Faculty of Medicine特発性ネフローゼを発症する動物モデルを初めて開発 〜新治療薬の開発に貢献する期待

成田 雅美 (小児科学教室 教授)
木内善太郎 (小児科学教室 助教)

研究のハイライト
  • 腎の糸球体上皮細胞膜上に発現する分子Crb2への刺激によるoutside-in signaling がマウスネフローゼを発症させた。
  • 本モデルは、ヒト特発性ネフローゼの病型である微小変化群と巣状分節性糸球体硬化症のいずれも発症させることができた。
  • 従来の非生理的物質によるモデルと異なり、生理的分子を介するシグナリング異常を背景とした世界初の特発性ネフローゼモデルである。

概要

特発性ネフローゼは小児と成人のいずれにも発症し、糖質ステロイド依存性の回避や末期腎不全への移行の阻止が臨床上の大きな課題になっています。小児科学教室の羽田 伊知郎 専修医、楊 國昌 客員教授などの研究グループは、腎臓の糸球体上皮細胞に発現している細胞膜貫通分子Crb2を細胞外から刺激することで、ヒト特発性ネフローゼと同様の病理像を示すマウスモデルを開発しました。本研究成果は、2022年8月19日にJournal of The American Society of Nephrology(米国腎臓学会雑誌)にオンライン速報版として掲載されました。
羽田 伊知郎 専修医らは、糸球体上皮細胞膜上に発現しているCrb2(上皮極性決定分子)のリコンビナント蛋白をマウスに免疫し、血中に抗Crb2抗体を誘導させました。その結果、免疫4週後からマウスにネフローゼレベルの蛋白尿がみられ、その病理像はヒト特発性ネフローゼの微小変化群と同様のものでした。さらに、高度蛋白尿を発症したマウスは血尿も併発し、その病理像は巣状分節性糸球体硬化症と同様のものでした。これらの蛋白尿の病態は、Crb2への抗Crb2抗体の結合により糸球体上皮細胞内のezrinのリン酸化亢進が惹起され、その結果アクチン構成機構を破綻させたことによると考えられました。
本モデルは、従来の薬剤やトキシンなどの非生理的物質によるものと異なり、糸球体上皮細胞の生理的分子を介するシグナリング異常を背景としたモデルです。本モデルの病態をさらに解析することにより、特発性ネフローゼの高度蛋白尿の原因になるシグナリング経路群の解明が可能になり、またこれらの経路に作用する薬物が新規の抗ネフローゼ薬として開発される期待があります。現在、ネフローゼ患者血清(血漿)中の抗Crb2抗体の存在に加えて、Crb2自身に結合する生理的活性分子を探索することにより、特発性ネフローゼの病因を同定する研究も行っています。

 
図1
図1. C3H/HeNマウスにリコンビナントCrb2を皮下注射した。免疫4週後から、マウスは糸球体上皮細胞足突起の癒合を伴うネフローゼレベルの蛋白尿を発症した。中等度蛋白尿を示したマウスの腎組織像は微小変化型であり、高度蛋白尿を示すマウスは必ず血尿を伴い、その病理像は巣状糸球体硬化型であった。ネフローゼマウスの糸球体上皮細胞の細胞膜上に、Crb2とIgGの同局在がみられた。さらに、培養糸球体上皮細胞を用いたin vitroでの再現実験により、抗Crb2抗体の結合によるCrb2自身の凝集とアクチンの偏倚が観察された。

掲載論文
発表雑誌:Journal of The American Society of Nephrology [2022 Nov 33(11):2008].
論文タイトル:A Novel Mouse Model of Idiopathic Nephrotic Syndrome Induced by Immunization with the Podocyte Protein Crb2
筆 者:Ichiro Hada1, Akira Shimizu21, Hiromu Takematsu3, Yukino Nishibori1, Toru Kimura4, Toshiyuki Fukutomi4, Akihiko Kudo5, Noriko Ito-Nitta1, Zentaro Kiuchi1, Jaakko Patrakka6, Naoaki Mikami1, Simon Leclerc7, Yoshihiro Akimoto5, Yoshiaki Hirayama8, Satoka Mori9, Tomoko Takano7, and Kunimasa Yan1
(1.小児科学, 2.日本医科大学, 3.藤田保健衛生大学, 4.薬理学, 5.顕微解剖学, 6.カロリンスカ医科大学, 7.マギル大学ヘルスセンター, 8.デンカ株式会社, 9.デンカイノベーションセンター)
DOI: 10.1681/ASN.2022010070

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