教室概要
当教室は、こどもたちの健康と家族全体の幸せのために、全人的かつ包括的医療を提供できる医師を育成することを目標にしています。
小児科は早産児・低出生体重児から幼児、学童、思春期を経て成人になるまでを対象としており、関連する疾患も多岐にわたります。本学には小児科の各領域を専門とする医師が在籍し、臨床・教育・研究に従事しています。
本学では救急外来を受診する一般的な疾患の患者、地域の医療機関から紹介される入院が必要な重症患者、診断に苦慮する患者など多くの疾患を経験することができます。また総合周産期母子医療センター内の新生児集中治療室(NICU)では、出生体重1,000g未満の超低出生体重児を直接診ることができるのも本学の特色の一つです。
教育の特色
子供は「ちいさな大人」ではありません。機能的にも成人とは異なる性質があります。生まれてから大人になるまでの間に、すべての器官・組織や機能が成長・発達し続けるのが「当たり前=正常」なのです。そのため小児科においては、疾患を学ぶ前にまず「正常な小児」の状態を知る必要があります。小児科の講義や臨床実習においても、小児は常に成長発達過程にある存在であるという視点を重視しています。
小児科の診療において医師は子供本人との関係だけでなく保護者との関係を築くことも重要です。自分で症状を訴えることができない乳幼児では、保護者が観察する症状を適切に聞き出すことが必要不可欠になります。臨床実習ではこのような観点から、保護者との対応についても考えてもらうようにしています。
将来小児科医にならないとしても、小児についての基本的な知識を習得し、子どもへの接し方を学ぶことは、どこかで役立つことでしょう。子供のことを正しく理解する医師がふえれば、より多くの子どもが幸せになるという思いから、小児科には教育熱心なスタッフがたくさんいます。臨床実習においては一方通行に学ぶだけでなく、双方向性にやり取りをしながら結論を導き、さらに新たな情報により方針を変更する、という実際の診療のスタイルを体験していただきたいと考えています。
社会的活動
多摩地区や西東京全域の医療機関と日頃から病診連携しています。また多摩小児科臨床懇話会(年3回)、多摩小児感染免疫研究会(年1回)を主催し、地域の小児科医に生涯教育を提供しています。東京都の小児救急相談事業、地域の児童虐待問題への協力も行っています。
地域保健活動の推進のために、自治体が実施する乳幼児健診、学校健診へ医師を派遣しています。保健所や保育園・幼稚園・学校の職員を対象とした医療課題についての研修会の講師を引き受けています。三鷹市、東京都などの行政機関に対して医学的な観点から専門的アドバイスを行っています。
小児科学会をはじめとした多くの専門分野の学会において、学術大会での発表や活発な議論を行っています。また学会の役員・代議員・委員会委員として各種の学会活動に貢献しています。
・当教室が主催した学会
2022年11月 第24回日本子ども健康科学会学術大会 大会長:成田雅美
2019年3月 第3回ポドサイト研究会 研究会長:楊國昌
2017年11月 第42回東日本小児科学会 会長:楊國昌
2017年6月 第52回日本小児腎臓病学会学術集会 会長:楊國昌
研究グループ及び研究課題
小児科学教室では専門分野の研究グループが、疾患の発症メカニズムや病態、治療反応性などを解明するための研究を行っています。
研究室では、分子生物学、タンパク質化学、動物実験、遺伝子探索などの基礎研究を行っています。当教室では医員や大学院生がこれまで数多くの国際レベルの成果を発表してきました。現在はおもにタンパク質のユビキチン化をコントロールする分子(USP40)、上皮細胞に発現し極性に関連する分子(CRB2)、糖質ステロイドにより誘導される新規分子(GLCCI1)などの機能解析および疾患との関連について研究を行っています。
この他多施設共同の臨床研究、各種疾患に関する症例集積観察研究、疾患の長期予後を観察する前向きコホート研究などを実施・計画しています。
アレルギー
食物アレルギーをメインテーマとしています。当院では経口食物負荷試験を年間250件以上実施しています。結果をデータベース化して傾向の把握を行い、臨床検査医学と共同で近年増加傾向にあるナッツアレルギーについても研究しています。また、新生児-乳児消化管アレルギー(新生児-乳児食物蛋白誘発胃腸炎)の症例を集積し、新規診断マーカーについて研究を行っています。その他、他施設と共同でアレルギー疾患の発症や進展に関与する因子の解析などにも取り組んでいます。
腎臓
糖質コルチコイド関連分子であるGlucocorticoid-induced transcript1(GLCCI1)の機能解析についての研究や、小児のネフローゼ症候群の発症に関わる免疫異常についての研究、および腎疾患における糸球体上皮細胞ポドサイトの機能解析に関する研究を行っています。また、本邦における小児腎疾患の原因解明のための多施設共同研究にも多く参加しています。
血液・腫瘍
新規の白血病治療の開発を目標とした研究を行っています。小児に多い急性リンパ性白血病は、長期生存率が80%を超え、治癒する可能性が高い疾患となり、他の悪性疾患の治療モデルにもなっています。しかし、治癒に至るメカニズムは解明されておらず、より洗練された治療や通常の治療では治癒を期待できない難治例に対する治療の開発が必要です。
