井上 信一 (感染症学 講師)
小林 富美惠 (感染症学 教授)
マラリアは、世界で毎年2億人が発症し、うち43万人以上が死に至る世界的に極めて重要な感染症である。マラリア根絶にはマラリアワクチンが重要となるが、有効なマラリアワクチンが開発出来ていない。この現状を打破するために、マラリア防御免疫機構の詳細を解明することが極めて重要である。ガンマデルタT細胞(γδ TT細胞)は、細菌やウィルスや寄生虫などの様々な病原体に対する免疫応答において重要な役割を担う自然免疫様リンパ球の一つある。マラリア患者において、脾臓や末梢血でのγδ T細胞数が増加することから、マラリアとγδ T細胞の関連性が示唆されていたが、マラリアにおけるγδ T細胞の役割の詳細は未解明であった。これまで我々は、マウスマラリアモデルを用いて、γδ T細胞がIFN-γの産生とCD40 Ligandの発現により樹状細胞の活性化を促進することで、IFN-γ産生性ヘルパーT細胞の免疫応答(Th1応答)が強く誘導されることによってマラリア原虫の効率的な排除に寄与しているという感染防御機構を提唱してきた(概要図1; Inoue et al. PNAS 2012& Inoue et al. FEBS Lett 2014)。今回、我々は、このマラリア防御免疫に重要なγδ T細胞は、Vγ1+ γδ T細胞(T細胞レセプターの1つであるTCR Vγ1を発現する細胞)であることを発見した。本研究により、このVγ1+ γδ T細胞は感染初期に活性化してIFN-γ産生能を向上させるものの、感染後期になるとIFN-γ産生能が低下し、さらに抑制性レセプター群(PD-1, LAG-3, TIM-3)を強発現して、γδ T細胞疲弊を引き起すことが明らかになった(概要図1&2)。また、感染後の樹状細胞へのIFN-γ刺激が影響してγδ T細胞の疲弊につながることを示した。これまで、この”γδ T細胞疲弊”を引き起す感染実験モデルの作出に成功したという報告はなく、今回、我々がマウスマラリアモデルを用いて世界に先駆けて報告することが出来た。今後、この感染実験モデルを用いて、γδ T細胞疲弊という免疫現象の詳細と、それがマラリア防御免疫にどのように影響しているのか解明されることが期待出来る。
本研究は、科研費若手研究(B)、科研費基盤研究(C)、戦略的国際科学技術協力推進事業(SICP)、加藤記念バイオサイエンス振興財団、守谷育英会の助成を受けて実施されました。
発表雑誌: | European Journal of Immunology [ Vol.47(4), pp.685 – 691 (2017) ] |
論文タイトル: | Preferentially expanding Vγ1+ γδ T cells are associated with protective immunity against Plasmodium infection in mice. |
筆 者: | Inoue Shin-Ichi, Niikura Mamoru, Asahi Hiroko, Iwakura Yoichiro, Kawakami Yasushi, Kobayashi Fumie. (井上 信一, 新倉 保, 朝日 博子, 岩倉 洋一郎, 川上 泰, 小林 富美惠) |
DOI: | 10.1002/eji.201646699 |
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