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Faculty of Medicine腸管上皮を適切な状態に維持するニッチ細胞が持つ特徴的な糖鎖を発見

菅原大介(解剖学教室助教)

研究のハイライト
  • 腸管幹細胞の増殖と分裂の制御に重要なニッチ細胞に発現する糖鎖の実態を明らかにした。
  • 本研究で見出されたニッチ細胞に特徴的な糖鎖は、幹細胞の制御に関与することが考えられた。

概要

 小腸と大腸は、食物を消化し、栄養分と水分を吸収します。このような腸管の機能の多くは、その内腔を覆う上皮細胞が担います。そのため、上皮細胞が常に適切な状態に維持されることがとても重要です。腸管の上皮細胞は数日で新しい細胞と全て入れ替わり、その速度は体内で最も速いものです。腸管の幹細胞が生涯にわたり絶えず分裂増殖し続けることにより、全ての上皮細胞が生み出され、腸管の機能が維持されています。
 糖鎖は、ガラクトースやN-アセチルグルコサミン、フコースなどの単糖が鎖状につながった分子です。生体ではタンパク質や脂質に付加された、糖タンパク質や糖脂質として存在します。ヒト体内のタンパク質の半分以上は糖鎖が付加された糖タンパク質です。糖鎖の異常は、タンパク質の生理学的な機能を変化させ、疾病に繋がることも報告され、我々の健康を維持する上で重要な分子です。
 しかし、糖鎖の構造(種類)は多様で複雑であり、遺伝子やタンパク質に比べ、解析が難しい生体分子の一つです。我々は、臓器や組織を構成するどの細胞に、どのような構造の糖鎖が発現するか、また、その糖鎖がどのような生理学的な機能をもつか検討してきました。難しい糖鎖の解析を進めるために、レクチンというタンパク質を活用しています。レクチンは糖鎖の構造を見分け、それぞれ特定の構造の糖鎖に結合します。糖鎖の研究において、とても有用な分子です。

 本研究では腸管における糖鎖のはたらきを明らかにする目的で、腸管に存在する多くの種類の糖鎖のうち、フコシル化糖鎖に関して検討しました。腸管の上皮細胞が発現するフコシル化糖鎖は、腸の機能と密接に関係することが報告されています。しかし、未解明な部分が多く残されています。フコシル化糖鎖にも様々な種類がありますが、今回は特にFucα1,2Galβ1,3-構造をもつフコシル化糖鎖に着目しました。この糖鎖に対し特異性に結合するレクチンであるrBC2LCNを利用し、マウス腸管における糖鎖の発現状況と分布を免疫組織化学的な手法により詳細に調べました。  検討の結果、rBC2LCNレクチンは、一部の腸管上皮細胞のみに反応することがわかりました。rBC2LCNレクチンが反応する細胞がどのような細胞であるか解析した結果、ニッチ細胞のマーカー分子であるc-Kitを発現することを明らかにしました。ニッチ細胞は、幹細胞とシグナルの授受などにより幹細胞の増殖・分裂の制御を担う重要な細胞です。これまでニッチ細胞にどのような糖鎖が発現するかよく分かっていませんでしたが、本研究からその実態が明らかになりました。
 さらに、この糖鎖は、小腸ではニッチ細胞内の極限られた部位―トランスゴルジ領域のみに存在すること、大腸ではすべてのニッチ細胞ではなく、一部のニッチ細胞のみに発現することも明らかになりました。また、他の種類のフコシル化糖鎖に結合するレクチン3種類と反応する部位を比較したところ、rBC2LCNレクチンのように反応するレクチンはありませんでした。rBC2LCNレクチンが結合する糖鎖は非常にユニークな発現分布をすることもわかりました。これらの結果は、腸管におけるこの糖鎖の分布と発現が厳密に制御されていることを示唆します。この糖鎖がニッチ細胞にとって重要な意義をもつこと、つまり、ニッチ細胞による幹細胞の制御に関与することが考えられました。
 本研究から、rBC2LCNレクチンが認識するフコシル化糖鎖がニッチ細胞を特徴づけるユニークな糖鎖であることが明らかになりました。腸管上皮を適切に維持するためには、ニッチ細胞は幹細胞と同様に重要です。ニッチ細胞のフコシル化糖鎖が幹細胞制御においてどのような機能をもつか、さらに解析することで、幹細胞制御のメカニズムに関する新たな知見の獲得、また、腸疾患の病因・病態の理解につながると期待されます。

本研究は、以下の助成を受けて実施されました。
・平成27~29年度科研費若手研究B(15K18959)「腸管における糖タンパク質の多様性と機能に関する組織化学的研究」
・平成27年度地神芳文記念研究助成金(特定非営利活動法人酵母細胞研究会)


掲載論文
発表雑誌:Glycobiology[vol.27,pp.246-253(2017)]
論文タイトル: Mouse intestinal niche cells express a distinct α1,2-fucosylated glycan recognized by a lectin from Burkholderia cenocepacia
筆者:Daisuke Sugahara,Yuka Kobayashi,Yoshihiro Akimoto,Hayato Kawakami
(菅原大介、小林夕香、秋元義弘、川上速人)
DOI:10.1093/glycob/cww116

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