近年、白血病細胞の中に、より未熟で、治療に対して抵抗性を持つ白血病幹細胞が存在することが明らかにされました。白血病の治癒のためには、この白血病幹細胞の根絶こそが必要と考えられます。血液班では、白血病細胞株を用いて、白血病幹細胞における薬剤抵抗性のメカニズムを研究しています。また、急性リンパ性白血病治療における最も重要なキードラッグはステロイド剤ですが、その作用機序については、まだ十分に明らかになっていません。このメカニズムを蛋白レベルで解明することにより、新規治療の開発を目指しています。
リウマチ・膠原病
リウマチ・膠原病は稀少な疾患であることから、その疫学や、治療の有効性・安全性を明らかにするために、多施設による疾患の集積が必要不可欠であり、当科においても小児リウマチ性疾患レジストリ研究に参加し、症例の登録を行っています。また、遺伝子検査により発見された病原性不明の遺伝子バリアントについては、培養細胞を用いた機能解析から病態解明に努めており、最終的には新たな治療ターゲットの発見を目指しています。
神経
- 新生児や小児のてんかん症候群の診断と治療を積極的に行うため、多施設共同研究(昭和大学など)に参加しています。「てんかん症候群の原因解明と治療法開発」
- 新生児や小児の中枢神経系の先天奇形の診断と治療を積極的に行うため、多施設共同研究(昭和大学など)に参加しています。「脳形成障害の原因解明と治療法開発」
- 高アルカリフォスファターゼ血症・精神発達障害・てんかん発作を主訴とする先天性GPI欠損症の検査・診断を積極的に行うため、多施設共同研究(大阪大学など)に参加しています。「てんかん・高アルカリフォスファターゼ血症・精神運動発達障害等を呈する患者における遺伝子変異の検索と先天性GPI欠損症の病態解析 」
- 自閉症・発達障害を有する小児に対して、応用行動分析学に基づいた行動療法により行動変容をきたすことを検証し、最適な方法を解明しています。
循環器
先天性心疾患に関しては産婦人科の協力のもと的確な時期に胎児診断を行い、重症先天性心疾患の早期発見に努め専門医療機関と連携しています。画像診断、主に心臓超音波検査を用いて川崎病の心後遺症や全身疾患の心合併症の循環動態の評価を行っています。学校保健に定められている心臓検診に参加し、三鷹市や近隣の市区町村の児童生徒に対して精査医療機関の役割を果たしています。
内分泌
当研究室では、ステロイドで発現が増強する遺伝子GLCCI1の研究を行ってきました。ステロイドの副作用として糖尿病が発症する観点に基づき、細胞やマウスを用いて、インスリン分泌との関連について解析を行っています。
著明な低身長をきたす軟骨無形成症では、近年、CNPアナログ製剤(vosoritide; 商品名 ボックスゾゴ)が保険適用となりました。CNPアナログ製剤は、同疾患でのFGFR3遺伝子による過剰なシグナル伝達を抑制しますが、長期的な効果および安全性については現在解析中の段階です。当グループでは、その解析に協力させていただいております。また、性腺機能低下症や糖代謝異常を中心とした、原因遺伝子の解析を目的とする多施設共同研究に参加しております。
新生児分野
臨床で得られた情報の解析や、人工呼吸器による肺損傷の発生機序に関する基礎研究を行ってきました。現在も、AMED(日本医療研究開発機構)研究班や、海外を含む複数の多施設共同研究に参加しています。高頻度振動換気法(HFO)やneurally adjusted ventilatory assist(NAVA)を積極的に導入して、重症慢性肺疾患の減少を目指しています。
近年の主な業績
- Kiuchi Z, Tanaka E, Nunokawa S, Yoshida S, Hosaki A, Kogure T, Narita M. Pediatric frequent relapsing nephrotic syndrome with multiple cerebral infarctions accompanied by patent foramen ovale and cerebral venous sinus thrombosis: a case report. BMC Nephrol. 25(1):146, 2024
- Kiuchi Z, Nozu K, Yan K: H Jüppner. Bartter syndrome type 1 due to novel SLC12A1 mutations associated with pseudohypoparathyroidism type II. JCEM Case Reports. 1:1-7, 2023
- Takada M , Fukuhara D , Takiura T , Nishibori Y , Kotani M , Kiuchi Z, Kudo A, O Beltcheva, Ito-Nitta N, R Nitta K, Kimura T, Suehiro J, Katada T, Takematsu H, Yan K: Involvement of GLCCI1 in mouse spermatogenesis. FASEB J. 37(1):e22680,2023
