ疾患でもいつもとは違う角度から研究・分析するということは大学院生の今しかできず、長い医者人生の中で今後の糧になるのではと思っています。

当教室では必要であれば病棟フリーの取得や、他施設への短期留学など臨機応変に対応していただけるので、非常に恵まれた環境で研究に取り組むことができます。これから大学院への入学を考えている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。外科学分野(呼吸器・甲状腺外科学コース)はいつでも同志を求めています。

大学院卒業博士号取得(男性医師)

専門医を取得し、いよいよ本格的な呼吸器外科の修練を開始する医師7年目の春、私は敢えて大学院へ進学しました。もともと、「がんを治したい」という思いから、根治性の高い手術療法を武器にする外科医になりました。しかし狡猾な「がん」に勝つためには、「がん」をさらに深く知る必要があると考えました。そこで、基礎医学の視点から勉強し直したいと考え、近藤晴彦先生のご紹介で国立がん研究センター研究所(築地)へ2年半、国内留学することができました。実験ノートの記入もままならない程の初心者でしたが、受け入れラボの牛島俊和先生をはじめ、スタッフや同僚の研究者に親身に教えて頂き、研究をどのように進めていくものか学びました。

私のテーマは乳がん細胞株を用いて、細胞内の呼吸(解糖系や酸化的リン酸化)と、薬剤奏効性とを結びつけることでした。仮説を立て実験を繰り返し、得られた結果を吟味する。終電に揺られながら、結果の解釈について論文を片手に理論を練り続ける毎日でした。定期的に回ってくる成果発表や抄読会の英語プレゼンの準備は大変でしたが、夜中の珈琲談義で同僚から貴重な助言をもらい乗り越えました。行き詰った時には、「実験をやり続けることが大切である」という指導教官の言葉に何度も鼓舞され、学位論文を仕上げた時の達成感は生涯忘れないと思います。今年度、医局の先生方の肩を借りて呼吸器外科医として再スタートを切ることができました。現場から一度外れても、温かく復帰を支えてくれる仲間に恵まれたことが本当に幸せですし、その恩返しとして、様々な背景をもつ若手外科医が安心して研究と臨床に打ち込める環境を作っていきたいと考えています。

大学院2年生(男性医師)

私は今までは実臨床のみに重点をおいて研鑽を重ね、医師として12年目となりました。自分の臨床能力には少しずつ自信がついてきた一方、日々の診療の中で迷いが生じることや後悔することは未だに少なくありません。その答えを見つけたい、そして今後の患者さんに生かしていきたいという思いから大学院への入学を決意しました。

実臨床で感じる課題の一つとして「リスクが多くある患者さん、高齢な患者さんに手術を行うべきか否か」ということが挙げられます。耐術能評価について教科書に多くのことが載っています。しかし、時に最終的な耐術能の判断を我々の主観で決めざるを得ない微妙なケースがあります。抗がん剤治療においては遺伝子の変異等に合わせて個別化医療が益々進んできています。手術の適応についても高齢者社会に合わせ再考していく必要があるのではないかと考えています。

昨今、筋肉量の低下や筋力の低下した状態であるサルコペニアの方では様々な病気で予後が悪いことがわかってきています。サルコペニアの有無やその関連因子をCT画像や分子生物学的に解析し、手術適応を考慮するうえでの客観的な評価基準の一助として利用できないかを検討していくことが私の研究テーマです。答えがないことを探求していく事はとても忍耐力がいりますが新しい発見への喜びもあり、指導教官の先生と月2-3回程度のミーティングを重ねながら、臨床とはまた違う充実した日々を送っています。

近年の業績

  1. Tanaka R,Fujiwara M,Sakamoto N,Suzuki H,Tachibana K,Ohtsuka K,Kishimoto K,Kamma H,Shibahara J,Kondo H: Cytomorphometric and Flow Cytometric Analyses Using Liquid-based Cytology Materials in Subtypes of Lung Adenocarcinoma. Diagn Cytopathol 50:394-403, 2022. doi: 10.1002/dc.24978
  2. Tanaka R, Fujiwara M, Nakazato Y, Arai N, Tachibana K, Sakamoto N, Kishimoto K, Kamma H, Shibahara J, Kondo H: Optimal Preservations of Cytological Materials Using Liquid-Based Cytology Fixatives for Next-Generation Sequencing Analysis. Acta Cytologica 12:1-9, 2022. doi: 10.1159/000524137.
  3. Shibuya Y, Machida H, Yoshiike S, Suda K, Tanaka R, Fujiwara M, Yokoyama K, Kondo H: Pulmonary Artery Aneurysm Diagnosed by Dynamic Digital Chest Radiography. Ann Thorac Surg. 113: e87-e90, 2022. doi: 10.1016/j.athoracsur.2021.04.091.
  4. Shibuya Y, Hirano K, Machida H, Miyamoto M, Watabe K, Mitsuma T, Nakazato Y, Tachibana K, Tanaka R, Kondo H: Bilateral recurrent laryngeal nerve paralysis diagnosed using dynamic digital radiography during the COVID-19 pandemic. Clin Case Rep. 10:e6124, 2022. doi: 10.1002/ccr3.6124.
  5. Tanaka R,Ohtsuka K,Ogura W,Arai N,Yoshida T,Nakazato Y,Tachibana K,Takata S,Fujiwara M,Kamma H,Shibahara J,Kondo H: Subtyping and EGFR mutation testing from blocks of cytological materials, based on liquid-based cytology for lung cancer at bronchoscopic examinations.Diagn Cytopathol.48:516-523. 2020. DOI: 10.1002/dc.24397.
  6. Arai N,Kawachi R,Nakazato Y,Tachibana K,Nagashima Y,Tanaka R,Okamoto K,Kondo H: A rare post lobectomy complication of right to left shunt via foramen ovale.Gen Thorac Cardiovasc Surg.68:1337-1340. 2020. DOI:10.1007/s11748-019-01238-9.
  7. Tanaka R, Sakamoto N, Suzuki H, Tachibana K, Ohtsuka K, Kishimoto K, Fujiwara M, Kamma H, Shibahara J, Kondo H: Genotyping and Cytomorphological Subtyping of Lung Adenocarcinoma based on Liquid-based Cytology. Diagn Cytopathol.47:564-570,2019.DOI:10.1002/dc.24154.
  8. Tanaka R, DeAsis F, Vigneswaran Y, Linn J, Carbray J, Denham W, Haggerty S, Ujiki M: Video review program enhances resident training in laparoscopic inguinal hernia: a randomized blinded controlled trial. Surg Endosc 32:2847-2851, 2018. DOI: 10.1007/s00464-017-5992-0.
  9. Tanaka R, Tachibana K, Suda K, Kondo H, Noguchi M: A severe combined immunodeficiency disease mouse model of human adenocarcinoma with lepidic-predominant growth. Pathol Res Pract 214:2000-2003, 2018. DOI: 10.1016/j.prp.2018.09.021.
  10. Miya T, Kondo H, Gemma A: Serum iron levels increased by cancer chemotherapy correlate the chemotherapy-induced nausea and vomiting. Int J Clin Onco 23: 1196-1200, 2018. doi: 10.1007/s10147-018-1321-4.
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