教室主任の細金直文教授(脊椎・脊髄、脊柱変形)、森井健司教授(骨軟部腫瘍)をはじめ常勤医22名、非常勤医24名が在籍し、運動器疾患の臨床・教育・研究に携わっております。
臨床は脊椎脊髄診療班、骨軟部腫瘍診療班、膝関節診療班、肩・股関節診療班、外傷診療班にわかれて、研究や学会活動を通じて最新の知見や技術を修得し、これらを日常診療に還元することで難治疾患に対しても安全に治療を行えるよう取り組んでおります。
脊椎脊髄診療班では側弯症・後弯症などの脊柱変形疾患、低侵襲手術手技を用いた治療や新規術式の開発、脊髄モニタリングを用いた難治疾患の治療などに取り組んでいます。
骨軟部腫瘍診療班は、骨や軟部組織に発生する原発性腫瘍や転移性の腫瘍が治療の対象です。地域医療機関や院内関連診療部門と緊密に連携をとり、個々の患者さんの病態に応じて薬物療法、放射線療法、手術療法を適切に選択し、最善の結果を目指します。
膝関節診療班は、変形性膝関節症などの変性疾患からスポーツ障害まで幅広い疾患に対応しています。鏡視下手術を積極的に行い、地域でもトップクラスの症例数を誇ります。また当科で開発した人工膝関節インプラントを使用しております。
肩・股関節診療班は、肩関節症、腱板断裂に対する鏡視下手術や反転型人工関節、変形性股関節症、大腿骨頭壊死、リウマチ性股関節症などに対し人工関節置換術などの手術を行っております。また股関節脱臼や内反足などの先天性疾患、ぺルテス病、大腿骨頭すべり症などの小児の疾患の治療にも取り組んでおります。
外傷診療班は、整形外科の基本である骨・関節の外傷治療に対応し、教育、研究を通じて地域医療の中心としての責任を果たすよう努めています。また高度救命救急センターとも連携して、骨盤骨折、開放骨折、多発外傷の治療にも力を入れています。
当教室では毎年整形外科専門医を目指す研修医を募集しております。詳細は教室ホームページをご参照ください。
運動器系統講義、臨床総合演習講義、BSL、クリニカルクラークシップ等を通じて運動器疾患の基礎知識の習得、病態生理、診断方法、鑑別診断、治療選択の理解を目指し教育を行なっております。経験豊富な教室員に加え、関連病院に勤務するその分野のエキスパートによる最新の知見を交えた講義を行っております。BSLやクリニカルクラークシップでは、知識の習得にとどまらず、カンファレンスや手術に積極的に参加し実際の診察手技や考え方を学び、これらを併せて主訴からどのような疾患を考え、どのようにすれば鑑別でき最終診断にたどり着けるのか、自ら考える力を養えるような問題解決型思考を育成することを目指しております。
年に複数回、地域の医療機関との連携を目的とした研究会を開催し、当教室の診療状況を含めた情報交換を行っております。整形外科全般から脊椎脊髄疾患、骨軟部腫瘍、骨粗鬆症、関節リウマチ、スポーツなど各分野で高名な先生をお招きした講演会も定期的に開催し、近隣医療機関の先生方と一緒に最新の知見を習得し地域社会全体で医療の質を高められるように努めております。また、全教室員が日本整形外科学会及び各subspecialityの学会に所属し活躍しております。当教室は骨・関節の感染症の研究・診療にも力を注いでおり、日本骨関節感染症学会の事務局として学会の運営に協力しています。
成人脊柱変形手術に関する国際共同研究や骨粗鬆症性椎体骨折に対する手術成績と術後合併症の検討、DISHを伴う脊椎に対する新規スクリュー刺入方法(DEPS法)の開発、脊椎術後感染の危険因子の検討、術中脊髄モニタリングに関する研究などに対し、関連施設と多機関共同研究を行っています。
脊髄神経生理学分野では、選択的頚髄半切後に行動解析、電気生理学的評価、神経トレーシングを組み合わせて研究をしています。例えば、小児期と成人期の中枢神経損傷後の脊髄可塑性の違い、脊椎腫瘍モデルの麻痺発症のメカニズム解明などがあります。また統合生理学教室と共同で臨床患者データやタブレット端末を利用した上肢の運動機能解析の研究も行っています。生体力学的研究では肉眼解剖学教室と共同で、解剖体と有限要素法を用いた椎弓根スクリューの固定力の研究も行っています。
骨軟部腫瘍は、希少であることに加えて種類が大変多いため、新しい知見を得るためには、多機関共同研究が必要です。日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)や骨軟部肉腫研究会(JMOG)といった多機関共同研究グループに参加し、様々な研究に取り組んでおります。骨軟部腫瘍の治療は患者さんの体に負担となることが多く、手術や化学療法における合併症の発生率が他の疾患よりも高いことが知られています。当グループでは手術や化学療法を安全に行うため、臨床情報を収集・分析しています。
我々が取り組んでいる研究は、一人でも多くの患者さんの生命を救うこと、次世代の診断技術・治療の開発に応用可能な骨軟部腫瘍の特徴に関する情報を集積すること、治療を安全に行うこと、治療中および治療後の患者さんの良好な生活の質(QOL, quality of life)を維持することを課題としています。また、抗癌剤の有効な投与法を細胞レベルで解析するとともに、各種肉腫組織の遺伝子レベルの情報の集積/解析などを行っています。
当科で開発した人工膝関節(TEIJIN NAKSHIMA社)の研究を行っています。これまで膝の骨形態を計測し、日本人に適したサイズ設定をした杏林大学式人工膝関節=Venus Kneeを開発しました。臨床使用を2009年より開始し、症例数は1000例を超えました。現在はimage-matching法を用いて生体内の動作解析を行っており、正常膝に近い動態を示すことが証明されてきています。今後はこの人工関節が日本人の生活様式にあっている事を証明して行きたいと考えています。
家兎の仮骨延長モデルを用いて副甲状腺ホルモン製剤(PTH)の仮骨形成に対する影響を調査する研究をしています。これまでの研究成果でPTHが延長仮骨のリモデリングや力学的強度の増強に有効に作用することがわかりました。この研究結果は権威ある米国骨代謝学会のYoung Investigator Award受賞(Maruno, 2007)し、国際的に評価されました。今後も新たな仮骨延長法の開発、臨床応用に向けて更なる研究を続けています。また超高齢化社会における健康寿命延伸に重要なロコモティブシンドロームに関する臨床研究も行い、地域の老人クラブと協力し運動介入の有効性や問題点の検証を行っています。
高齢者骨折と骨粗鬆症との関連性を重要視し、成績不良因子となり得る骨粗鬆症の程度を術前に評価して治療法に反映することを目的とした研究を行っています。高齢化社会を迎えた我が国において年間約20万人に発生するとされる大腿骨近位部骨折は大きな社会問題になっています。治療法として多く選択される骨接合術の臨床成績には大きな差異がみられます。我々は、本骨折における骨接合術が画一的な治療になり易いことを問題視し、個々の骨粗鬆症の程度に応じた治療法を術前に選択できるようにするため様々な研究に取り組んでいます。