- Ozawa Y, Miyake F, Isayama T: Efficacy and safety of permissive hypercapnia in preterm infants: A systematic review. Pediatr Pulmonol. 57(11):2603-2613, 2022
- Hada I, Shimizu A ,Takematsu H, Nishibori Y, Kimura T , Fukutomi T, Kudo A , Ito-Nitta N, Kiuchi Z, J Patrakka, Mikami N, S Leclerc, Akimoto Y , Hirayama Y, Mori S, Takano T, Yan K: A Novel Mouse Model of Idiopathic Nephrotic Syndrome Induced by Immunization with the Podocyte Protein Crb2. J Am Soc Nephrol. 33(11):2008-2025, 2022
- Takahashi S, Fukuhara D, Kimura T, Fukutomi T, Tanaka E, Mikami N, Hada I, Takematsu H, Nishibori Y, Akimoto Y, Kiyonari H, Abe T, Huber O, Yan K: USP40 deubiquitinates HINT1 and stabilizes p53 in podocyte damage. Biochem Biophys Res Commun 614:198-206, 2022.
- Mitsui K, Fukuhara D, Kimura T, Ando R, Narita M: Psoriasiform eruption with arthritis post infliximab use in Kawasaki disease. Pediatr Int. 64(1):e15232, 2022
- Yoshino H, Gemma Y, Miyazawa N, Bessho F, Yan K: Therapy-related acute megakaryoblastic leukemia with severe myelofibrosis. Pediatr Int. 64(1):e14842, 2022.
- Ogihara A, Miyata Y, Hosaki A, Narita M, Yan K: A Japanese case of multisystem inflammatory syndrome in children, Pediatr Int. 64(1):e14869, 2022.
- Eriko Tanaka, Tomoya Kaneda, Yuko Akutsu, Toru Kanamori, Mariko Mouri, Masaaki Mori: Juvenile-onset Systemic Lupus Erythematosus Accompanied by Secondary Thrombotic Microangiopathy. J Cell Immunol 2(5).254-258, 2020.
- Yoshino H, Nishiyama Y, Kamma H, Chiba T, Fujiwara M, Karaho T, Kogashiwa Y, Morio T, Yan K, Bessho F, Takagi M. Functional characterization of a germline ETV6 variant associated with inherited thrombocytopenia, acute lymphoblastic leukemia, and salivary gland carcinoma in childhood. Int J Hematol 112.217-222, 2020.
- Miyata Y, Hamanaka K, Kumada S, Uchino S, Yokochi F, Taniguchi M, Miyatake S, Matsumoto N. An atypical case of KMT2B‐related dystonia manifesting asterixis and effect of deep brain stimulation of the globus pallidus. Neurol Clin Neurosci doi.org/10.1111/ncn3.12334, 2019.
- Kiuchi Z, Nishibori Y Kutsuna S, Kotani M, Hada I, Kimura T, Fukutomi T, Fukuhara D, Kudo A, Takata T, Ishigaki Y, Tomosugi N, Tanaka H, Matsushima S, Ogasawara S, Hirayama Y, Takematsu H, Yan K: GLCCI1 is a novel protector against glucocorticoid-induced apoptosis in T-cell. FASEB J doi: 10.1096/fj, 2019.
- Kiuchi Z, Ogura M, Sato M, Kamei K, Ishikura K, Abe J, Ito S: No preventive or therapeutic efficacy of infliximab against macrophage activation syndrome due to systemic juvenile idiopathic arthritis. Scand J Rheumatol 48:246-248, 2019.
- Fukuhara D, Takiura T, Keino H, Okada AA, Yan K: Iatrogenic Cushing’s Syndrome Due to Topical Ocular Glucocorticoid Treatment. Pediatrics 139(2):e20161233, 2019.
- Hamano S, Nishibori Y, Hada I, Mikami N, Ito-Nitta N, Fukuhara D, Kudo A, Xiao Z, Nukui M, Patrakka J, Tryggvason K, Yan K: Association of crumbs homolog-2 with mTORC1 in developing podocyte. PLoS One 13(8):e02024002018, 2019.
- Miyata Y, Saida K, Kumada S, Miyake N, Mashimo H, Nishida Y, Shirai I, Kurihara E, Nakata Y, Matsumoto N: Periventricular small cystic lesions in a patient with Coffin-Lowry syndrome who exhibited a novel mutation in the RPS6KA3 gene. Brain Dev 40:566-569, 2018.
- Gemma Y, Bessho F, Yoshino H: Treatment of acute lymphoblastic leukemia in Down syndrome. Cogent Medicine 4:1304512, 2017.
- Takagi H, Nishibori Y, Katayama K, Katada T, Takahashi S, Kiuchi Z, Takahashi S, Kamei H, Kawakami H, Akimoto Y, Kudo A, Asanuma K, Takematsu H, Yan K: USP40 gene knockdown disrupts glomerular permeability in zebrafish. Am J Physiol Renal Physiol 702-715, 2017.
- Ito Y, Katayama K, Nishibori Y, Akimoto Y, Kudo A, Kurayama R, Hada I, Takahashi S, Kimura T, Fukutomi T, Katada T, Suehiro J, Beltcheva O, Tryggvason K, Yan K: Wolf-Hirschhorn syndrome candidate 1-like 1 epigenetically regulates nephrin gene expression. Am J Physiol Renal Physiol 312(6):F1184-F1199, 2017.
日本語の解説・書籍など
- 成田雅美:【 小 児 の ア レ ル ギ ー 】食 物 ア レ ルギーの発症予防と治療.日本医師会雑誌52巻5号 .521-524, 2023
- 細井 健一郎1:【今、改めて考える流産・死産・新生児死亡】新生児死亡の実情と課題.周産期医学53巻5号.735-740, 2023.
- 田中絵里子:【小児の治療方針】感染症 総論 尿路感染症. 小児科診療86巻春増刊.121-124, 2023.
- 川口明日香,成田雅美:【小児の治療方針】免疫・アレルギー アトピー性皮膚炎.小児科診療86巻春増刊.261-264, 2023.
- 成田雅美:【機能性食品とアレルギー】アトピー性皮膚炎と皮膚細菌叢および腸内細菌叢.機能性食品と薬理栄養16(2):62-65, 2022.
- 吉野浩:鉄欠乏性貧血. 小児内科(増刊号)54:828-832, 2022.
- 森久保美保,成田雅美:【夏の皮膚トラブル】アトピー性皮膚炎.チャイルドヘルス25(6):433-436,2022.
- 宮田世羽:研修医のためのクリニカルクイズ. 小児内科54(8)(増大号)1205-6, 2022.
- 那須ゆかり,成田雅美:【191の疑問に答える 周産期の栄養】新生児・乳児の栄養 食物アレルギー 妊娠中・授乳中の食事と児のアレルギーの関係.周産期医学52巻増刊:711-713,2022.
- 木村俊彦,成田雅美:【191の疑問に答える 周産期の栄養】産科編Q&A 妊娠全期間(Question 27) 生まれてくる子どものアレルギー疾患予防のために,妊娠中の食事にどんな注意が必要ですか? 周産期医学52巻増刊:61-62,2022.
当教室の詳細は、小児科学教室のホームページを御覧下さい。